ドラゴンと火山とバーベキュー -5-
場面により主人公名の表示が変わります
地球 :伽里奈
アシルステラ :アリシア
「これを知られたらヒルダに恨まれそうだナ」
「内緒にしておきましょう」
無事に予定エリアの伐採を終えて、アリシア達はお昼ご飯のバーベキューを始めた。
石を組み上げて作った竈の上に鉄板を置いて、お肉と野菜を焼いていく。
野外での料理としてはアシルステラにもありそうな料理ではあるけれど、実際には無い。お肉は予めタレにつけられていて、焼くといい香りがしてくるし、口に入れると当然美味しい。
それとは別に、アリシアはワインを使ったフランベも見せてくれるし、ステーキ肉が焼けたのを、華麗なナイフ捌きで食べやすいサイズに切って提供してくれる。それを皆が好きな通りに取っては食べていく。
そして空いているスペースでは持ってきたご飯でガーリックライスも作り始めた。
問題になっていた野良ドラゴンも倒したし、これだけの面子がいれば、匂いが強い料理をしていても怖いモノなど無い。
また小さく噴煙をあげた山を見ながら、各自思い思いにバーベキューを楽しんだ。
「小樽ではもうこれが出来ぬ時が来るのじゃな…」
北海道はもう11月に入って、雪虫の時期も終わりかけているので、もうテラス席を撤去しなければならない時期になってしまった。そうなると庭でバーベキューは出来なくなる。
「でも鍋の時期が到来しますよ」
「そうであったな。火鍋、石狩鍋、水炊き、しゃぶしゃぶ、すき焼き…」
「気が早いな」
しかし雪の積もる庭を見ながらの鍋は、なぜああも美味しいのだろうか。鍋のシメはやっぱりうどんだな、とアリシア手製のウインナーを食べながら、霞沙羅はもう雪の日のことを思う。
イリーナも最初はこのバーベキューにちょっと躊躇していたけれど、美味しそうな匂いと、久しぶりにアリシアが外で作る料理に惹かれて、後はもうあれこれ考えずに、黙々と食べ続けた。
「このライスが、いいナ」
油に肉汁を使っているけれど、基本的にはニンニクと塩胡椒とちょっとタレをまぶしたライスだ。
そもそも炊いたお米を食べる機会の少ないフラム王国に、ガーリックライスなど無い。
初めて食べる料理なのに、その見た目と食欲を誘う香ばしい匂いに、何の抵抗も無く口に入れられる。そして口に入れたら入れたで、肉から出たエキスとニンニクがきいたライスが実に美味しくて、やみつきになりそうだ。
「フラム王国ではなぜお米をこのように食べないのか、解らないですね」
やどりぎ館の入居者であるアンナマリーはこのガーリックライスは好きだ。ステーキかハンバーグの日に希望すれば出してくれる。白いライスも当然合っているけれど、気分によってガーリックライスが食べたくなる日もある。
勿論これも実家の屋敷で食べたい。きっと父も気に入ってくれると確信している。
「あっちの人にもお裾分けしてきますね」
システィーがアンナマリーの兄を含めて6人いる観測隊員にバーベキューとガーリックライスを渡しに行った。
「これで王宮の騎士団にアーちゃんの料理がバレるわけダ。しかも貴族が何人かいル。噂が流れるのは早いゾ」
「お肉と野菜を焼いてるだけなんだけど、こんなの貴族の料理じゃ無いでしょー」
タレに漬けるなり、下ごしらえはしているからただ焼いているだけでは無い。しかしこのタレが実に美味しいのだ。
「異世界でバーベキューとか考えたことが無かったな」
「ここまででは無いが、冒険中は冷凍した生肉を焼いてたべていたんだゾ。アーちゃんは色々と調味料を持ち歩いていたから、毎回味も違っていて手が込んでいたんダ」
「そりゃお前らだけ強くなるよな」
アンナマリーも、野外でのアリシアの料理を、3人の英雄に囲まれて食べているこの状況に、冒険譚を読みながら想像するしか出来なかった憧れの現場に居合わせたみたいで、幸せそうに食べていた。
「この後なんかあるんだろ?」
「シャーベットがありますよ。葡萄とマンゴー」
「小僧もようやるわい」
フィーネはグラスに入っていたワインを、クッと飲み干した。
* * *
