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実技と手裏剣

 照明に照らされた地下室の中。

 整列したクラスメイトは、全員制服姿で“(つえ)”をホルスターで身体のどこかに帯びている。


「それでは、これよりESP実技を始めます」

 先生の合図で、一部の生徒が大声を上げてはしゃぎ、多くの生徒が気をひきしめた。

 かくいう俺も、楽しみで仕方がなかった。

 なにしろ、これがESP高で初めてのESPの実技だからだ。




 ESP高の実習に使われる練習場は、学校の地下にある。

 まるでSF映画に出てくる秘密基地のような練習場に、ロボットがせり上がってきそうな大型のエレベーターでクラスごとに降りる。

 地下練習場はESP高のホームページやパンフレットで見たことはあるが、実際に目にすると更に違う。

 天井は講堂と同じぐらいの高さがある。広さはそれ以上で、ひょっとしたらグラウンド並みに大きいかもしれない。

 ESP高のことを知らない人が「ここは軍の基地の地下です」と言われると信じてしまうかもしれないな。いや、それは大袈裟かな。


 実技の先生は担任の山田(やまだ)先生だ。

 山田先生自身もESP能力者で、ESPの、特に魔術の実技を担当する。

 ESP高の先生全員がESP能力者というわけではないが、山田先生のようにESP能力者の先生が実技(座学もだが)の先生となる。


「まず皆さんに行ってもらうのは、こちらの機械を用いた測定です」

 先生は、俺達の前に一台の機械を置いた。

 真ん中に大きなモニターが1つ、左右に小さいモニターが2つ付いた病院で使われていそうな機械だ。

 ああ、分かったぞ!

「お察しの方もいるかもしれませんが、これは“オーラ測定器(そくていき)”です」

 先生のその言葉を聞いたとき、数名があからさまに落胆した。

 いやいや、これも大切な基礎練習だ。

 まあ、確かに地味だけど。


 “オーラ測定器”は名前の通り、人間の持つオーラを測定し、数値化、可視化する装置だ。

 小さいモニターに両手をかざすと、その間をオーラが流れ、そのエネルギーの流れを表示し、更に数値にして出す。

 ESP公表後、この装置により、偽物の超能力者や霊能力者、魔術師など、自分がESP能力者だと偽って活動する人物をいぶり出すことができるようになった。

 また、ESP能力者の持つオーラの量を測定することで、その人物の“能力”の指標を示すことができるようになった。


「今日の授業内容は、前半はこれを用いてオーラを流す訓練、後半は魔術、超能力、霊能力の班に分かれて実習を行います」

 みんなは(半分ぐらい渋々とだが)オーラ測定器の前に並ぶ。

 ちなみに、今日は背の準なので、大久保(おおくぼ)はずっと前の方にいるらしい。


 受験のときにも、実技試験であるESPの披露と一緒にやったからな。今更受験のときと同じことをしてもしょうがないって気持ちも分かる。

 でも、こういう基礎をおろそかにしていては、覚えられるはずのESPも習得できない。

 勉強だってそうだ。受験生のとき、数学の基礎が分からないままだったとき、数学の成績は壊滅的だった。

 それと同じことが、ESPにも言えるはずだ


 受験といえば、帰りに会ったあの女子は、受験に受かったのかな?

 顔はほとんど忘れたけど、かなり可愛かったはずなんだよな。

 名前も忘れちまったのはきついな。探したくても探しようがない。




 そうこう考えているうちに、俺の順番が来た。

「よし……」

 おれは気合いを入れ直し、オーラ測定器に手をかざした。

 力を吸われる感触とともに、真ん中のモニターに電流とスパークのようなものが映る。

「おお!」

 いつ見てもこの流れは壮観だ。

 俺はまだ、肉眼でオーラを見る“オーラ可視化(かしか)”に関しては未熟だ。

 こんな風にはっきり映ると心が躍る。

上杉(かみすぎ)君、オーラの出し過ぎです。調節した方がいいですね」

 先生にそう言われた。そうかな?

