これまでの事と、これからの事 -3-
場面により主人公名の表示が変わります
地球 :伽里奈
アシルステラ :アリシア
この学園祭が普通科最後の日となるのがとても残念だ。
4月からずっと自分に付き合ってくれたクラスメイト達への恩返し、と言うのは仰々しいけれど、皆で用意した喫茶店の出し物は成功させたい。
金曜日についてはエリアスからの話によると、食べ物は軒並み好評で、予定していた分は完売したそうだ。
今日と明日は外部からも人が来るので、昨日より材料は多めに用意されている。
それだけ接客も調理も回数が増えるけれど、クラスメイト達もやる気に満ちている。
昨日と比べて伽里奈が1人増えるだけだけれど、これはもう頑張るしかない。成功させて最後に皆で笑うのだ。
「んー、伽里奈君かわいい」
自前のメイド服を着て、エリアスに髪型をツーサイドアップにしてもらい、ほんの少しメイクをして貰うと、見ていた女子達が騒ぎ始めた。
「まるっきり女の子ね」
「こ、こいつ…」
男子も悔しそうに納得するようなメイドが完成した。
「昨日はエリアスも人気だったんだがな、…主に女子に」
エリアスもバッチリ男装が決まっている。顔は女性のまま。髪は肩甲骨の辺りからゆったりとした三つ編みにしている。
女性的なスタイルは隠しようが無いけれど、細めの伊達メガネを装着して、クールな雰囲気が女子ウケしているらしい。
「じゃあ頼むぞ」
「あーい」
* * *
クラスの出し物はメイド喫茶では無く、女子がメイドのような服装をしている、健全な、純然たる喫茶店だ。
コーヒーはコーヒーメーカーからだったり、紅茶はティーバッグ、ジュースは市販品だけれど、料理はたった一日で評判になるほどなので、朝から学生を中心に来客が続いている。
「これ、ちゃんとお店で出せるよね」
「冷凍だろ?」
「このソースは朝からちゃんと作ってたの見たぜ」
「ほら、あの子が」
伽里奈が出来上がったホットケーキを持って教室に入ってきて、注文のあったテーブルに置いていく。
「ごゆっくりどうぞー」
「なんかいい感じのホットケーキ」
ホットケーキはバターと蜂蜜と、ホイップだけというシンプルな作りで提供されている。ふっくら仕上がっていて、サイズも厚さもちょうどいい。
今度はエリアスがやって来て、クリーミーボロネーゼを3年女子のテーブルに置いていく。
「ごゆっくりどうぞ」
年下のハズなのに、背も高く大人びているエリアスに3年女子は熱い視線を送る。
まあ実際エリアスはずっと年上だけど。
残念ながらコンセプトにしていた男らしさは出ていないけれど、男装の麗人といった雰囲気がいいようだ。
「なんか人が多いなー」
次の料理を受け取りに伽里奈とエリアスは調理室に向かうが、喫茶店にはもう人が並んでいる。昨日はこんな事は無かったのだが。
「来てくれるのは嬉しいわね」
「そうだねー」
今日は周辺の住民や来年受験を考えている外部の人も来るし、大学や魔法術科からも来るから、全体的に人も多い。
他のクラスでもカレーだけをやっているお店もあるし、コーヒーに全てのリソースを割いた喫茶店もあって、飲食系は朝から人が来ている。
調理室に行けば、他のクラスの人達も忙しく動き回っている。
「ボクの当番まではあと1時間かー」
一番料理が上手い伽里奈を、一番人が来るであろう正午を挟んだ時間にシフトしたのだが、朝から人が来てしまい、今の調理担当はちょっと大変そうだ。
「カレーもいいけど、あのコーヒーすごいねー」
小樽市内でこだわりのコーヒー専門店をやっている家の女子がいて、店主であるお父さん監修の上、オリジナルブレンドの豆をわざわざコーヒーミルでガリガリやって、こだわりのドリップをして、運ばれていく。
そのかわり、伽里奈のクラスのコーヒーとは値段が違う。
「一点集中の発想も面白いなー」
作業が簡単というのもあるけれど、どっちもこだわっているのがいい。
出来上がった料理を持って教室に戻っていく、を何往復かしていると、教室前の列に見たことのある3人が並んでいるのが見えた。
2人はとりあえず声をかけず、料理をお客の席に置いてから、廊下に出た。
霞沙羅とフィーネとシャーロットだ。
フィーネはさすがに目立ちすぎるドレス姿では無く、伽里奈が以前に作ったセーターとスカートという、有名占い師であるとは解らない姿だ。
「か、伽里奈、なんて服装してるのよ」
シャーロットが来てからの数日は、あまり女子っぽい服は着ていなかったけれど、今日は全力で女子の服だ。
「説明はしておいたが、これがこいつの通常営業だぜ」
「我はこれでも構わぬぞ」
「ええーっ!」
「か、かかか、伽里奈アーシアだったの?」
3人から何人か後ろには一ノ瀬と藤井が並んでいた。
「伽里奈君、噂は聞いてたけど初めて見た」
「あ、わざわざ来てくれたの? 2人ともありがとー」
「なんかパスタが美味しいって聞いたのよ」
「ホットケーキもでしょ?」
「そうなんだー、ありがとねー。もうちょっと時間がかかりそうだけど」
霞沙羅の前には3組が待っている。まあ学園祭だし、そんなには待たないと思う。
* * *
霞沙羅達が教室に入る頃には、料理担当が伽里奈に変わった。
自分が提案した、館で作り慣れているパスタとホットケーキなので、調理の速度が上がった。
予め、人が変わったからといって、味は変わらないように準備はしてあるし、ホットケーキも作り方をマニュアル化したり、担当者に動画を配ってあるので、それを見て貰えば焦げたり生焼きになるような事は無い。
麵も一度に決まった量を、タイマー通りに決まった時間で湯がいて貰って、お湯の温度も決めてあるので、差は出ないようにしてある。
「はいどうぞ」
出来上がりもお手本を貼ってあるので、何とか再現して貰っている。
「ホットケーキはもう大丈夫だよー」
「はーい」
ちょっと横から口出しは必要みたいだけど、お客さんからのクレームも入っていない。
《高校で最初で最後の学園祭かー》
シャーロットが国に帰った後はどうなるか解らないけれど、普通科に帰ることは無いだろう。
だから今日と明日を楽しもう。
そして月曜日からはまた魔法術科に帰るのだ。
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