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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

異世界IN

異世界 IN 「 」 その4

作者: 秋月みのる

……その4。言っちゃなんだけど内容が薄い。


 

 ――どうしてこうなった?


 俺はポルタという神さまに最強チートを貰って転生させて貰った。

 だが、こんな事になるなんて全然聞いていない。

 

 ――だって異世界の連中が誰も俺に気づかないんだから。


 俺が貰ったスキルの名前は『アルティメット・ステルス』

 このスキルを持っているだけで誰にも俺の姿は見えず、声も聞こえず、匂いすらも感じなくなる最強の隠蔽スキルだ。俺はこのスキルを聞いたとき、最強のアサシンになれると思った。

 だけど、現実は違った。このスキルは俺の想像以上だった。

 おかげで俺が何をしても異世界の連中は気づかない。

 アサシンになろうにも俺をアサシンと認めてくれる人すらいないのだ。


 誰にも見えないから何にも出来ない。何のアクションを起こしても意味が無い。

 最強チートでも誰にも認識され無ければその時点で意味が無いのだ。

 俺はどうしたらいいんだ?

 誰かに尋ねようにも誰にも俺の声は届かない。

 まるで俺だけこの世界に実在していないような感覚だけが俺を支配する。

 ただ、無情に時だけが流れ続けていく。



 ――誰にも見えない俺は日々の糧を盗みで賄っている。

 盗んでも誰も気づかない。

 やりたい放題出来るのはわかっているが、そんな事をしても虚しいだけだ。

 俺は異世界で無双はしたかったが、大悪人になることは望んでいない。

 せいぜい行った悪事も万引きと覗きくらいのもんだ。

 どちらかと言えばヒーローになりたい。

 ヒーローは名声を得ないといけない。だが気づかれないと名声は得られない。

 俺は虚しかった。虚しいが虚しいなりに自己顕示欲を満たしてみようと思った。

 街の大通りに落書きをしてみた。

 しかし、「アルティメット・ステルス」のせいで俺の落書きすらも隠蔽がかかっているらしく誰にも見えないようだった。

 

 ――日々、こんなはずじゃないのにと虚無に過ごしていく。


 ある日、コソ泥を見つけた。幼い少年だ。

 俺は少年を捕まえようか迷った。少年の身なりは貧しかった。生きるために盗みを働いたように見えた。少年の後を追いかけてくるのは軽鎧で武装した街の警備員。

 俺は逡巡した後、警備隊の前に立ちふさがることにした。

 すまんな。と、心の中で謝りながら。

 

 ――だが、警備隊の男は俺の体をすり抜けていった。


 まさか、と思った。同時に何故と俺は思う。

 俺は地面に立っているし、果物なんかは掴むことが出来る。だけど人には触れない。

 試しに通りを歩いている人に触れてみたが同様にすり抜けた。

 

 どうやら『アルティメット・ステルス』は俺の行動によって生じる違和感すらも消してしまう効果があるらしい。

 思えば、俺が果物を盗んでも店の主は一度も減っていることを疑問に思ったことがない様子だった。一応の検証してみる必要がありそうだ。


 俺は露天の果物屋から果物を奪ってみる。だが、特に変化は無い。

 今度はその果物を食べてみる。すると、俺が食べた分の果物が商品に勝手に補充された。

 もう一つ、店主が違和感を感じ始めたその時点でも俺の手元から果物が消えて補充された。

 ふと、落書きが気になってそちらへも向かうが、落書きは綺麗さっぱり消えていた。

 要は俺が何らかのアクションをしても『アルティメット・ステルス』が全部痕跡を消してしまうと言うことだ。俺の行動全否定である。

 人に触れないのは、触れた時点で誰かの認識を阻害してしまうから。


 ――つまり、俺はこの世界に一切干渉できないことになる。


 干渉できず、ただただ無為に生きる。誰も俺には気づかない。俺が何をしても痕跡が残らない。

 俺はいない物として世界は平常に回り続ける。


 ふざけんな。流石に究極過ぎる。究極的に俺がいない。

 だが、確かに俺は存在している。俺だけが認識している俺という存在。

 『パーフェクト・ステルス』ではないのは俺が俺自身を認識できるからでは無いだろうか。

 つまり、俺は俺にしか干渉が出来ない。

 

 ――誰かに気づいて欲しい。


 別に真っ白な部屋に一人隔離されたわけじゃない。なのに一人ぼっちだ。

 街の外に出ても魔物にすら襲われなかった。

 俺は世界から徹底的に無視されている。

 人がいる分、誰かに気づいて貰えるんじゃ無いかと希望をちらつかされている。

 ほんとに質が悪い。

 誰とも喋れない。触れることが出来ない。人恋しい。


 ――百日ほどたった。


 「あはは、そうだよねー」

 俺は主婦の井戸端会議に参加している。と、言っても相槌を打つだけだ。

 誰も俺に気づいちゃいない。だけど、誰かと話している体裁が無いと俺は気が狂いそうだった。


 ――二百日ほど経った。


 俺は思い出に浸っていた。前世の両親のこと。好きなゲームやアニメのこと。

 思い出を掘り返すだけの日々。

 決して新しい思い出が増えることは無い。


 ――三百日が過ぎた。


 変化の無い日々。娯楽が無い。毎日俺は叫びを上げていた。

 しかしその叫びも誰にも届かない。


 ――四百日が過ぎた。


 「……あのさ、とっちゃん。明日遊べるかな?」

 「うん、遊ぼう遊ぼう。何して遊ぶ?」

 「待て、俺も混ぜろよ」

 「じゃ、三人であそぼっか。へへへへ」


 ……気づくとありもしない虚像と俺は話している。

 一人で複数役をこなしている。

 思い出の中なら俺は友達と会話することが出来たから。

 

 ……確実に俺は壊れてきている。


 ――五百日が過ぎた。


 俺は奇声を上げながら闇雲に突っ走ったり、物陰でじーっとしたりして過ごしている。

 考えるのをやめた。気を紛らわすために本能に従って暴れ続けた。どうせ何を壊したって元通りになってしまうのだ。


 ――二年が過ぎた。


 俺はついに鍛冶屋からショートソードを盗んだ。

 そして、自分の腹に突き刺した。

 

 ……限界だった。





 ――気づけば真っ白な部屋にいた。


 俺を異世界に送り込んだポルタとかいう神が俺をつまらなそうに見ていた。

 その冷たい視線が俺は溜まらなく嬉しかった。ようやく認識されたのだ。


 「……じゃあね。思った以上に地味だったよ。つまらないから消えちゃえ」


 俺は今度こそ意識も残さず綺麗さっぱり消滅した。

 俺がアルティメットからパーフェクトになった瞬間だった。

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