プロローグ
どうして、と思う。
なぜ彼は私が彼を愛しているという考えがないのだろう。
まあ確かにあの出来事でほのぼのと築いてきた関係は崩れてしまった。
しかしその後協力して乗り切ってきたのに。
亡き国となってしまったから私を姫として扱う必要なんてないの。
もちろん恨んだし、理不尽に思うこともあったし、苛立ったことも一度や二度じゃない。
でも幸せを感じたことだってあったのに。
あなたの気分次第で私は一気に転落する。
生殺与奪を握ってるって嘘じゃない。本当のことよ。
だからこそ私は彼を裏切らないし、忠実だ。
それを信じて私を信じないなんて!
なんて本末転倒なの。
ああ、やっと私の役に立てることができた。
恐ろしい知らせが城内に入った時、私は恐怖心より先に安堵したのだ。
ようやく、この生産性のない関係に終止符が打てると。だから立ち上がった。
私を失いたくないと恐怖する彼に、私は立ちふさがる。
「私が行きます。」
「ダメだ。」
「誰よりも私が適当だわ。医療の知識としても、環境把握としても。もう私の医療団は送ってあります。だからあとはあなたが認めてくれれば」「だめだと言ってるだろう!?」
彼の顔を正面から見据える。
酷く憔悴した彼はひどい顔をしていた。それと対照的に、彼の瞳に映る私は清々しい顔をしている。私の凪いだ目に彼は恐怖を隠せていなかった。
王太子がそんなに分かりやすくてどうするのだろう。
仕方ない人だ。
そう思うのだけど一刻を争う猶予はない。それなのに話し合いは平行線だ。
彼は私を監禁することに決めたらしい。私の知識など必要ないと言わんばかりに。分かっているでしょう?我が国の知識が必要なことに。なぜ閉じ込めるの。
「きみを失いたくない。あの絶望した日々を思い出したくない」
嘆く彼に、私は憤った。交わらなすぎる。
「私が何もしなかったって思っているの?対策だって立てた。衛生環境も改善した。最低限の医療施設も用意した。マニュアルだって作ったし、その講習だって望まれれば何度でも行った。」
違う。それもそうだけど問題はそこじゃない。多分彼は恐れているのだ。私が見捨てられたことを思い出して、自分から離れることを。
「何であなたは私の愛を信じてはくれないの?」
「よく考えてみろ。俺がお前の国にした仕打ちを。」
「いい加減にしなさい。私たちは今を生きているのよ。そこに留まりたいならそれでもいいけど、私はあなたを倒してでも未来を取りに行く。それが昔亡くした人たちの救済にも繋がるはずだもの。」
閉じ込めて、私が大人しくしてると思うのなら可愛いわね。ほんと仕方のない人。
性懲りも無く、シリーズ化してしまいました。
以前の短編です。
お付き合いいただけたら嬉しく思います。
5.6話で終わる予定です。