ドラゴンと火山とバーベキュー -3-
場面により主人公名の表示が変わります
地球 :伽里奈
アシルステラ :アリシア
噴火による火災対策の森林伐採には、やどりぎ館からはアリシアとエリアス、システィーと霞沙羅とアンナマリーが行くことになった。
アリシアはシスティーの持ち主なので現場担当ではあるけれど、エリアスは野良ドラゴンの警戒、霞沙羅はアリシアへの作業指示、アンナマリーはエバンス家の娘として、現場にいる観測隊との繋ぎ役だ。
昔からの住民であるアリシアはともかく、霞沙羅とエリアスはフラム王国に慣れていないので、アンナマリーはその案内役でもある。
「お前まで来るのか?」
「館におっても誰もおらぬのなら仕方が無かろう。小僧、久しぶりの野外料理を楽しませて貰おうではないか」
フィーネもハイキング感覚でついてくる気だ。
「パワーバランスがおかしいぞ」
女神が2人。力の使い方はわきまえているだろうけれど、よくよく考えるとこの状況は霞沙羅が見てもおかしい。
「なんであれば我のトカゲに木材の受け取りをやらせるが? か弱い人間では無理であろう?」
意外と聡明なフィーネは間違いなく何もしないだろうから大丈夫だと思われる。
「例え反逆神とやらが現れようとも、異郷の神に喧嘩は売らぬよ。それが遙か昔からの決まりじゃ」
やどりぎ館全員で旅行やキャンプに行くこともあったし、こういう事があってもいいだろうと、お昼ご飯はバーベキューを用意した。アシルステラには合わないけれど、クーラーボックスに食べ物を入れてある。
「それともなんじゃ、我だけのけ者にしようというのではあるまいな」
「そんな事はないですけど」
別の世界の女神でしょ、という事だ。まあ本人がいいというのだから任せるしか無い。別にこの人は滅茶苦茶やる女神では無い。大人しくする、と言えばそうしてくれるはずだ。
「故に、貴族の小娘は、モデルの小娘を見ておればよい」
アンナマリーは、エリアスが何かされないか、将軍の娘がいれば手は出さないだろうという護衛でもある。
「小娘よ、野良ドラゴンが出たら我の側に来るとよい。他の者は個人でどうかするであろう」
「フィーネさんまで来るなら、ネコはどうしたんです?」
そういえば朝からネコがいない。未だにネコが苦手なアンナマリーだが、放置するのは可哀想だ。
「向かいの家に預けておる。仲のよい犬がおってのう、思う存分遊ばせてやるように頼んでおる」
準備も整ったので裏の門からモートレルに出ると、転移させることが出来ないフィーネとシスティー以外はエリアスが現場に運んだ。
* * *
「何だこの面子ハ」
先に現場に着いていたルビィが、館の住民全員が来てしまった事に驚いた。役割は決まっているのに、呼んでいないのが一人増えている。
「異世界の魔術士まデ」
「なに、たわむれよ」
フィーネはパラソル付きのテーブルとチェアーをアリシアに設置させて、一人飲みの準備を始めた。今日はレジャーの日と決めたから、本当に何もする気は無い。
「アンナ、式典以来だな」
アンナマリーの下の兄は話しを聞くや火山観測隊に立候補していたので、妹が到着したのを確認すると、昨日出来上がった簡易的なベースキャンプから挨拶のためにやって来た。
「お兄様、こんな所に」
ここは王都から馬で二日はかかる山の中。エバンス家の次男がこんな辺鄙なところに派遣されるとは、アンナマリーも思っていなかった。
「あの山が噴火するとなれば王都にも影響があるだろう? それを監視し、状況を伝えるのも王都にいる騎士の仕事だと思うんだ」
「解ります、お兄様」
やはりお兄様達は立派に騎士としての責務を果たしているのだなと、まだまだ騎士見習いの妹としては、この心構えを肝に銘じなければならない。
