食堂
-日本-
①食堂
初冬、二人の男が遊歩道を歩いていた。
明け方まで吹いていた風が止み、小春日和となった公園の四阿ではリタイアした男達が他愛ない話をし、散歩、ジョギングする者も多かった。
公園から私鉄の駅に行く道と商店街に行く道が、並行して延びている。
駅は高架の新駅舎に建て替えられ周辺の再開発が進んでいたが、商店街は昔のままに狭い道を挟んで店が並んでいた。
二人は商店街に続く緩い坂道を上って行き、古ぼけた食堂に入ると日替わり定食とビールを頼んだ。
一人が、漫画や雑誌の置かれた壁際の棚で、雑誌の山を積み直している。
男は何か、雑誌を探していた。すぐに、お目当ての雑誌を見つけるとテーブルに戻った。
「これ」と言って、染みだらけの雑誌をテーブルに座る男に渡した。渡したのは暴力団やエロ記事専門の雑誌だった。
「シバタ、これかい」
ブラウンの髪と瞳の男が雑誌を開きながら言う。
雑誌には「昭和の犯罪」と、銘打つ特集記事が載っていて、その中の「毒入りチョコレート事件」の記事だった。
「そう、それだ。サッコ」
柴田は記事を覗き込むと頷いた。柴田はそれを三週間前に読んでいる。
二人が生まれる前の事件だった。警察、マスコミを嘲笑した語句と、犯人の似顔絵が、連日テレビを賑わした。
犯人は「毒入り危険」のメモと、青酸カリを混入したチョコレートをスーパーの売場に置いた。それから菓子メーカーに脅迫状を送りつけた。
犯人は菓子メーカー、警察、マスコミのを翻弄し、逮捕の機会も擦り抜けた。結局、事件は迷宮入りになった。
「許したる」の一言で、犯人は姿を消したのだ。しかし、菓子メーカーが裏で金銭を支払い、手打ちが行われたと囁かれた。
サッコはビールを飲みながら、記事を読んでいた。「面白いね」といって記事に目を落とした。二人は、また、ビールを頼んで昼飯にしては長居した。
「できたら、面白いね」
店を出たサッコが言った。