シナリオ
⑧シナリオ
サッコが宿舎に戻ったのは一時過ぎ、シャワーを浴び寝たのが二時だった。
朝はいつも通り目が覚める。頭が重かった。今日はどこにも行かずに静かにしていよう。
八時過ぎ、コーヒーカップを手にして、シバタの部屋をノックしてみた。
コーヒーの香りがしていた。
テーブルの上には、競馬新聞が広げられていた。今日は柴田も部屋にいるようだ。
スーパーマーケットで、酒の肴と食材を買い込んだ。
「昨日、知り合いに会って来た。奴は了解したよ」
柴田は新聞をベッドに放り、グラスを傾けた。
「名前はギョーマン。自分を捕まえる者はいないから、心配しないでほしいと言っていた」
サッコはギョーマンの話を伝えた。
「すごいね。将校らしい言葉だ」
柴田は立ち上がり、ポータブルラジオを短波からFMに変えた。クラシックが流れた。
「これで第二ステージに進めそうだ」
「じゃ、シナリオは?」
「ああ」
柴田は氷にウイスキーを注いだ。
「まず、電波を止める。山間の基地局だ」
「なぜ?」
「人気がないから、侵入しやすい。基地局が少ないから、確実に圏外になる。ユーザーは多くないから騒ぎは少ない。キャリアには、人為的に電波を止めたのが伝わればいいんだ。もしかすると、うやむやに処理されるかも知れない」
「警察沙汰にしないというのかい」
「うん、少なくともニュースにはならないと思うな。模倣犯が出てくる。世の中には基地局のマニアがいて日本中を回っているからね。何の監視もないと知れば、フェンスの中に入り込む奴が出てくると思うよ」
「キャリアは?」
「電波を止めると、仮でも一日で復旧させるだろう。もし、事件としてニュースになれば、それでゲームオーバーだ。リスタートはしない、愉快犯がしたことで終わりだ」
「ニュースにならなければ?」
「ギョーマンから、金を要求させてみよう。拒絶されれば、再び基地局に侵入するだけさ。これはエスカレートするよ、と示唆するだけ。これで、一度終わる」
「キャリアが、ステージに乗れば、第三ステージの金の受け渡しだね」
「そうだ。ギョーマンが、安全な口座を用意できれば一番良いね。口座なら、大きな金が動かせる。結局、俺達は電波を止めるだけだ。上手くいったら、貿易会社でも作ろう。社長はサッコだ。そこにうまく金を還流させればいい」
「金額はどうする」
「口座が用意できるなら、大きく三億でどうかな。一人、一億だ」
「わかった。ギョーマンと相談してみよう」
「そのうち、基地局を選びに行こう。慌てる事はない」