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柴田とサッコ  作者: 名雲屋良内
16/27

-ソマリ- ①再来日


-ソマリ-


①再来日


 正月は餅代も出て、みんな静かに年を越した。

 寒さに、外に出るのも億劫だった。

 ギョーマンが再び来日したのは、関東にも大寒波が襲来した一月の末だった。

「今度は長いの?」

「いや、すぐに帰る。帰りにはパリにも寄る」

「何か、特別な任務でも?」

「ああ、そのために日本に来たんだ。サッコに、協力を願いたい。そして、シバタにもだ」

「ゲームか」

「そう、ウォーゲームだ」

「また、紛争?」

「又ぞろ、アリクイが動き出した」

 サッコの右眉が上がった。

 アリクイとは、隣国の大統領のコードネームだ。欲しいものには、思慮分別なく手を出すところがあった。

 ソマリがフランス領から共和国となったのは、アフリカでも一番遅かった。

 それを機に、駐留していたフランス軍は名目上ソマリ軍と変わった。それでも、将校の大半はフランス人が占めている。

 隣国ソマリアは、大戦後イタリアから独立し共和国となった。その後、クーデターで元首になったのがアリクイで四十年ほど前だ。後ろ盾は、ソ連だった。

 ソマリとソマリアは、ソマリ人が多数派でアリクイもソマリ人だった。

 ソ連が崩壊したころ、アリクイはソマリを併合しようとしたことがあった。しかし、首都を目の前にしてフランス軍の容赦ない爆撃に退散していた。

「また、併合しようとでも?」

「内通者からの情報だが、兆候があるらしい。もう、アリクイは年だ。息子に禅譲する気でいる。その前にと言う事だろう」

「時流に反するね」

 サッコが苦笑した。

「我が国は、内紛も落ち着いて経済も上向きに推移している。フランスの援助を受けながら、国家として成り立つ中途だ。私もサッコもフランス人だが、生まれ育った国だ。国にするのは自分の役目だと思う。アリクイは自国にしたいのだろうが、独裁は飢餓と格差を生み出す」

「その通りだね。二十数年前、アリクイは蟻塚を崩そうとした。フランスと事を構えるなどと、随分と向こう見ずなことをしたものだ」

「交戦となっても、国連の議題にもならないだろうな。石油が出るわけでもないから、アメリカは気にかけない。まあ、終いは、フランスが出て来る。地勢的には、要衝だ。手放すわけはない。その前に、アリクイを撃退したいね」

「作戦でも?」

「アリクイは国境から機動部隊で来るだろう。短い国境線だ。わが軍の兵員は少なくても、装備は相手のソ連製兵器と同等もしくは上回るはずだ。とにかく国境に留めておけば、次の手が打てる」

「次の手?」

「そう。そろそろ、アリクイには身を引いてもらわないといけない。それではと国体を賭けての戦争は馬鹿げている。ソマリアの国民が、自らアリクイを引きずり落としてくれるのが最良だ。自分たちの生活に支障が出てくれば、自然とそうなる時期に来ている。こちらは、その引き金を引いてやる。それだけでガルバが現れるはずだ」

「アリクイはネロかい」

 やっと、二人は笑った。

「インフラを破壊していくつもりだ。ソマリアには、レジスタンスもいれば内通者もいる。それらに、ちょっと協力するだけだ。生活に少なからず差し障りを生じさせれば、不安と不満を呼び起こすことになる」

「また、基地局に侵入するか」

 サッコが言うと、ギョーマンが笑った。

「そう、最初の標的は通信だ。電話が使えなくなっても、人は死なない。ただ、今度は都市全体を、システムダウンさせたい。一度きりの作戦になる。次は鉄道になるだろう。残すのは水だけだ。戦争はアリクイの趣味だ。国民は恩恵のないことを知っているから、アリクイに怒りだすだろう」

「結局、俺達は?」

「通信の破壊ポイントを指揮して欲しい。通信破壊は一度だけの作戦になる。効率の問題だ。ソマリアの通信インフラは、日本からの借款が原資になっている。日本は、欲しいといえば、どこにでも出してくれる良い国だ。当然、デベロッパーとして日本の商社、コンストラクターが請け負っている。アリクイには、十分な金が流れたはずだ」

