新しい入居者を迎えよう -3-
場面により主人公名の表示が変わります
地球 :伽里奈
アシルステラ :アリシア
学校を出ると、伽里奈は料理の話をしながらシャーロットを連れて、やどりぎ館に帰ってきた。
家族はあまり料理にこだわりがないけれど、魔術の勉強は当たり前として、気に入った料理があれば実家で作れるようにしたいと熱心に語ってくれた。
今の時間はまだシスティーしかいないから、館の説明はそのまま伽里奈がやる事にした。
一旦談話室に座ってもらって、一通りの設備を案内してから、実際に見て貰って、最後にシャーロットの部屋にやって来た。
「荷物の開封はどうするの? 手伝うよ。もしくはこのシスティーに頼む?」
「開封だけお願いするわ。設置とかは自分でやるの」
「ダメだと思ったら呼んでね」
「それと、温泉はもう入っていいの?」
「夜の12時から朝の6時以外なら自由にどうぞ。あと人のいない時間を狙ってやるけど、清掃時間はダメだよ」
「今日の清掃はもう終わりましたからね。ごゆっくりつかってきて下さい」
「じゃああとで入る」
長時間のフライトで疲れただろうし、入居者なんだから何度入ってもいいからと説明して荷物の開封を始めた。
予め送られてきていた荷物には衣服と本と趣味のモノが入っていた。これから冬だからと衣服は多め。雪はそれなりだけど気温は低いお国柄だから、防寒対策はバッチリ揃っている。
「クマのぬいぐるみが多いねー」
箱の一つからは大小様々なぬいぐるみのクマが出てきた。
「私大好きなの。本物のクマには会いたくないけど、伽里奈は本物に出会った事ある?」
「あるけど、追い払ってるよ」
「小樽のこの辺りには出ませんね。でもちょっと奥にいけばすぐ閑散としてますからね。冬眠前なので、変なところには行かない方がいいですよ」
「気をつけます」
ぬいぐるみは大事なのか、衣服は後回しにして早速机や棚に置き始めている。13才にして一人で日本に来て不安もあるだろうし、少しでも実家の部屋を再現して落ち着きたいのだろう。
「よかったらボクのぬいぐるみも貰ってね。クマだけじゃないけど、お隣のアンナマリーにはいくつもあげてるから」
「買ってるの?」
「手作りなんだけど。ボクの部屋の片隅に積んであるから、気が向いたら声をかけてね」
「変わった男子ね、姿も変わってるし」
「マスターは普通にスカートを履きますので気にしないでください。最終決戦でも黒のドレスを着ていましたから」
「最近はスカート減らしてるじゃん」
「ちょっと、変わってるのね」
雑談をしながら、とりあえずカーテンと枕とシーツを変えて、ベッドや机や棚にぬいぐるみを配置して、早速年頃の女の子らしいメルヘンな感じの部屋に変貌した。
衣類は最低限のモノだけ出して、今度の土日に本格的に収納する事にしたので、残された箱を部屋の隅っこに置いて、あとは持ってきた書籍や書類、PC等の日用品を設置して、今日の荷物開封は終わった。
「あのクマがお気に入りなの?」
一つだけ、布団に入って寝ているクマのぬいぐるみがある。アンナマリーもこういうことをやっているけれど、何か通じるモノがあるのだろうか。
「今日はあの子と一緒に寝るの」
「そうなんだ。旅の疲れもあるから、今日はリラックスしてゆっくり寝れるといいね。温泉は温度も適温だし、あとはのんびりしてるといいよ」
「はーい」
早速シャーロットは1人で温泉を満喫しにいき、伽里奈は庭の掃除を始めた。冬も近いので街路樹から流れてくる落ち葉が多いのだ。
* * *
温泉に入り、お茶をして、すぐに伽里奈の部屋からぬいぐるみを持っていき、ネコと遊び、とシャーロットは初日からリラックスをしてくれた。
ロンドンの家族にも到着の連絡をして、とやっていると夕飯の時間になり、食卓には入居者が集まってきた。
美人過ぎるエリアスと、独特な佇まいのフィーネにはちょっと近寄りづらさを感じていたけれど、年が近いアンナマリーには積極的に話しをしていた。アンナマリーも金髪で歳も近いという事もあって、シャーロットに気安さを感じているようだ。
