土曜日
⑩土曜日
土曜日、サッコは現場から帰ると、急いで出かける支度をした。シャワーを浴び、髭を剃った。ジーンズにシャツ、ジャケットを羽織った。まだ、夜は冷える。
八時までは、一時間とちょっと、ちょうどいい。電車に乗り途中で地下鉄に乗り換える。ホームに降りたのが、五分前だった。
階段を上がり、地上に出た。
ミキは正面のガードパイプに座っていた。
ミキはサッコを見つけると微笑んだ。薄い化粧にジーンズとローヒール、丈の短いジャケットを羽織っていた。
「お似合いだ」
二人はフランス料理店に足を向けた。二人に、すれ違う男女が、手を繋いだ男女が目を向ける。
「先週は俺の楽しかった事を話した。今週はミキの番だね」
ミキは困った顔をしたが頷いた。
「楽しかった事。言うほどの事はなかったわ。でも、今日はどきどきしてた」
ミキは微笑んだ。
「とにかく、楽しそうな顔をしている。いい事だ」
ミキはサッコに聞いた。何をしているのか。どこから来たのか。
「僕は労務者だよ。日本では、一番下の階級らしい。工事現場で働いて仲間がいる宿舎に住んでいるんだ。今日も現場で働いて来た」
「どこから?」
サッコはアフリカの東にある小さな国の名を言った。
「どうしてと」とミキに聞かれて「国を離れたかったから」と答えた。
十時過ぎに、店を出た。近く散歩した。東京タワーが近くに見えた。
「さて、もうすぐ、今日も終わる。帰ろう」
「帰るのですか?」
「そう、いつも朝が早いから、もう眠たくなってくる」
サッコは笑って見せた。
「連絡はできないの?」
「構わないよ。人には、めったに教えていないだけ」
サッコはポケットから携帯電話を出すとミキに渡した。ミキはサッコの電話に登録をして返した。
「今度は?」
「貴女の心が沈んだ時だ。僕はミキを笑顔にさせよう。それだけだ。時間をメールで送れば良い。僕の休みは日曜日だけだから土曜の夜だと有り難いね」
サッコはミキの肩に手を置いて、軽く頬にキスをすると駅に向かって歩きだした。




