すれ違いと家族
1話目を投稿してから、かなり投稿が遅れました。
申し訳ありません。
2話 すれ違いと家族
全員挨拶を終えたが、これで終わりじゃない。
これから、この日本ESP高等学校の教科書と、ESPに用いる実技用具などの配布が行われるはずだ。
休み時間が終わり、山田先生が戻ってきた。
「お待たせしました。それでは、これより備品の配布を行いたいと思います」
まず山田先生は、教科書をひとつづつ配布しはじめた。
国語の教科書、数学の教科書、英語の教科書、地理、公民、日本史、世界史、科学、化学、物理、家庭科、美術、技術、音楽の順番に通常の科目の教科書が配られる。
そして、最後にESPの教科書が配られる。
表紙に『ESP基礎』と書かれたぶ厚めの教科書が一冊だ。
学校に入る前に聞いているが、2年になって、それぞれのコースに行った後、そのコース専用の教科書を配布されるらしい。
それまでは、基礎を勉強する時間に費やすというものだ。
「本を開けて、落丁本、乱丁本など、要するにページが抜けてたり、ページがバラバラになっている本がないかを確認してください」
教科書のページをめくり、内容に目を通す。
一番夢中になったのは、ESPの教科書だ。
この教科書の内容は、大きく6つに分かれていた。
ESPとは何か、ESPが公になるまでの歴史、魔術に関して、超能力に関して、霊能力に関して、そして現在ESPがどのように使われているか。
俺は落丁、乱丁のチェックそっちのけで、教科書に載っているESPに関する知識に夢中になっていた。
更にESP高指定のノートが配られる。
こんなものまでESP高指定なのかと言いたくなるが、緑のテープで綴じられていて、ESP高のマークが入った表紙はかっこいい。
「そろそろいいでしょうか。つづいて、ESPの実技用の道具の配布を行います」
おお! いよいよだ。
先生は一人一人の席に黒いケースを配っていく。
そのケースはずっしりと重く、ダイヤル式の南京錠が掛けられていた。
南京錠とのとなりには番号の書かれた値札のようなものがついているが、これがダイヤルの番号だろうか。
「ダイヤルにタグが付いていますが、それがダイヤルの番号です」
やっぱりそうだった。
俺は、ダイヤルを紙に書かれた番号『5511』に直し、解錠した。
ケースの中に入っていたのは、様々な機械類や、アクセサリーのようなものの数々だった。
特に目を惹かれたのは、サーベルのような金色の覆いがついたスティックのようなものだった。
「おぉ!」
思わず驚嘆の声を上げてしまう。
一目でこれが“杖”だと分かったからだ。
「まず、この“杖”ですが、これは伸縮式になっていて、鍔の裏にある爪を倒すと本体部分が伸びるようになっています」
先生が同じものを手に持って、仕掛けでスティックを伸ばして実演する。
「この“杖”は、生徒一人一人に対して支給される重要な道具です。皆さん一人一人の手で厳重に管理して下さい。また、もし紛失した場合は、速やかにESP高へ届け出て下さい」
“杖”は、正式名称を“触媒”と呼ぶ。
ちなみに“触媒”は“魔宝物”の一種に属する道具だ。
“魔宝物”とは、その中に込められた魔術を発動する道具、正に“魔法の道具”だ。
“魔宝物”には魔術の根幹をなす“式”、俗に言う魔法陣が込められており、所有者の意思により、それを発動することができる。
多くは工芸品、または美術品の形をしている。
そして、何故かは分からないが、“魔宝物”は美術的価値、または歴史的価値の高いものほど優れた力を持つという原則がある。
現在も、ESP能力者の中から有志を募って、世界各地の工芸品等の中に隠れている“魔宝物”を探している。
“触媒”とは、その魔宝物の中でも、魔術そのものの補助的な役割を果たす道具の総称だ。
“式”が込められていないが、持ち主が発動した魔術に対し、一定の精度の補正、威力の強化等の補助を行う。
誰でも使える“魔宝物”に対し、魔術師しか使えない道具だ。
ちなみに、何故かは知らないが、このESP高指定の触媒は、魔術のみならず、超能力、霊能力にも使用可能らしい。
そういう“触媒”があるという話は聞いたことはないが、最新のESPに関する知識が使われているのかもしれないな。
「この道具は強力なESPには制限をかけるようになっていますが、使い方次第では銃よりも強力な武器になるものです。皆さんには、学生の身でありながら、これを持つことを許された身であるという自覚を持って、それを扱ってほしいということです」
そうとも。それこそがESPを扱う者に必要な心構えなんだ。
これを持つということは、例えば警察官が拳銃を持つことや、自衛官が自動小銃を持つことに等しい。
大げさだと思われるだろうが、事実、ESPに関する法律のひとつに『ESP関連道具類所持法』というものがある。
これは、ESPの銃刀法のようなもので、“魔宝物”に限らず霊能力、超能力に関する物の中でも一定以上の価値、または危険性のあるものに対し、登録制にしたり、一般人の携帯を禁じたりするものだ。
ちなみにこの“杖”に関しては、入学前にESP高から俺達生徒の登録、及び携帯許可を申請して、既に受理されているはずだ。
