基地局
④基地局
ある日、柴田はサッコと二人で下水道管の補修に行った。埋設したばかりの下水道管の繋目から、地下水が吹き出ていた。
管の径は、柴田の肩幅程度しかない。まだ下水は流れておらず役所の検査が近い。
柴田はスケートボードに腹這いになって、匍匐する。胸の下に置いた懐中電灯に照らされた管は、無限に続くタイムトンネルの感がある。
漏出箇所に着くと、止水用のボンドを水で練って管の継ぎ目の円周に埋めていく。体の向きは変えられず、ほとんどが勘だった。
ボンドは水に触れると十秒もしないうちにかちかちに固まる。こうして、水が逃げないように周りを埋めておいて、最後に噴き出している小さな穴に、ボンドを「えいっ」と押し込をだ。水圧に負けぬように、しばらく指先で押さえると吹き出した水が止まった。
「サッコ、終わった」
柴田の足にはロープが結ばれており、サッコが引っ張り出してくれる。
二人はコンビニエンス・ストアの駐車場で遅い昼飯にした。今日の仕事は終わりだ。このまま部屋に戻ってもかまわない。
「サッコ、基地局を見に行こうか」
「基地局?」
「携帯電話の電波を出す設備だ」
「簡単に見られるものなの?」
「すぐに、見られるよ」
帰り道は大きく郊外を回った。住宅街を外れて荒川沿いを走った。
柴田は窓の外を見ていた。
「ちょっと、左折して」
柴田が言った。
サッコは次の信号を左折した。
道路沿いに、鉄塔が建っている。「そこ」柴田が言うと、サッコは車を止めた。
「これが携帯電話の電波塔。これから電波が出ている」
地上には小屋があって、フェンスに囲まれていた。
「鉄塔の上の灰色っぽい棒がアンテナ、小屋の中に無線機があるんだ。まとめて基地局。フェンスだけなら、乗り越えられそうだろう」
「監視カメラは?」
「付いていない」
「もう少し、詳しく説明してくれ」
「アンテナから電波が出るのは分かると思う。アンテナから下りる、黒いケーブルが給電線と呼ばれアンテナに信号を送っている。これが無線機に繋がっている」
柴田は道路脇に立つ電柱を指した。数本のケーブルが渡っている。
「それから、こっちのケーブル。上は電線で下が光ケーブル、光ファイバーと言った方が解るかな。どちらもフェンスの中の電柱にいってるだろう。そこから、小屋の中の無線機に繋がっている。取り敢えずは、線の流れだけ覚えてくれればいいんだ。どうせ、小屋の中には入れないから、それで十分だ」
「何故?」
「要は、あの線のどれかを切れば基地局としての機能が止まるんだ。かと言って、すぐには誰も来ない。たまたま、近くに要員がいたら別だがね。夜なら、まず大丈夫だろう」