「そうだぜ、上杉。そんなに出してたらオーラが尽きる」

 楠木(くすのき)にも言われ、本当にそうなりそうな気がして不安になり、オーラを止めた。


「あの、そんなにオーラを出し過ぎでしたか? あれで普通ぐらいだと思っていましたが」

「普通ぐらいって……。疲れていませんか?」

 先生、一体どうしたんだ?

「いえ、特に……」

「もしあの調子でオーラを出し続けていたら、オーラの枯渇により倒れていたかもしれない……。念のため、少し休憩を取ってくれますか?」

 先生はいつもの柔和な様子とは違い、少々焦った様子だ。


 オーラは体力と別に考える傾向も強いが、生命力にもつながっている。

 休めば消費したオーラは回復するし、オーラが減ったりすると肉体も弱る。

 ここは先生の指示に従った方がいい。

「はい。それでは、向こうで休んできます」

 しばらく俺は広い地下練習場の隅で休んでいることにした。





 後半から、実際にESPを用いる時間に入った。

 ちなみに、超能力に適正のある生徒は、超能力を持つ平田(ひらた)先生、霊能力に適正のある生徒は、霊能力を持つ江角(えすみ)先生のもとで授業を受けている。

 全ての生徒が魔術、超能力、霊能力のどれか一つしか持っていないことが多いので、仕方がないことだ。

 ESP高のコースが分かれるのは2年からだが、半分入学したときから決まっているようなものかもしれない。


「まず、これから魔術を実習で使う前に、まずは魔術の仕組みについてお話ししなければなりません」

 山田先生は、ESP高指定の“杖”を取り出して続ける。

「座学でも説明しましたが、“魔術”とは、魔力というエネルギーを用いてこの世界の様々な事象に干渉する技術です」

 俺はESPの本を色々読んできたから知っているが、ちゃんと聞こう。

 一応俺は、魔術も初心者同然なんだから。


「無論、世界の事象に干渉する技術というだけあって、魔術にもルールがあります。一つ、消費される魔術に見合ったことでなければいけない。一つ、世界の法則に則ったことでなければいけない。一つ、世界の法則そのものを作り替えることはできない」

 俺は『なんとなく』でESPを学んできたが、魔術の法則をきちんと定義するとそうなるんだな。




 『消費される魔術に見合ったことしかできない』。

 より優れた、精密な、大規模な魔術を使用するには、より多くの魔力を消費する。

 RPGでも、強力な魔法を使うには、より多くの魔力を消費しないといけないのと同じだ。


 『世界の法則に則ったことでなければいけない』

 魔術も何らかの法則に則っている。

 例えば、何もないところから金の塊を作り出すことはできない。

 (ゼロ)から有を作り出すことはできない。


『世界の法則そのものを作り替えることはできない』

 一人の選手の独断でスポーツのルールを変更することができないように、一人の魔術で世界や魔術の法則を変更することはできない。

 魔術は便利だが、決して『何でもできる』わけではないのだ。




「今日行うのは、魔術の基礎となる“使役術(しえきじゅつ)”です」

 “使役術”なら、俺も何度もやっている。

 でも、ちゃんと基礎から学ぶべきだ。

「“使役術”とは、その名の通り、物を魔力と魔術により動かす魔術です。その仕組みを分かりやすく解説するために、このようなものを用意しました」

 山田先生は、足下の鞄を開けて色とりどりの何かを手に取った。

 2色の折り紙で作られた手裏剣だ。

「この手裏剣を“使役術”を用いて浮遊させます」

 山田先生がそう言うと、手裏剣が掌の上から浮かび上がった。

 おお、と感嘆の声が上がる。


「まずは、皆さんにこれを浮かび上がらせてもらいます。ちなみに、基本的な“使役術”の“(しき)”はこちらになります。『自分で“使役術”ぐらいできるよ』っていう人も、今日はこの“式”を使ってください」

