ずっと君だけ
凪君の中学生時代が余りにも少なかったので、消さない『緩和休題』を挟みます。
もしかしたら軽くキャラクター崩壊が起きてるかもしれないです。
ご了承ください。
サブタイトル変えました。
これは高校生の僕のもしかしたら、あったかもしれない物語。
今日は水乃ちゃんの朝練の日。
僕にも一応生徒会の一員として仕事がある。
そのついで……なんて言ったら水乃ちゃんに怒られるだろうか。
大丈夫、ついでじゃ無いよ。
だから怒らないでね、水乃ちゃん。
中学に入ってすぐ、水乃ちゃんと一緒に学校に行きたいからと無理言ってそれからずっと僕は水乃ちゃんと一緒に登下校をしている。
高校生になっても僕らは一緒に登下校をしていて、水乃ちゃんからも特に拒否されないので、そのままいつも通りにしている。
行きは主に僕が迎えに行くが、帰りは殆ど水乃ちゃんが僕を迎えに来る。
このサイクルは中学1年の頃からずっとやってる。
今はもう慣れてしまったが、早朝というだけあって少しだけ肌寒い。
蜩の鳴き声を背景に僕はいつも通り水乃ちゃんの家を出る時間より少し早めに出て、水乃ちゃんの家まで迎えに行く。
いつも通りの時間に寝ぼけ眼で玄関を開ける水乃ちゃん。
水乃ちゃんが朝練の日はいつもこんな感じだ。
「おはようございます、水乃ちゃん
今日も良い天気になるそうですよ」
「うん、おはよう凪……いつも有り難う」
寝ぼけているからか、水乃ちゃんは僕の方を向いて眠そうな顔で微笑んで素直にお礼を言った。
これも……いつも通り。
実はこの瞬間が一番好きだったりする。
頬が緩むのを止められないが、水乃ちゃんは気付かずにふらふらと学校に向けて歩き出す。
学校に着くまでには水乃ちゃんもちゃんと目を覚ますから良いけど、それまでが危なっかしくて僕がいつも不安になるのは言うまでもない……。
そしていつも通りに学校まで他愛もない話をして水乃ちゃんの隣を歩く。
これは後々生徒会長から聞かされた事だったんだが、どうやら毎朝僕が水乃ちゃんを送ってる様は周りのチラホラといる目撃者からしたら、恋人の様に見えていた……とか。
それに、どうやら僕が水乃ちゃんを守る番犬や忠犬にすら見えていたと言っていた様な……。
放課後、僕は後輩に当たるであろう数人の可愛らしい女子に声をかけられ、その内の一人……大人しげな女子に体育館裏に呼び出されていた。
何かのゲームでもやってるんじゃ無いかと勘違いしてしまうぐらいには、最近僕に対しての告白率が上がって来たと言うか……。
何回告白されたのか……もう数えるのも難しい。
「な……凪先輩、ずっと前から好きでした
付き合って下さい」
「……有り難うございます、でも……ごめんなさい
僕、好きな人が居て……」
「え……もしかして、その人って……
あ、あの先輩!
その人とは、もう付き合って……るんですか?」
「え、いや……その、それは……」
「付き合ってないんだったら!
先輩が……その人と付き合うまでの、試しでも繋ぎでも良いから……だから、付き合ってください」
どこか不安気に、瞳を潤ませて僕を見上げる彼女はきっと誰が見ても可愛いと思えるんだろう。
僕も、水乃ちゃんにその表情をされたら、我慢出来るか解らないと思う。
だけど彼女は水乃ちゃんでは無い。
悔しい事に、水乃ちゃんでは無いのだ。
それに彼女のこの提案は……きっと僕と彼女が傷付くだけじゃ済まない気がする……。
「……ごめんなさい
それはきっと貴女にとっても良い結果を生まないと思います」
だからどうか、今よりももっと傷付く前に僕を諦めて?