「俺に詳しい知識はないから、シバタに聞いてみないと」

「すぐに答えなくてもいい。三ヶ月後にソマリアの大統領選がある。アリクイが爪を振り上げるのはその後だ。その時はサッコもシバタも我が国の国賓だ」

 柴田は、サッコから話を聞いた。

「俺は通信屋じゃないんだが、見込まれたもんだ」

「どう、やれそうかい」

「ギョーマンの言うことは、理解できるし、不可能な理由は見つからない。暑い国に行って見るのも良いね」

 土曜の夜、サッコと柴田は、大使、ギョーマンとテーブルをはさんで向かい合っていた。

「一ヶ月後には来て欲しい」

 柴田は頷いた。

「連れて行きたい者が二人いる」

 柴田は最後に言った。

「誰?」

 サッコが聞く。

「ミキさんと金澤さんだ」

「なぜ?」

「通訳と運転手」

「それならあっちで用意する。ミキを巻き込むのは危険だし話してもいない。ここで言うのも何だが、女性が喜んで行くような国でもない」

 日本語を解さないギョーマンと大使は、サッコが怒りだした事に怪訝な顔になる。

「サッコが聞く事だ。彼女は来るだろう。金澤さんには、俺が言うよ」

 サッコは戸惑いながらもギョーマンにそれを伝えた。

 大使が手を広げたが、晩餐会に来た二人だと言うと愛好を崩した。

「あの賢そうなお嬢さんと、コメディアンですね。わかりました。命に関わる事は絶対にないと保証しますよ」

 翌朝、サッコはミキに連絡した。

「急で悪いが、今日十時に上野の美術館に大丈夫だろうか?」

「大丈夫」とミキは返した。

 柴田はサッコが出かけると、金澤の部屋に行った。

 金澤は支度をして、出掛けようとしていた。

「金澤さん、お出かけですか」

 金澤は笑って手首を捻った。

「パチンコですか。俺も行っていいですか」

「おー、行こ、行こ」

 金澤の車で、パチンコ屋に行く。

 金澤は、住人の中で、一人車を持っていた。もっとも、住人に免許所持者は、半数しかいない。

 柴田は車の中でギョーマンの話をしなかった。

 金澤が帰ると言うまで、柴田もパチンコをした。店を出た時は、六時を過ぎ辺りはすっかり暗くなっていた。

 遅くまでしていたのは、出ていたからで、勝った金澤の機嫌は良かった。腰が痛くならなければ、まだやっていたと笑っていた。

 二人は、帰りに中華料理店に寄った。

「金澤さん、アフリカに行きませんか」

 料理を頬張る金澤は噎せてジャスミンティーを流し込こむ。

「年寄りだから、変なこと言っちゃだめだよ」

「すいません。でも、冗談じゃなくて」

「何する」

「運転手を」

「あの外人さんの仕事かい。危ねの?。先もねぇから、危ねくてもいいだけどな」

「そうです。命を取られる事はないです」

「んでも、今の所がいいし帰って来ても、こんな年寄り雇うとこもねえべ。おらみてなのは、部屋も借りらんねからな」

 老酒が効いて、赤くなっていた。

「それは、社長に言って部屋を空けておいて貰います。私も今のところが気に入ってますからね」

「んじゃ、行ってもいいかな。後、誰?」

「この前、大使館に行った四人です」

「え、あの女の人も行くのかい」

「そうなります」

「外国行くのに、なんか手続きしなっきゃなんねじゃ」

「パスポートですね。用意するものは言います。すみませんが準備して下さい。役所には、一緒に行きますから」

「わかった。いつ行くの」

「一ヶ月後を目処に」

「んでは、早くしねえとな」

 柴田はジャケットの内ポケットから封筒を取り出した。

「これで、必要な物は用意して下さい」

 金澤は中身を見て、目を丸くした。

「車はどうすべ。車検もまだあるし」

「社長に預けるか、誰かに売るか。どちらにしても、帰って来れば新車が買えますよ」

「本当に、危ね事ねんだべな」

 真顔になっていた。

「国のお墨付きです。あと、あちらは暑いですから、服は夏物だけでいいですよ」

 金澤は安心した顔になった。

 サッコは地獄門の前に立っていた。

 美術館は特別展示もあって人が多かった。

 ミキが見えて、サッコは手を上げた。ミキはダウンジャケットを羽織り、ニットの帽子をかぶっていた。

 二人は特別展示を鑑賞する列に並んだ。

 それから、館内のカフェに行った。

「突然、悪かった」

「別にすることもなかったし」

「仕事は楽しいかい」

「それなり」

「アフリカに行かないかい。砂漠とサバンナと海しかない。嫌になれば、すぐに帰国して構わない」

 少し、間があいた。

「いいわ。国のお仕事ね」

「仕事は通訳だ。出発は一ヶ月後を予定している。数ヶ月だが住む所は国が用意してくれる。国賓待遇だそうだ」

 ミキは留学も海外旅行もしている。外国行きに抵抗はなかった。

「他に、大使館に行った他の二人。それから、これは大使から預かった」

 金の入った、封筒を差し出した。

 それから、東京スカイツリーに行き、東京を見渡した。遠くには、雪を被った富士山が見えた。

 混み合う仲見世を歩き、浅草寺に行ってお守りを買った。

 場外馬券売り場の通りにある飲み屋に入った。もう、最終レースは終わって、辺りはすっかり暗くなった。テレビでは今日のレースが流され、おやじたちが声を上げていた。

 二人は焼鳥、もつ煮にホッピーを頼んだ。ホッピーの飲み方は隣に座るおやじが教えてくれた。

 冷え込んできたが、昼間から飲みつづけるおやじたちと一緒に、二人も飲み、食べた。

 おやじたちは、若い女と外人に陽気に話しかけ、ミキは笑いながら応えていた。

「今日は負けたけど、こんな綺麗なねえさんと話せたから、プラスだな」

 おやじたちから、歓声が上がった。


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