「ネコを持って隣に来るのはやめてくれ」
一部、合わないところもあるけれど。
「えー、アマツちゃん大人しくて可愛いじゃない」
「にゃー」
シャーロットとは今日初対面の黒ネコ、アマツはさっきいっぱい遊んで貰ったから、もう気を許してしまっている。ロンドンの実家では室内犬を飼っているそうで、ペットの扱いは中々上手い。
やがて夕飯の準備が整い、全員で食卓についた。
「トンカツはこの世界のどこにでもある料理なのか?」
「こんなの日本にしかないよ。シャーロットは滞在中に日本食を満喫したいんだって」
「こいつの国はメシマズで有名でな。下処理もしない魚を刺しただけのパイとかあるんだぜ」
「それは一部の漁村とか田舎だけよ。都市部では食べないわ」
「ならこの館は安心だぜ。美味いものしか出てこないからな」
シャーロットのトンカツは、伽里奈が言った通り、最初から特別仕様になって出てきた。
お皿の上には半分は普通のトンカツ、半分は別の容器に入れられたカツ煮が置かれている。
サクサク衣のトンカツもいいし、柔らかでダシ汁を吸ったカツ煮もいい。
「アンナマリーさんはいいところの貴族なのでしょう。それでも伽里奈の料理は通じるの?」
「一度実家の屋敷に来て欲しいくらいには通じるよ」
料理の話をしながら、シャーロットは人生初となるちゃんとしたトンカツとカツ煮のハーフを美味しそうに食べている。お箸ではなくナイフとフォークでだけれど、食べやすいように、トンカツはもともとある程度切ってあるので、問題なく口に運んでいる。
国は違えど世界は同じだし、ある程度の知識を持っているのでシャーロットに抵抗は全くなかった。珍味系はわからないけれど、一般的な料理なら食べられないことはないだろう。
「小僧も、今回は楽じゃな」
トンカツをワインで楽しんでいるフィーネは、何人もの異世界人を知っているだけに、料理で困らない新入居者は珍しいと思っている。
「フィーネさんはどうだったんですか?」
「我は何でも喰らうからのう。先代も先々代も悪くはないが、今のところ小僧がベストじゃ。異国の娘よ、喰いたいモノがあれば遠慮なく言うがよい」
「え、ええ」
「実際、私もデザート系は色々と注文してるから、遠慮しなくていいわよ。それに伽里奈が知らないモノでも、すぐ対応してくれるから」
エリアスはカツ煮だ。
「知らないの募集中だよ」
今はちょっとネットを調べれば、メジャーな国の料理なら作り方はすぐに解る。動画をあげてくれる人もいるから、より解りやすい。
「ネコちゃんは普通ね」
アマツはカリカリとネコ缶の混合だ。
「ネコはさすがになあ。でもこいつ、イヌネコ用の薄味クッキー焼いたりしてるぜ」
「色々やってるのね」
日本の家庭料理に期待を抱いてやって来たシャーロットも実は、大丈夫だろうか、と心配していたけれど、まったく問題無く食べる事が出来ている。早速胃袋が支配されてしまいそうだ。
「あとはぬいぐるみだろ。伽里奈の部屋からは遠慮なく奪っていっていいんだぞ」
「さっき1つ持っていったよ」
「何だと、なら私もあとで行く。ところで何を持って行ったんだ?」
「ワンちゃんよ。このくらいの。会ってみたい日本犬がいて、それなの」
「柴でしょ。ぬいぐるみのは子犬だけど、ご近所に大人なのがいるよー」
「え、そうなの。絶対見に行く」
「道路を渡った向かいにもそれに似た北海道独自の白い奴がいるぜ」
「あやつはここでたまに預かっておるのう。大人しくてよいヤツじゃ」
「えー、そうなんだ、そうなんだ」
「伽里奈、とりあえず後で部屋に行くからな」
「はーい」
美味しい料理に会話もはずみ、この雰囲気に少し慣れて貰ったようだ。妙な存在感のあるフィーネはまだ苦手そうだけれど、まあこの癖の塊みたいな女神様はしかたない。それでも占い師という仕事柄もあるから、悪い人ではないと認識はしてくれたようだった。
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