それに、アンナマリーは王都の騎士団に所属したことはなく、モートレルの騎士団が初の士官先だ。今日一日だけとはいえ、兄と同じ場所で仕事が出来ると思ってもいなかったので、ちょっと感激している。
「あの人達が、お前が住んでいる下宿の人達なのかい?」
「は、はい。皆さん親切にしてもらっています」
アリシアは有名だから解る。だが歴史書にしか残っていない神聖王国の巫女を始め、異世界の英雄や魔法使いなどがやって来てしまって、少々面食らっている。それでも妹と同じ屋根の下で生活している人なのだからと、それぞれに挨拶をして回った。
「これが異世界か」
フラム王国はもう3回目、相変わらず霞沙羅は見る物全てに感動している。
噴火があったとしても東側の丘には溶岩は来ないし、他に障害物も無く火山がよく見える事もあって、観測所が急遽作られて、王都から派遣されてきた騎士達が交代で滞在する予定だそうだ。
アリシア達はそこの近くに転移してきたので、原野が広がる北海道的な景色が見えているけれど、何と言ってもドラゴンもうろついているというから、霞沙羅的には冒険者になった気分だ。
「カメラを持ってきたからな。さっさと来いよ、ドラゴン。撮りまくってやる」
「今日来てくれると助かりますけどねー」
「私とアーちゃんとシスティーがいるのだから、討伐隊の到着前にやってしまいたいのが希望なのだガ」
空を飛ぶだけあってドラゴンの目撃情報は、結構広範囲にわたっているので、この街道沿いに出るかどうかは確率の問題だ。ただ、木の伐採で騒ぎ立てればここに来るのではないかという予測もしている。
この丘からは眼下に街道と森があり、そのずっと先に火山がある。よく見ると、噴火口から湯気のようなものがうっすら上がっている。噴煙である。
アークドラゴンはその火口付近を飛ぶ姿が確認されているけれど、ここ二日程は姿を現さないようだ。おそらく、エリアスが連絡をした事で、警告として目立つ必要が無くなったから、余程のバカが山に近づかない限りは何もする気は無いのだろう。
「噴火まではあと4日程度であろう。小僧、早く伐採してしまうのじゃ」
フィーネはとうとうワインを飲み始めてしまった。
「じゃあ始めようか」
「はい、マスター」
今日の主役ことシスティーは早速巨大な剣に変身する。
青の剣を手にして、水平に倒れたシスティーの柄部分に立って、アリシアは伐採エリアに向かっていった。
「お主らは邪魔じゃ。そこにおっても良いことは起きぬぞ」
フィーネが指を鳴らすと、森から一斉に鳥が飛び立った。木々に隠れて見えないけれど、鹿やリスなどの動物も移動を開始した。
「火山が落ち着いたら帰ってくるとよい」
「お前ー」
この邪龍様は、と霞沙羅は呆れた。確かに動物達に居座られては伐採の邪魔ではあるし、数日後には噴火が起きるわけで、結局は移動する事になる。
しかしさすが神だ。エリアスよりも手に負えない、本物の神だ。あんなに無造作に動物達を移動させるとは。
「なに、小娘の兄という男に余計な危害が及ばぬよう準備してやったのみよ」
フィーネなりに仕掛けは放ってやったので、引っかかるのを待つだけだ。後はアリシアにおつまみを詰めて貰ったランチボックスから練り物の天ぷらをつまみながら、次のワインをグラスに注いだ。
それに対して、野良ドラゴンの警戒はエリアスがやってくれている。力を誤魔化す為に、アリシアのデバイスのディスプレイ機能を使って、いくつかの画面をアンナマリーに任せている。
兎にも角にも、森林の伐採が始まった。
読んで頂きありがとうございます。
評価とか感想とかブックマークとかいただけましたら、私はもっと頑張れますので
よろしくお願いします。