表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/1

宿の町の話

「宿の町の話」


もぐらくんとひまわりくんは、宿に泊まっています。


ここは、すべての道が交差する町。


北から、南から、西から、東から、


いろんな人がここを通って違う土地へ旅に向かいます。


もぐらくんとひまわりくんは、面白いお話を聞きたくて、この街へやってきました。


しかし、みんな次の町へ向かうため忙しくこの街を通り過ぎるだけです。


ひまわりくんが言いました。


「みんな忙しそうだね。」


もぐらくんが言いました。


「なかなか話かけられないや。」


二人は困っていると、もぐらくんはひらめきました。


「そうだ。先を急がない人はこの町に泊まるだろうから、宿に行ったら話の出来る人がいるんじゃないか。」


ひまわりくんも


「それがいいよ。そうしよう。」


と、賛成しました。


二人は宿に向かいました。


この宿は、いろんな人がタダで泊まる宿で、みんな相部屋で泊まっています。


もぐらくんとひまわりくんも泊まることにして、部屋のベットに座っていました。


すると、大きな荷物を持った太ったもぐらが部屋に入っていました。


太ったもぐらは言いました。


「ベットが一つ空いていると聞いたんだけど、ここの部屋に一緒してよいかな?」


もぐらくんとひまわりくんは、言います。


「どうぞどうぞ。入って一緒にお話しをしようよ。」


太ったもぐらは大きな荷物をベットの横に置き、ドスンとベットに腰を掛けます。


太ったもぐらは、もぐらくんとひまわりくんに話かけました。


「君たちはなぜこの町へ来たんだい?」


もぐらくんは言います。


「ぼくらは、旅の途中さ。いろんなところを見て回ろうと思ってるんだ。」


「おじさんはどうしてこの町に?」


太ったもぐらは言いました。


「僕はただの根無し草さ。あても無くあちこち旅をしているんだ。」


もぐらくんは言いました。


「ならぼくらと同じだね。急いでないなら、おじさんの旅の話を聞かせてよ。」


太ったもぐらは言いました。


「それはいいが、僕も君たちの話を聞きたいな。」


もぐらくんとひまわりくんは、喜んで今までのことを話します。


土の中で種のひまわりくんを見つけたこと。


ひまわりくんが枯れそうになったこと。


もぐらくんが白ヘビ様にお願いして、ひまわりくんを助けたこと。


旅に出たもぐらくんを追いかけてきたこと。


そして、今まであった人の話をしました。


太ったもぐらはおもしろそうに前の目になりながら話を聞きます。


話を聞き終わると太ったもぐらは拍手をして言いました。


「素晴らしい冒険の旅の話だった。」


「君たちの冒険の旅はまだまだ続くわけだね。」


もぐらくんとひまわりくんは、ニッコリしながらうなづきました。


太ったもぐら言います。


「君たちの話に見合うかわからないけど、僕も話をしよう。」


そういうと、太ったもぐらは自分が子供のころ、故郷での話をし出しました。


太ったもぐらくんの故郷はずっと北にある年中雪におおわれた町だそうです。


でも、そんな町でも3日だけ春が訪れるのだそうです。


春が訪れるとき、その町の木の枝に小さな実がつき、それが春の訪れの合図なのだとか。


みんなその実を「小さな幸せの実」と呼んでいました。


子もぐらもその実がなるのを楽しみにしていました。


ある日のこと、雪の中を歩いていると、雪の野原に小さなテントを立ててたき火をしている人がいます。


子もぐらは、その人に近づき話しかけました。


「あなたは誰?」


その人は言いました。


「オレは旅の黒猫さ。ずっと南の町から旅をしながらここに来たんだ。」


旅のクロネコは言いました。


「オレは自由が好きで、自由に旅をして、自由に歌を歌いながら、あちこち旅をしているのさ。」


子もぐらはクロネコに聞きました。


「自由って何?」


クロネコは言いました。


「自由ってのは、何にもとらわれず、自分の思った通りに生きることさ。」


「自由は素晴らしいぞ。子もぐらはこの町から出たことはあるのか?」


子もぐらは言いました。


「僕はずっとここに住んでいるから、ずっとこの町から出たことがないよ。」


するとクロネコは言いました。


「じゃあ、もう少し大きくなったら旅にでるといい。」


「外の世界はこの町の中の何万倍も広くて、想像もつかないほどいろんなものがあるんだ。」


子もぐらは驚きながらいいました。


「そんなに広いのかい?」


クロネコは言いました。


「そうだ。たくさんの町、景色、人たちがいるんだ。」


そういうと、クロネコはいままでの冒険の話をしてくれました。


子もぐらは前の目になりながらその話に聞き入りました。


そして、クロネコは背中に抱えたギターで歌を歌ってくれました。


それは、自由を歌った歌でした。


子もぐらはクロネコのすっかりファンになっていました。


子もぐらはクロネコに聞きました。


「クロネコさんは、どうしてこの町に来たんだい?」


クロネコは答えました。


「オレは、この町に実る「小さな幸せの実」がほしくてやってきた。」


「その実をブローチにして帽子の飾りにしようと思ってさ。」


子もぐらは言いました。


「その実は春が来るまで実がつかないから、いつになるかわからないよ。」


クロネコは言いました。


「かまわないさ。時間はたっぷりあるんだ。気長に待つよ。」


そういうとニッコリ笑いました。


その後も、クロネコは雪の中ずっとテントで暮らしてその実がなるのを待っていました。