午後は伐採した木を街道脇に運ぶのと、念には念を入れて、伐採したエリアの切り株や枝、それと雑草を地面に埋める為に大地の天地替えをする予定だ。
「システィーは私が操作してもいいカ?」
食後のデザート、シャーベットを食べながらルビィが後処理を志願してきた。
「システィーはどう?」
「契約者では無いですが、知り合いですから仮譲渡は出来ますよ。青の剣をルビィに渡して下さい」
「そんなモノなんだ」
材木の受け取り、というか管理をするための部隊が、噴火時に北と南の立ち入り禁止区域となる場所付近にそろそろやってくる頃だ。
あれだけのエリアの木を切ってしまったので、かなりの量ではあるけれど、近くの町に運ぶ為の馬車が来るようだし、その際にはシスティーの方で、移動させやすいようにある程度カットする事にもなっている。
午後の方が作業的にはちょっと手間になるけれど、もうドラゴンはいないし、魔物は出るかもしれないけれど、大きな戦闘が起こる事はないだろう。
「ボクはドラゴンの残骸からモートレルの探知装置用の部位を採ってくるよ」
「忘れてタ。じゃあ頼むゾ、アーちゃん」
アリシアはモートレルの魔物探知設備の設計図を見ていると言うから、素材の回収を任せる事にした。
そしてルビィはアリシアから青の剣を手渡されて、いつもより長くなったシスティーに乗って、伐採現場に飛んでいった。
「じゃあイリーナ、長物使いどうしでちょっとやろうぜ」
「ええ、いいでしょう」
丘の上は広く開けた場所なので、二人がちょっと暴れたとしても被害は無い。霞沙羅とイリーナは食後の運動にかこつけた、腕試しのために少し離れた所に行ってしまった。
「小娘は、まあもう何も起きるまいが、周囲を警戒しておれ。魔獣が来るやもしれんしな」
「ええ」
何も無いだろうけれど、さっきミスがあったので、エリアスは3年分のリハビリがてら、火山を含めて、周囲の観察をすることにした。
「たまにはこういう空気も良いな」
後はシスティーの作業だけなので、フィーネにとっては景色のいいところにデイキャンプをしに来たようなものだ。
「小僧、火山があるのならこの辺りに温泉は無いのか?」
「オリエンス教の聖都に温泉が湧いていて、公衆浴場がありますよ」
「なるほど。あの神官のコネは使えぬか?」
「聞いてみますよ。神殿内にも神官用の浴室があるはずなので」
「そうか。ではドラゴンの死体漁りにでもつきおうてやろう。といっても作業は我のトカゲじゃがのう」
フィーネはアリシアを連れて、ドラゴンの死骸が落ちた場所に転移した。
残されたエリアスとアンナマリーは、キャンピングテーブルのところで、午前中を同じように、エリアスが見ている映像を、デバイスで役割分担を決めて、警戒を続けた。
* * *
システィーによる木の運搬と、伐採した土地の天地替えはスピーディーに終わり、3時間もせずにアリシア達の仕事は完了してしまった。
日は傾き始めているけれど、まだまだ明るく、予定していた時間からは大夫余裕が出来た。
だったらアシルステラの世界を楽しんでいる霞沙羅のために、フィーネの希望通り、イリーナのいる西の神殿にある温泉が使えることが解ったので、セネルムントでちょっと休ませて貰う事にした。
「システィーは帰るのか?」
「ネコさんを受け取らないとダメですし、温泉なら館にありますしね」
「そういやそうだな」
「皆さんは、もう少しアシルステラを満喫して下さい」
夕飯はアリシア特製焼きそばと冷凍している何かのストックでいい、となったので、アリシアは館に帰り次第、簡単な料理をすれば良くなった。
システィーは1人でのんびりと館の温泉を使ってもらうことにして、アリシア達はもう少しフラム王国に滞在する事にした。
「それではお兄様、またしばしのお別れです」
「ああ、自分もまだまだだが、折角良い環境に身を置いているのだから、お前もしっかり勉強するんだぞ」
アンナマリーは兄との挨拶を済ませると、全員で聖都セネルムントに移動した。
読んで頂きありがとうございます。
評価とか感想とかブックマークとかいただけましたら、私はもっと頑張れますので
よろしくお願いします。