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その一歩は未来の為に  作者: 花蝶水月/五月雨黛
エピローグ
9/9

その一歩は未来の為に

最終回!!




 広い講堂にホワイトボードを囲む様に半円形で階段式のテーブルが並べられている。

 そんな講堂の窓の外で蝉の鳴き声が聞こえる。

 室内はクーラーを着けていると言うのに日差しのせいでじんわりと暑く、薄着を着ているのにうっすらと汗をかいてしまう。


「水乃~!

 次の授業一緒に行こう」

「ん?あぁごめん

 今日はこれから用事あるから休むわ」

「えー、出席日数大丈夫?」

「大丈夫よ

 後2回は休める!」

「いや、休むなよ……」


 あの日から三年、私は他県の大学に進学し独り暮らしをしている。

 友人も大学で何人かつくり、それなりに過ごしている。


「所で用って……彼氏?」

「……どうでしょう?」

「え、待って!?

 水乃が?

 マジで!?」

「じゃあね

 あ、明日も休むから」

「えー……」






 じんわりとした暑さの中に(ひぐらし)の鳴き声と涼しいそよ風が吹く夕方に、夜行電車に乗り込む。

 小刻みに揺れる電車の狭い(せまい)寝台の中で考える。

 大学生の凪を。


 (とろ)ける様な優しい笑顔で私に……

 ―――今日もお疲れ様です。

 荷物持ちますね。

 今日は御友人と一緒ですか?

 水乃ちゃん、飲み物と甘いお菓子を用意してありますが食べますか?


「彼氏か……」


 凪が大学まで生きてたらきっと……なんて。






「ふぅ、久々だな此処も

 海だしあんまり変わってないね」


 前と違うのは、今は夕方じゃなくて朝の太陽を見ている事ぐらいかなぁ。

 凪と最初に来た海。

 凪と別れた海。

 思い出の海。

 凪と写真を撮った堤防。


 私は道すがら花屋で買った白いダリアの花束を海に流す。


「おや、お嬢ちゃんそんなところに花束なんてどうしたんだい?」


 海の家のおじさんが話しかけてきた。


「あ、ごめんなさい……駄目でした?」

「……いや、良いよ別に

 ……と言うかおじさんにそんな権限ないよ」

「……此処は私と……友人が好きな所なんです」

「……花はそのお友だちにかい?」

「……はい」

「そうかい

 きっと喜ぶだろうね」

「えぇ、そうですね」


 おじさんは私の肩を慰めるように軽く叩き、立ち去る。


「凪……」


 あれからすぐにはやっぱり凪の事忘れられなかったよ。

 それは今もだけど、あの頃程じゃない。


「ねぇ凪、凪のお父さんとお母さんもちゃんと頑張ってるよ

 あの日から私も少しずつだけど友達増えたよ

 勉強だってまぁ………頑張ってるよ

 そう言えば私今独り暮らしなんだけど、その前にお父さんと大喧嘩しちゃって……」


 凪にこれまでの事を報告する。

 傍から見れば独り言を言ってる変な奴だろうけど幸いにも此処は今も昔も人が少ない。

 暫くして近況報告を終えると本題に入る。


「凪……安心して

 まだ凪にすがるほど未練残してないよ

 ただ報告したかったの」


 ―――私、今日で二十歳(はたち)になったよ。


「ふう……さてと」


 このまま里帰りをしよう。

 二十歳に成ったことをお父さんとお母さんに祝ってもらおう。

そして感謝しよう。

 産んでここまで育ててくれたことに。

 そしてちゃんと凪のお墓に行って花を添えて……


「大丈夫、すぐには変われないけど立ち止まらないから

 ちゃんと進むよ、だって私は生きてるからね」


 そのうち凪より良い彼氏ゲットしてやるんだから、と冗談混じりに呟く。






 昼の太陽に手を伸ばして透かす。

 私の中を流れる赤色が私が生きていることを証明してくれる。

 あともう少しだけ海を眺め、海を後にしようと海に背を向ける。

 その時、流したはずの白のダリアの花びらが海の風に乗って私の頬を掠める。

 その瞬間、聞こえた気がした。


『大丈夫だよ、水乃ちゃんなら』


「え?」


 私の大好きな人()の声に思わず振り返る。

 しかし、凪は居なかった。


「……気のせいか」


 潮風が緩く優しく頬を撫でる。

 それがあの日を思い出させてほんの少しだけ視界が滲む(にじむ)

 危うく涙を流しそうになってしまうが、我慢して堪える。


「じゃあね、凪」


 そして私は海を後にした。




完結です!

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