(19)
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宵山の明かりが無数に煌き華やいだ落ち着きと古の幻を注いでいた。「春駒」に身をおいてから二度目を迎える祇園祭の宵である。再び理香と落ち合い賑わいの四条へと繰り出した。広い街路は歩行天国に変わり人々の熱気と狂騒とでうごめいた。蒸し返すような行列は少しずつしか前に進めず人々は汗ばむ肌と肌を擦り合わせながらそれぞれが持つうちわで僅かながら風を起こしつつ練り歩いた。
拓馬はこの伝統の祭りがしきりに「春駒」の珠の心情を映し出すかのように思われてならなかった。形式だけが見事に貫かれ守り抜かれてきた神秘な風習とともに誰にもことを荒立てない雅な体裁だけが奥深い啓示として存在するのである。
その美徳に対して人々はまるで酔いしれるかのように歴史の本髄を垣間見るのであった。
「どうなの?着付師の仕事は」
「まあ何とか」
「そう。惹かれるものは大切にしなくちゃね」
「うむ。まあね」
理香の言葉に空虚さを覚えていた。今や着付師よりも「春駒」に漂う越えることのできない難しい概念の壁に直面していた。技に魅了された経緯の影はすっかり形を潜めた感じになっていた。拓馬にとってこの社会に生きるためには珠のいう体裁だけを第一に考えなければならなかった。そうしなければ伝統の技は生かすことができない。どっぷりと嵌まり込んでいく閉鎖的な体質が眼の前にまで迫っていることを意識せざるを得なくなっていた。
「そっちの水の研究は面白い?」
「相変わらずよ。捗ってるわ」
「そう」
「そのまま研究室の道を進むの?」
「今はそう考えている」
理香は期待を膨らませていた。
巡行する山鉾の提燈の明かりが拓馬を哄笑するかのように冷淡な光を放っていた。稚児たちのかき鳴らす笛や鐘の音もいつのまにか錆び付いて神妙な響きに変わって聞こえた。そしてその向こう側にはイサオや理香の姿が自由に跳ね回っている光景が展開していた。
自分を魅了した世界は果たして何であったのか。拓馬の捉えようとする胸中にそれは遂に不詳のまま埋もれていき祇園囃子の音色とともに行き交う人混みのなかへ消えていった。