「そう……ですよね、ごめんなさいっ!!」
「あっ……泣かせて、しまいましたか」
解っていた事であってもショックは早々拭える物でも無く、彼女はとうとう涙を流してしまい、走り去ってしまった。
彼女を泣かせてしまった事に暫くの間、罪悪感が抜けなかったが、僕に水乃ちゃんと言う好きな人が居るのは事実だし、断るしか僕には出来なかったのだと思い直した。
そもそも彼女は僕のどこを見て好きになってくれたんだろうか……。
僕が色々と勘違いしてしまう前に、聞いてみたい好奇心はある。
だけど彼女に、こんな事聞いてしまうのはきっと不躾だろう。
あの告白の後、僕は気まず気に「遅くなりました」と言って生徒会室に行ったら生徒会長にからかわれ、役員に苦笑されながら雑務をこなした。
放課後は生徒会の会議とかその他雑務で忙しいと言うのに、告白の為に呼び出されたと思ったら、展開が酷く混沌とし始めて最終的に彼女を泣かせてしまうだなんて……。
……こんなの予想外過ぎる。
「はぁ……」
「よ、モテ男」
「え、水乃ちゃん?」
「凪、また女の子フッたわね」
「えっと、何で知って……いえ、もしかして見てましたか?」
「見てなくてもさすがに解るわよ」
「えっ……」
「ねぇ凪、彼女……作らないの?」
「へ!?」
丁度帰ろうとしていた所で水乃ちゃんに声をかけられた。
いつも通り僕の事を待っていてくれたんだろう。
それにしても、水乃ちゃんはどうして僕に彼女を作って欲しいのだろうか……。
僕は水乃ちゃんの横を歩きながら考えてしまう。
「こんな事になるなら、彼女は作る気無いと広言するなり彼女作って虫除けしとかないと、今以上に大変な事になるわよ
まったく、凪は只でさえ誰にでも優しくて女の子を変に期待させるんだから」
「む……虫除け、ですか」
「じゃないと確実に今以上に女の子が泣くわよ!」
「それでも……僕は軽い気持ちで応えて付き合うのは良くないと……」
「……そう言う凪の誠実さは良い所だと思うけど、凪に告白して泣いた女の子達は殆ど私の所まで訴えに来てるわよ
あの子達からしたら私が居るからフラレたんだそうよ」
「え?何でっ……」
「それは勿論、私が凪の幼馴染みだからよ」
「そんなっ……」
「私が凪の幼馴染みだから凪の好きな子が私だと思ってるみたい」
その子達の言ってる事はあながち間違いでもないんだけど、何で周りにはバレてるんだろう。
僕そんなに解りやすいかな……。
水乃ちゃんは最後に「良い迷惑よね」と悲しげに呟く。
水乃ちゃんにとってその子達の言葉が良い迷惑って事は僕の想いも……
「水乃ちゃん……」
「女の子を無駄に悲しませちゃ駄目だって言ってるのよ」
「……僕、好きな子なら……居ますよ」
「えっ……本当に!?誰!?」
「……今は言いたく無いです」
「っっ!?
……何でよっ!?」
「まだ僕に自信が無いですから……」
「もしかして……一生養ってく自信とかって言うの?」
「え、まぁ……水乃ちゃんは僕がそう想ってたら重いと、感じてしまいますか?」
「え……何で私に聞くのよ
私は……本当に好きな人に言われたら、多分……嬉しいかもしれないけど……でもあの子達からしたら、重いのは確かよ!」
「そ……そうですか」
「……何なら凪が好きな子に告白するまで私が虫除けになってあげようか?」
「水乃ちゃん……?」
「冗談よ、バーカ」
「えっ……?」
「まったく、昔から意気地なしなんだから……」
呟く様に言われたその言葉は役に立たない僕に対する怒りを抑え込む様な、諦めてしまった様な口振りだった。
そして水乃ちゃんは歩調を早め先に行ってしまい、僕からは表情が見えなくなってしまった。
「待って……ください
水乃ちゃん……」
水乃ちゃんからそんな事聞きたくなかった。
そんな諦めた様な、傷付いた様な表情で言って欲しくなかった。
僕の好きな人がこんなに泣きそうな表情で……。
どうすれば……良いんだろう。
「水乃ちゃん……僕の好きな人は……」
今も昔もたった一人だけなんだ……
今、私の隣に凪は居ない。
さっき私から振り切ったんだ。
それでも、私の傍に凪が居ないが居ない事がこんなに辛く、寂しく感じるだなんて……。
「ほんと、早く好きな子に告白でも何でもしちゃいなさいよ……ばか……」
じゃないと、この馬鹿みたいな希望が消えてくれないじゃない……。
調子に乗ったら長くなっちゃった……。
次回、「珈琲」水乃目線です。
改稿終了