作戦
④作戦
翌日、ボードの前には柴田が立ち、傍らにミキが座った。ギョーマンと部下の二人の少尉、サッコと金澤の五人が椅子を並べていた。
二人の少尉は、ソマリ人らしく、アラブにも見える顔立ちをしていた。
サッコは話を聞くために、ミキが柴田の話をフランス語に通訳した。
「まず、川を思い浮かべて欲しい。川上から幾つも支流が集まり、河口に向かう。河口と支流の合流には堰がある」
柴田は話しながら、それを図に描いていった。
「次に、この川を船で行き交うことを考えて見る。船は自分の番号と行き先の番号の書かれたカードを持っている。川を下る時は、堰にある自分の番号が割り当てられたゲートを通って行く。堰は河口に近づくほど、交通量が多くなるから、同じゲートを通る船も多くなり、通過を待つこともある。したがって、川は広い方がいいと直感的にわかると思う」
ミキを見ながら、間を取った。ミキの話に少尉たちは頷いている。
「河口から出ると、次に行き先の番号のゲートを上って行く。もし、該当するゲートがなければ海を渡って隣の河口に行く。そうやって川を上って行き先に向かう。無事、着いても、船着き場が空いてなければ、そこで待つか、気の短い船長なら、荷を川に放り投げて、新しい荷主を探すこともあるだろう」
小さく笑い声が上がった。
「言い換えれば、船は音声や情報データを積んでいて、川と海が光ケーブルになる。そして、行き先の番号は電話番号やメールアドレス、URLと言うことになる。支流の先や、さらに支流に流れ込む数ある小川の先には、携帯電話の基地局や携帯電話、オフィスの電話機やパーソナルコンピューターがある。作戦に必要な予備知識は、こんなところで十分だと思う。何か質問は?」
少尉たちは頷いている。
ギョーマンが時計を見た。
「ランチの時間だ」
ラウンジでコーヒーを飲みながら、サッコが少尉に話しかけ笑っていた。
「大変、わかりやすいと好評のようだよ。やはり、先生になった方がよかったんじゃないか」
サッコが柴田に言うと金澤も「そうだ」と頷く。
「俺の読んだ初心者用の解説書をそのまま言っただけだ。あれ以上の事は言えないし、俺にも分からない」
午後が始まる。
「概論はここまでだ」
二人の少尉を見て、柴田が言うと二人は座り直す。
「そこで、中枢となる河口の堰を破壊できればいいのだが、たいていビルの中に有り、セキュリティも厳しいはずだ。したがって、ここは破壊対象にはしない、という前提で話す」
柴田は川の合流点を指して言った。
「そこで、ここを破壊する。ここには、中継局がある。これは信号の減衰を増幅したり、回線の集約や、付け替えをするために、概ね一定の間隔で設置されていて、郊外ならビルもなく、小さな小屋が置かれている。建屋内には入れないがフェンスを乗り越えるのは容易いと思う。密閉された小屋だが、換気の開口部があるはずだ。そこから、爆薬を放り込む」
「場所は?」
少尉が手を上げた。
「それを、俺達が割り出す。道具は大戦時と同じ虫眼鏡だ。設備は日本のコンストラクターが造ったので、日本の仕様に近いと考えている。それを写真から拾うだけだ。まず、数ヶ所の候補を見つけ、内通者に検分させる。それで、特定できれば同じ建物を写真から虱つぶしに探すだけだ。経路が推定できれば、だいたいの位置も推定できる。地方は電波塔の位置から経路を類推する。グーグルアースでも何とか分かる。電波塔は見分けやすいんだ」
ギョーマンが手を叩いた。
「それと国境から見て、鉄塔や設備の仕様が分かれば、なおさらいい。どうだい、ギョーマン」
「了解だ。国境へは早々に行けるようにしよう」
「大戦時と同じだ。地味に黙々とやるだけだよ」
最後に柴田はサッコ、ミキ、金澤に語りかけた。




