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成人の宴

 ここはアトラスカ。食とオシャレをこよなく愛する村。朝は畑を耕し、昼からは作業着を脱ぎ、お気に入りの服に袖を通し、思い思いのことをして過ごす。朝食こそ軽い物だが、夕飯はとても品数が豊富だ。パンに野菜に卵に魚、特別な日には肉が振るわれる。大人はみなビールを飲んでは騒ぐ。至福の一杯だ。

 


 「それでは、カインの成人を祝して、かんぱーい!!」


 「いやあ、あの小さかったカインがもう12か」


 今日はカイン成人の宴だ。まあこの人たちは何か理由を付けては宴を行っている気がするけどな……


 「イエーイ! ハヤト飲んでる~?」


 もうできあがっている状態のアスカが抱きついてきた。コイツは酔うと抱きつきクセがある。


 「お前もう酔ってるのか。いつも言っているけど、ペースを考えて飲めよな」


 ビールを口に含む。


 苦い。


 「え~。いいじゃない~」


 ふにゃふにゃヘラヘラしている。


 ダメだ。何とかしないと。


 お酒を造ったのは間違いだったかな。

 

 「それにしてもここに来てもう2年も経ったんだな……」


 「そうね~。ここの暮らしもそうとう豊かになったわね」


 この2年本当にいろいろあった。


 耕作、畜産、酒造。どれも本当に困難の連続だった。それでもみなで力を合わせて乗り越えられたからこそ今の暮らしがある。


 「あー! またくっついているー。 ずるいー私もー」


 空いている右腰にノアがタックルしてくる。


 この2年で一番変わったのはノアだ。二人きりの時だけではなく、隙があれば甘えてくる。流石に俺に対して好意があるのは気づいている。


 でも俺神様だからな……


 「ノア、そんなにくっついたら動けないだろう。離れてくれ」


 む、胸が……


 2年で変わったのは中身だけじゃない。ノアは見た目も大きく変わった。


 足がすらっと長く伸び、細いくびれがある脚に、ふっくらとした太ももが美しく調和している。今日は膝丈のスカートを着用しており、そのスカートから健康的な色合いの肌がちらりと覗いている。この2年で栄養を取り戻したからか、胸は大きく膨み、服の上からでも主張している。髪は花の香りがする艶やかな髪をポニーテールでまとめていて、正直魅力的だ。


 「やだー! アスカがまず離れたらいいじゃない」


 掴まれた腕への力が強くなる。


 しかしその力とは裏腹に柔らかい感触が腕に伝わる。


 落ち着け……


「姉ちゃん、またハヤトさんを困らせてるな」


 この声変わりしかけの声は……


 カインだ。


 ノアを片手でヒョイと俺から引き剥がし、ベンチに座らせる。


「カイン、成人おめでとう。初めてのビールの味はどうよ」


「ありがとうございます。正直まずいです。なんでみんなこんなのを好んで飲んでいるか分かりません」


 コツンッ。


「この味が分からないとはまだまだだな」


 チビッ。


 苦い……


「苦いだけですよ。ただ身長はもうハヤトさんに追いつきましたよ」


 ニヤリと笑うカイン。


 確かに大きくなった。横に並んだらもう負けるかもしれない。筋肉もついて身長よりも大きく見える。髪は短く切っていてまっすぐな性格そ表しているようだ。家族を守りたい一心で毎日稽古を続けている。今は村で一番頼れる存在だ。


「ハヤトさんには本当に感謝していますが……」


 カインの雰囲気が一気に変わる。


「お姉ちゃんにベタベタしすぎているのは、いい気はしないですね」


 バコンッ! カインのコップが握り壊される。


 この2年で兄弟愛が強くなりすぎてしまっている気がする……


 今のカインの目はマジだぞ。


「そ、そんなにベタベタしていないぞ」


「ハヤトさんは責任取れるんですか? お姉ちゃんを泣かせる結果になるならたとえハヤトさんでも容赦しないですよ」


「う……」


 この手の話しは本当に難しい……


(うわーー!!!! 助けてくれー!!)


 宴には似つかわしくない声が村中に響き渡る。


 ダッ。


 声が聞こえるやいなや騒ぎの方へとカインが駆け出す。


 俺もカインの後を追う。


「貴様、何しに来た!」


 カインが剣を鞘から取り出し叫ぶ。迫力がすごい。


 俺だったら逃げ出したくなる。


「ち、ち、違うんです」


 相手の声は震えている。敵対心はないのではないか?


「ここはお前が来るようなところではない。去れ!」


 カインさん怖すぎ。


 声の元へと目線をやる。


 震えているな。


 ノアと同い年くらいだろか。顔は完全におびえきっているが、可愛い女の子だ。大きな耳を内側に折りたたみ尻尾も内側にしまわれている……


 っておい、まさか!


 初めて見る姿に思わずつぶやく。


「獣人か……」


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