新しい入居者を迎えよう -1-
場面により主人公名の表示が変わります
地球 :伽里奈
アシルステラ :アリシア
噴火についてはやれる事はやったので、後はもう国に任せるとして、やどりぎ館の方では新規入居者のシャーロットの来日が間近に迫っている。
やどりぎ館には数日前には予め言われていた荷物が届いていて、それは部屋の中に運び込んでいる。当日は追加の荷物を入れたキャリーケース1つでやってくるそうで、霞沙羅が車を出して新千歳空港まで迎えに行くことになっている。
やどりぎ館については、説明用に館関連と、小樽周辺の画像データを送ったら気に入ってくれた。
千年に迫るという歴史ある魔術師の家系、という事で、ロンドンではちょっとした屋敷のような家に住んでいるようだけれど、部屋のサイズも不満は無いという事だった。
「やっぱりこっちの人間だからテレビとかいう道具を置くのか」
「アンナマリーはいらない?」
「私はいらない」
館の生活にはもう慣れたアンナマリーも、テレビはよく解らないし、見ている暇はないので断られている。ただ、ここのところずっと談話室のテレビを使ってペンギンとか犬猫の動画は見ている。いちいち誰かにテレビの操作をして貰うのは申し訳ないけれど、アシルステラにはテレビなんか無いので、そのくらいでいいと思っている。
「こんなもんかなー」
管理人となってからの伽里奈にとっては初めての現地人新入居者。文化の違う遠い異国とはいえ、日本と同じ先進国に分類される国の人だから、無料貸出になっている小さめのテレビも置いた。
レポートの作成のために自分のPCを持って来るようだから有線LANもWi-FIも使えると伝えてある。
入居前最後の清掃もした。寝具用のシーツと枕は自分で持ってくるというので、とりあえずそのままにしておいた。後は入居を待つだけなので、部屋のドアを閉じた。
「セーターは作り始めてるんだけど、ペンギンを見に行くならコートもあげないとね」
「何でお前が女子向けのコートを持っているんだ?」
「霞沙羅さんの実家が服屋さんで、そこから貰ってるんだー」
新城家の家業は服屋さんというか、元呉服屋さんで、今はそこそこ知名度のあるファッションブランドをやっている。
霞沙羅の弟がデザイナー修行中で、伽里奈の男でもあり女でもある外見が気に入られていて、デザインの勉強を兼ねて服を作ってくれたり、勝手にコーディネイトをしてくれるのだ。
着用した写真を送ってあげれば、お礼にその服をくれるので、アンナマリーにあげるのは、その貰った内の一着だ。
「貰ったままであんまり着てないのがあって、今度見せるからどれか良さそうなの持っていってね」
身長は伽里奈の方が少し高いだけなので、アンナマリーにも問題無く着られるはずだ。
「ああ、わかった」
ペンギンも見たいけれど、ラスタルではあまり降り積もる事のない雪が思う存分見れるのかという期待感が高まってくる。それ対策で服をくれるというのであればありがたく貰って、雪を堪能しようと思う。
「折角ここに来たんだから、楽しい冬にしようね」
雪に関連したイベントがあるので、北海道の冬が初めてになる2人に色々と見せてあげようと思う。
* * *
それから数日が経ち、伽里奈は朝からシャーロットを空港まで迎えに行く準備をしていた。
今日は平日で、普通に学校はやっているけれど、下宿の管理人としてお迎えしなければいけないし、伽里奈もシャーロットと一緒に魔法術科の説明を受けなければならないので、正直言うと必要の無い授業は休ませて貰った。
霞沙羅は大学での講義がないので私服だが、伽里奈は制服を着て、車に乗り込んだ。
雪国での信頼性抜群なメーカー製の、AWD駆動でターボエンジンによる力強い振動を感じながら、高速道路を走り、新千歳空港に辿り着いた。
ロンドンから成田空港を経由して、乗ってくる国内線は空港情報によると15分遅れだそうで、到着ゲート近くでちょっと待たされることになった。
北海道の玄関口である空港は今日も相変わらず利用者が多く、到着ゲートから出てきた人達は、目的地に向かうためにいそいそと鉄道やバス乗り場に向かっていく。
