戯れ言 妹フラれる、私もフラれた。 心疾患兄妹編
先天性心疾患を持った学生時代の「私」と妹のたわいも無い体験談。
たわいも無いのか? いや、たわいも無いと思いたい。
「あー・・・ん・・・あああああーーー」
妹の部屋から漏れた嗚咽なのか、喘ぎなのか、うなされているのか分からない、異様な声に何かあったのではとさすがに放っておけず扉をノックした。
年頃の妹だ、普段なら三猿をきめて無かった事にしようとするのが兄妹の礼儀だと思うが、この日ばかりは日中である事と声の大きさから勝手が違った。
正直、妹の心臓に何かあったのではと、私はかなりビビっていた。
「ああ、何?」
ぶっきらぼうに返事が返ってきた。
「ちょっと入るぞ。大丈夫か?」
「ああ、いいよ」
部屋に入ると、いつも通り妹はベッドで寝ていた。
ただ、顔を真っ赤にして大口を開け、腕で目元を隠している。
自分が危惧していた状況より、良い方だったことで少し安心した。
「何があったん?」
「兄貴・・・男にフラれだぁ」
「そ、そうか・・・・・・」
年頃になれば男女共によくあることだ。さほど珍しいことでは無い。
「何でフラれたん?」
「理由が酷い」
「ん?」
「気持ちは嬉しいけど、ボクでは君の体に責任が取れない。って言われたぁ」
「あ、ああ・・・」
あるある。とは、口に出さなかったが、フった男の理由はよく分かる。
逆に、私も妹と似た境遇のため気持ちが汲めるだけ何とも言えない気持ちになった。
本人だけでなく、兄妹で心疾患持ちともなれば怖じ気づくのも理解出来る。
「フるんだったら優しくするなよ・・・オマケに理由が酷くない?」
「いやぁ。正直、兄ちゃんは相手側の気持ちも分かるから何を言っていいのか・・・・・・」
「ぢぐじょう。こんなんなら告らなきゃよかったぁ」
「まあ、アレだ・・・お前見た目がロリだし・・・障害のこともあるけど好みじゃなかったんだろ」
「ロリ言うな! 成長してないだけだし! それに私もうたぶん合法だから!!」
「高校生は違法だと思うぞ・・・ってか気にしてたのか・・・ロリ体型」
「だからロリ言うな! 着たい服着れないんだから、気にするよ。モデルみたいな格好してみたいわ」
憶測ではあるが、妹の体は心臓に負担をかけないよう、成長をある程度で留めていたのではないかと言う話しを聞いたことがある。命には代えられないとはいえ、年頃の娘には何とも難儀なことだ。
「兄貴・・・・・・」
「何だ妹」
「兄貴が兄妹じゃなかったら、私どうだった?」
「え? 何か嫌なんだけど・・・そう言うのはフィクションだけで・・・ってか、二次元でもキツい」
「兄妹の恋愛とかそうじゃなくて、男として見て私どうよ」
私は目を背けて静かに答えた。
「うーん・・・ロリがイケる人なら大丈夫かもしれないけど、兄ちゃんはちょっと・・・・・・」
「だからロリ言うな!」
ぺしぺしと叩いてくる妹に、私は半ばカミングアウトのつもりで話しを変えた。
「まあまあ、落ち着けって。兄ちゃんも体が理由でフラれたことあるし・・・ってかそう思いたいけど」
「兄貴もフラれた?」
「ああ、しかも、父親を通してフラれた」
「マジ?」
「ああ」
「それ、キツくない?」
「滅茶苦茶キツいぞ」
妹は少し考えて私に言った。
「どんな風に告ったの?」
「ドラマやアニメのイケメン主人公と同じような告り方したらフラれた」
「何やった」
「抱きしめて好きだよ。と耳打ちしたてフラれた。しばらく友達やってたけど、諦めきれなくて今度はストレートに告って、今度は普通に会いに行ったら親が来たって感じ・・・・・・」
「あ~・・・やっちゃってるよ・・・リアルにイケメンでも一回目で好きじゃ無い男に真面目にそれやられたら、普通に女の子ドン引くから。ってか、せめて二回目告白は一回目から結構間隔開けないと」
「やっぱ・・・やっちまったか・・・・・・」
「もうさ・・・兄貴の場合、体云々の話しじゃ無いよ。顔は悪くないのに中身の問題だよ。中身の」
「ああ、俺も普通の人間より中身は傷だらけだからな・・・しかたないよ・・・・・・」
「物理じゃ無くて、考えが問題なの! 相手のお父さんの気持ち解るわマジで解るわぁ。なんか、自分の事どうでもよくなってきた」
「妹よ・・・さすに兄ちゃんのほうがメンタルヤバくて泣きそうなんだけど・・・・・・」
妹を慰めるはずが、いつの間にか自分の恋愛事情で説教されている、あの時の私は何だったのだろう。
そして、何故こんな話しになったのだろう・・・「妹よ教えてくれ。俺はあと何人フラれたらいい」。
きっと妹はこう言うだろう・・・「そういうとこだよ馬鹿兄!!」と。