何日も何日も、吹雪の中でも、実がなるのを待っています。


その間、子もぐらくんは、クロネコのところに行っては色んな冒険の話や歌を聞いて仲良くなっていきました。


子もぐらはクロネコに聞きました。


「こんなに寒い中、何日もテントで暮らして大丈夫?」


クロネコは笑いながら言いました。


「宝物は苦労して手にいれるもんさ。」


「それにこれで、「小さな幸せの実」のありがたみも感じられるだろ。」


クロネコが来て何か月も経ったころ、いよいよ春が訪れようとしました。


子もぐらは、ずっと暮らしているので外の空気でそれがわかりました。


子もぐらは、急いでクロネコのところへ行きました。


クロネコは子もぐらの話を聞いて、二人で実のなる木まで向かいます。


木の下まで来た二人は枝を見つめます。


二人の目の前で実が付きどんどん大きくなっていきます。


二人は踊りながら喜びました。


子もぐらはクロネコに言いました。


「クロネコさんの努力がやっと報われる時がきたね。すぐに小さくなるから今のうちに取った方が良いよ。」


しかしクロネコは見とれて動きません。


子もぐらが言いました。


「早く取りなよ。」


しかしクロネコは見とれながら言いました。


「こいつは取れないさ。」


子もぐらは驚いて理由を聞くと、クロネコは言いました。


「ずっとこの地に居てわかったんだ。この実は、この土地に住む人たちの為の「小さな幸せ」なんだってさ。」


「オレは自由だが、人の幸せを奪ってもよい自由は持っちゃいないのさ。」


そういうと、その実が萎む瞬間まで、クロネコと子もぐらはずっとその実を見ていました。


実がなくなる頃、この土地に春がやってきました。


クロネコは次の土地へ出て行きます。


子もぐらが見送りをしに来てます。


子もぐらが聞きます。


「クロネコさん。また会えるかな。」


クロネコは言いました。


「坊主が、この町にいるうちは、当分会えないだろうな。」


「ただ、もし、坊主が大きくなってオレのように自由に旅にでたら、どこかの町で会えるかもしれないな。」


そう聞いて子もぐらは言いました。


「じゃあ、ぼくも大きくなったらクロネコさんのように自由に旅をするよ。」


「クロネコさんはぼくの憧れの人だからね。」


そういうと子もぐらはニッコリと笑いました。


二人はニッコリ笑い合いました。


太ったもぐらは話を続けます。


「そして、オレは故郷から旅に出たのさ。」


「オレはクロネコ先輩のようにギターを弾いたり歌を歌ったりはできないが、本を書いて旅をしているのさ。」


「だが、まだクロネコ先輩には会えてないな。」


「二人と同じでオレの旅もまだまだ続くわけだ。」


そういうとニッコリ笑いました。


太ったもぐらの話を聞いて、もぐらくんとひまわりくんは目を潤ませて感動して言います。


「クロネコ先輩。なんて素敵な人なんだ。」


すると太ったもぐらは言いました。


「君たちもまだまだ旅は続くんだろ?」


「だったら、いつかどこかで会えるかも知れないな。」


もぐらくんはひまわりくんと目を合わせて言いました。


「でも、ぼくらはまずは、あなたの故郷の枝につく「小さな幸せの実」を見てみたくなったよ。」


ひまわりくんも言います。


「ぼくらの次の目的地はそこで決まりだ。」


太ったもぐらは言いました。


「じゃここから、北へ続く道を真っすぐ進むんだ。その道の突き当りの海にオレの故郷があるからな。」


太ったもぐら、かばんから一通の手紙を出してもぐらくんたちに渡し言いました。


「おれの故郷についたら、この手書きを丘に暮らしている少年に見せるんだ。」


「その少年はオレの友達だからきっと泊めてくれる。」


「ここみたいに宿なんてないからな。きっと助かるだろう。」


もぐらくんとひまわりくんは手紙を受け取り言いました。


「ありがとう。おじさん。お礼に僕らもおじさんに良いものあげるよ。」


そういうと、ひまわりくんの種を渡し言いました。


「ひまわりくんの種は、お願いを一つだけ叶えるチカラがあるんだ。」


「もし、おじさんが本当に叶えたいことがあるなら、心から願い種を食べたらきっと願いが叶うよ。」


太ったもぐらは種を受け取り言いました」。


「ありがとう。ただ、オレは今も自由に暮らしているから急いで叶えたい願いはないな。願いが出来たら試させてもらうよ。」


もぐらくんとひまわりくんは、太ったもぐらに別れを告げ、走って北への道に向かいました。



宿には太ったもぐらが一人で机に向かっています。


大きなマグカップに入れたコーヒーを一口のみ、ひまわりくんの種を見つめています。


太ったもぐらは言います。


「素敵な種だな。そして素敵な話だった。」


そう一人呟くとひらめいて顔をして言いました。


「良いことを思いついた!」


「こうしたらたくさんの人に、少しづつでも幸せを分かち合えるかもしれない。」


そういうと、太ったもぐらはその種をすりつぶし、粉末にして、インクの中に混ぜました。


そして、紙を取り出して、その種を混ぜたインクでサラサラと本を書き始めました。



2時間経ち、3時間経ち、太ったもぐらは本を1冊書き終わり言いました。


「彼らのおかげで良い話が作れたよ。」


そして、上に表紙をつけて、紙を綴りました。


その「もぐらくんとひまわりくん」と書かれた本を大事そうに封筒にしまい、太ったもぐらは、もう一口コーヒーを飲んで満足したように、ウンウンとうなずくのでした。



つづく。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