「ロンドンと館が繋がるのがいつか解ったか?」
「もうちょっと時間かかるみたいですよ。でも時差がありますからねー、それを考えて行き来しないとダメですね」
館と繋がるのはシャーロットの自宅の近所にある路地裏が予定されている。それが繋がれば、やどりぎ館で寝泊まりする意味が無いような気がするけれど、そうはいかない時差というものが生じる。
異世界間の行き来はある程度時間の調整が効くのだが、同じ世界だとそれが出来ずに、リアルタイムに繋がってしまう。日本とロンドンの時差は9時間あるので、館から変な時間にロンドンに行こうとすると、向こうはまだ夜中だったりするので、その辺は気をつけないとダメだ。
「今日からすまないな」
「仕方ないです。ボクは管理人ですからね」
シャーロットの来日に伴って、国立小樽魔術大学付属高校の魔法術科に編入することとなり、明日から伽里奈も普通科から魔法術科へ編入となる。
所属するクラスは、家の事情や若い頃からの魔術経験者が集まるA組ではなく、高校から魔術の勉強を始めた生徒が集まるB組からE組の中から、友人や知人がいるという理由から、E組をあてがってくれた。
シャーロットはこの後いくつかのレポートやディスカッション、試験等を経て、来年の9月に大学へと飛び級していく予定だ。
ハッキリ言うとA組でも学ぶことが無いのに、所属するクラスがよちよち歩き集団のE組なのは、課題のレポートで教育論提出があるので、日本でごく普通の生徒が受ける授業を見て、それを参考にするためだ。
ただ、それだけでは延々つまらない授業を受けることになるし、教師の方のプレッシャーも大きすぎるので、緩衝材として伽里奈が間に挟まって、双方のサポートをする役割を担う。
「なんか一気に生活が変わっちゃったなー」
思えば日本に来てからのこの3年間の生活は平和だった。でもいつまでもこのままで終わらないという予感はしていたから、それが現実になっただけだ。
この前からずっと謝ってくるけれど、この半年ちょっと、普通科に在籍できた事について、霞沙羅は上手く手を回してくれたと思う。
向こうの世界に顔を出して、2年間一緒にいた5人も冒険者をやめて、それぞれの居場所にたどり着いて、それぞれの立場でこれからの平穏だけでは無い人生を歩んでいる所を目の当たりにしているから、自分も変わっていかないとダメだという意識は芽生えている。
これからは魔法学院にも関わらないといけないので、日本の学校を参考にしたいとも思っている。
そんな、今後の事を考えていると、ゲートから金髪の少女が出てきた。
「ようやく出てきたな」
チェックアウトも終わって、荷物も受け取り、シャーロットがちょっと疲れた様子で出てきた。
海外からの観光客の多い北海道なのに、厄災戦で羽田空港が壊滅した今もロンドンとの直行便が無いのが痛い。
「おう、ようこそ北海道へ」
「あら霞沙羅、お久しぶり。そっちの、女の子? が管理人さん?」
「説明してあるが男だぜ。相方に女はいるけどな」
「伽里奈=アーシアです。しばらくの間よろしくね」
「こちらこそ」
歴史ある国の、歴史ある家の天才少女なのに挨拶をした感じでは普通の女の子だ。同じく、歴史ある貴族の家で育ったアンナマリーとは違って癖も無さそうだ。
「一息入れなくていいか? まあ学校までは1時間以上かかるしな、疲れがあるなら車で寝ていればいいが」
霞沙羅の言葉を聞きながら、なぜかシャーロットの目線は何かを探している。
「なんか食べる?」
「え、えっと」
「カレーとか、あのお店は有名店なんだよ」
新千歳空港は空港でありながら道民も来るような観光名所でもあるから、お土産店だけでなく飲食店も多い。国際線で機内食は食べているだろうけれど、もうお昼時だ。
「霞沙羅さんも食べる?」
なんかモジモジしているシャーロットを見た霞沙羅は溜息を一つして
「ああ、食べていくか」
第二の腹ぺこさん登場の予感がした。
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