 先生は、手裏剣と一緒に、魔法陣が描かれたプリントを配る。

 プリントには、魔法陣と、下に“使役術”の詠唱タイプの“式”も書かれていた。

 これは描かれた“式”を使う方が向いている人と、口に出して詠唱する方が向いている人とがいるので、そのための配慮だ。


 俺は早速プリントの“式”の通り“使役術”を発動して、手裏剣を浮かべる。

 周りは、手裏剣がひっくり返って地面に落ちたり、浮かび上がってもグラグラしていたりする。

 やっと分かったが、手裏剣型なのは“使役術”を効率よく使えているかどうかの指標になるからだ。

 手裏剣のどこか一ヶ所に力が偏っていたりすると、対象の動きは不安定になる。

 上手く浮かべるには、力をバランスよく注いで浮遊させるしかない。




「どう? すごいでしょ」

 俺の後ろに、いつの間にか大久保(おおくぼ)神流(かんな)が来ていた。

「な、なんだよ!」

 まずいな。地下練習場は見通しがいいから、逃げられそうにないぞ。


 大久保は“杖”のホルスターを右の太腿にくくりつけている。ミニスカートやハイソックスとよく合っていて、なんだかセクシーだ。

 器用なことに、大久保は手裏剣を浮かせるだけではなく、掌の上で高速で回転させている。

 回転をかけるなんて、俺にもゆっくりするのがやっとなのに。

「すごいのは分かったけど、何しに来たんだよ」

「上杉君に見てほしいものがあって」

 見てほしいもの?


「それっ!」

 大久保は突然大きく手を振り、手裏剣を放り投げた。

 手裏剣はフリスビーのように回転したまま遠くへ飛んでいく。

「うそだろ……」

 流石に、俺もここまで素早く、且つ遠くまで“使役術”を続けられない。

「見ててねー」

 大久保は太腿のホルスターから“杖”を抜き、手裏剣の方に向けた。

 その“杖”の動きに合わせて、手裏剣も軌道を変える。

(方向転換も自由自在なのか……)

 それに加えて、大久保は更にとんでもないことを始めた。


――ヒュー、ヒュヒュヒュー。


 気がつくと、後ろで大久保が口笛を吹いていた。

 どこかで聴いた、Jポップのようなメロディーだ。

(それにしても、かなり上手い……)


「おい、誰だ、あの手裏剣?」

 大久保の手裏剣がどうかしたのかと思ってそちらを見ると、不思議なことが起こっていた。

 宙に浮かんだ手裏剣は、そこに留まったまま落ち葉のようにクルクルと舞っている。


(あれ? こんな光景、どっかで見たような……)

 確か、あれはお花見のとき……。


「どう? 何か思い出した?」

 気付いたら、大久保の顔が目と鼻の先にあった。

「うわっ!」

 思わずひっくり返り、軽く尻餅をついた。

 もう少しで何か思い出しそうだったのに、頭から飛んだだろうが。


「さっきの回転する手裏剣、ひょっとして大久保さん?」

 クラスメイトの男子が大久保に声をかけてきた。

「それ、上杉だけじゃなくて、俺にも教えてくれない?」

「だめだよ。あたし、上杉君だけに教えるつもりだから」

 そう言って大久保は腕をからめてきて、向こうへ行こうとする。

 俺はその男子に「助けて」と目で訴えたが、思いっきり睨まれている。

 いや、違うって。俺はこの大久保にいじめられているんだって。

 っていうか胸が当たってる!




「それでは、全員集合してください」

 山田先生の合図で、俺達は先生の下に集合した。

「今日授業で用いた道具は、各自で持ち帰ってくれてもかまいません」

 どうやら超能力、霊能力の班にも、魔術班で言うところの折り紙の手裏剣のような実技用の道具が配られていたらしい。

 そうして俺達は再度エレベーターに乗り、地上の赤レンガの校舎に戻った。


 俺は教室に戻ってから、安堵のため息をもらした。

 大久保ってモテてるみたいだから、俺がいじめられているってことが全然伝わらない。

 中学のときだって、そんな女子がいた。大久保と違って、ただの可愛い子ぶりっ子だったが。

 よく友達を引き連れてきて、休み時間に追いかけ回したりしてきたもんだ。

 未だに、なんでそんなことされたのかがよく分からない。

 あっちからすれば「上杉がウザいから」の一言で片付けられることなんだろうが。




 ……そういえば、あの手裏剣の回転、どこで見たんだっけ?

 俺はかなり間抜けだが、何か忘れてたっけ、と思ったときは必ずどこか抜けている。

 そういう時と同じような、何か重要なことを忘れている感じがした。

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