その9 愛されるまで、精進! 精進!!
誤字報告、いつも助かっております。
◇努力と根性◇
結局、母と父に、若い頃の話を聞いても、アマリーダの悩みは全く解決しなかった。
そりゃあ、二人から、惚気を延々と聞かされただけだったし。
気が晴れぬまま、翌月の婚約者同士のお茶会を迎えてしまった。
今回のお茶会は、公爵家の庭園で開かれる。
アマリーダが案内されて、庭園の四阿に行くと、そこには公爵夫人クリノスが待っていた。
さすが白百合の君だ。
夫人が居る場所だけ、白光が取り巻いている。
「ようこそ。アマリーダ」
「ご、ごきげんよう。クリノス様」
クリノスは自ら、アマリーダにお茶を振る舞う。
「ごめんなさいね。ジャスティは学院から、まだ帰って来ないの。少々、お待ちいただけるかしら。それまで、わたくしと、お話ししましょう」
いずれは義理の母になるクリノスだ。
それにせっかくの機会なので、アマリーダは訊いてみることにした。
「努力と根性って、どう違うのでしょう?」
クリノスの瞳がキラリ光る。
なんという、哲学的質問をしてくるお嬢さんかしら、と。
地頭が相当良いわ。
アマリーダは、両親の結婚前の話を聞いたことを、ごくごく簡単に伝える。
「母は言いました。『根性』で父と結婚したと。でもそれは、母個人の努力と、違うのでしょうか……」
クリノスは努めて優しく答える。
「そうねえ……。ある目的に向かって、何か行動することは努力。目的を達成しようという、強い心が根性かしら」
アマリーダが小首を傾げる。
「例えばね。お茶を淹れようとして、お湯を沸かすとするでしょ? ポットや水を用意して、薪をくべる。それは努力ね。でも途中で『何のためにお湯を沸かしているのか』を忘れたら、火を消してしまうわ。
だから、『誰かのために、美味しいお茶を淹れたい!』という強い気持ちを持ち続けること。それが根性だと、わたくしは思うの」
パリン……。
アマリーダを覆っていた殻が、割れ始めた。
「では……では、母は、父と結婚したい気持ちを、強い気持ちを、持ち続けていたのですか?」
ゆっくりと、クリノスは頷く。
「それはそれは、もの凄い努力をされていたわ。でも、その心の底には、オリシス様、あなたのお父様への、強い愛情があったのよ。だから、わたくしも、薔薇姫こと現王妃様も、陰ながら応援していたわ。だって、可愛かったのよ、マグノリア様。小動物みたいで」
ああ、学院時代も、チョコマカと母は走り廻っていたのかと、アマリーダは思った。
「父は、そんな母を、受け入れた……?」
「受け入れた、というか、多分ずっと前から惹かれていたのでしょうね。だって、わたくしたちが一緒にいる処を、チラチラ見ては、ため息ついていらしたもの」
「まあ!」
パリン……。
アマリーダの殻が。また一つ割れる。
「でもねえ、オリシス様って、女性の趣味、悪かったわ」
うわあ、ぶっちゃけ過ぎです、クリノス様。
声に出せないアマリーダだった。
クリノスとアマリーダが和気藹々とお茶を飲んでいると、庭園に足音が響いた。
こちらへと走ってくる、ジャスティだ。
「まあまあ、ようやく帰ってきたのね。あとは婚約者に任せるわ」
◇そして再び、婚約者同士はお茶を飲む◇
「ゴメン。遅れてしまった。待たせたね」
学院の制服のままのジャスティは、額に汗を浮かべている。
「いいえ。丁度クリノス様に、お聞きしたいことなど、ありましたから」
ジャスティは、いつもの分厚い本を持参しておらず、なんとなく手持ち無沙汰のようだ。
「母と、何を話していたの?」
「女同士の秘密です」
「チェッ」
「ではジャスティ様は、学院で男子の方々と、いつもどんなお話をされていますの?」
ジャスティは、飲みかけたお茶を、吹きだしそうになる。
「いや……国の財政問題とか、隣国との外交とか……」
「うふふ。凄いですね」
ジャスティの顔は真っ赤になる。
本当のことなんか、女に言えるかよ!
顔にはそう、書いてあった。
「あのね、以前ジャスティ様、『君を愛することはない』っておっしゃったでしょ」
あ。
今度は本当に、ジャスティは茶を吹いた。
母譲りの遺伝子を、持っているようだ。
「落ち込みましたわ、わたくし」
「……ゴメン。そのなんというか……男としての……」
「でも、良いんです。わたくしも、決めましたから」
「えっ?」
ジャスティは、叱られた子犬のような声を出す。
まさか、アマリーダもジャスティに『愛することはない』と言うのだろうか。
「ジャスティ様に愛されるまで、わたくし、精進いたしますわ」
「しょ、精進?」
「はい! 根性ありますから。
母譲りの」
凛とした風情のアマリーダに、ジャスティは息を呑む。
ずっと……。
このままずっと見つめ続けたいと、彼は思った。
了
◇おまけ◇
冬の社交シーズンが始まった。
本日の夜会は、三大公爵家の一つで開催される。
クリノス夫妻も、マグノリアとオリシスも招待されていた。
宴もたけなわ。まさにその時。
「君との婚約を破棄する! 真実の愛に巡りあったのだ!」
どこかの若僧が叫んだ。
周囲の大人たちは、「ああ、またか」といった感じで慌てもしない。
「僕はこの、平民でありながら、淑女中の淑女、コッキーノ嬢と永遠の愛を誓う!」
瞬間、クリノスもマグノリアも、シャンパンを吹いた。
おしまい
ここまでお付き合い下さいまして、心より御礼申し上げます!!
コッキーノ嬢は何歳になっているのでしょうか!!
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