ESPは力を振りかざすためにあるんじゃない。世のため人のために使うものなんだ。
それから、他の実技用具の配布も始まった。
ひとつひとつ紹介していたらきりがないが、印象的だったのが、最後の“ESPメーター”の配布のときだった。
“ESPメーター”は、所有者のESPの使用に反応して、どのようなESPを使ったのかを記録する道具だ。
これはどちらかというと“魔宝物”の一種だ。
これも先程の“杖”と同様、魔術のみならず超能力、霊能力にも通用するらしい。
何故こんなものが必要なのかというと、ESPの実技に於いてどの程度の精神力を消費したのかという目安と、これの着用によって、目には見えないESPを用いた不正行為の抑止、またはESP能力者ということであらぬ容疑がかかったときのための対処だ。
父がよくネットで車の事故の動画を観ているが、その動画の撮影で使われる車載カメラのようなものだと思った。
何かの疑惑がかかったとき、これを見てもらって無罪を証明できるということだ。
俺は右腕に腕時計をしているから、左腕に巻く。
そして教材の配布も終わる頃、チャイムが鳴った。
休み時間を挟んで、先生がロングホームルームを始める。
ホームルーム後、これまで通り最後に敬礼で締めくくられる。
「ありがとうございました」
先生が教室を出た後、各々帰りの支度を始めたり、席でコンビニのおにぎりや弁当を食べていたりする。
俺は、母ちゃんが作ってくれた弁当を持っている。
でも、昼飯の前に、もう一度“杖”を見てみよう。
俺はESPメーターを左腕に巻いた(右腕は腕時計をしている)後、“杖”のホルスターを付属のベルトで腰に帯びた。
“杖”は電話コードのようなゴム紐で、柄の先からホルスターにつなげられるようになっている。
これは盗難防止用らしい。警察官の拳銃や自衛隊の銃剣
じゅうけん
もこうなっているのをテレビで見たことがある。
俺はよく物をなくす方だから着けておかないと。
こうしてみると、まるで刀を帯びているみたいだ。
左腰の方に提げたホルスターが刀の鞘みたいだし。
まあ、本当に“杖”は武器並みの扱いなんだし、外でこんな風に持ち歩いたら迷惑なんだけどな。
結局、俺はすぐに“杖”を元通りケースにしまった。
(……そろそろ俺も弁当を食べようかな)
「上杉君」
そう思って弁当箱を開けたとき、前の方から声をかけられた。
「うわっ!」
粉色のウェーブがかかった髪が俺の目と鼻の先に垂れた。
大久保神流だ。何しに来た?
「せっかくだしお昼一緒に食べない?」
とか言いながら、大久保はいつの間にか持ってきていた椅子に腰掛け、コンビニで売ってそうなサンドイッチとジュースの紙パックを置いた。
っていうかここで食べてくつもりかよ。
仕方ないから、大久保が諦めるまで待とう。
「ところで、今朝言ってた『なんで俺の名前を知ってんだ』ってどういうこと?」
大久保が頬杖をついたとき、ESPメーターを右手首に巻いているのが、黒いブレザーの袖からチラリと見えた。
左手には、可愛らしいデザインの腕時計をしている。
「そりゃ、初対面のはずのあんたが、なんで俺の名前を知ってるんだってことだ。一体誰から俺のこと聞いたんだ?」
大久保は不満そうな顔で、サンドイッチの袋を開ける。
「そうじゃなくて、あたしとどこかで会ったことない? ってこと」
「いい加減しつこいぞ。あんたのことなんか知らないって」
一体なんなんだ、この大久保って奴は?
大体、研修だって男女別だったのに、顔を合わせる機会なんか今日以外あるわけないだろ?
「本当に?」
大久保は真顔で俺の顔を覗き込んだ。
こんな美少女なら、一度出会ったら忘れるはず……ってそういう問題じゃないだろ。
でも、少しだけ考える。
俺はもともと人の顔と名前を覚えるのが苦手で、まともにクラスメイトの顔と名前を覚えていなかった。
更に言えば、俺は人と積極的に話をするタイプじゃなかったから、クラスで名前を覚えているのなんて、以前の学年から同じクラスになった奴とかしかいなかった。
そういうこともあって、俺は小学校の頃からよくトラブルを起こしていた。
よく考えろ。本当にこの『大久保神流』という美少女と、どこかで出会ったことはなかったか?
受験のとき……。
面接のとき……。
研修のとき……。
いや、その間、ESP高の、あるいは受験生の女子と話したことはないはずだ。
「いや、知らないな。マジで」
「覚えてないってどういうこと? 入学前『ESP高で一緒に学ぼう』って、一緒に夢を目指そうって約束したのに!」
なんだこりゃ? 「あんなに愛し合ったのに」ってヤツのつもりか?
周囲のクラスメイトも「なんだ? なんだ?」と注目しはじめる。
「しつこいな! 意味不明な疑惑かけんなよ!」
ムシャクシャして、俺は席を立った。
弁当を片付け、教科書と一緒に鞄に放り込む。
もちろん、実技用具の入ったケースも忘れない。
「せっかくの弁当が台無しだ。もう帰る!」
「ま、待ってよ、上杉君!」
そのまま教室を出て、革靴を履いてESP高を出た。
ESP高前駅の改札をくぐる。
どうやら他にも早く下校する生徒がいるようで、駅は紺色の学ランと黒いブレザーがよく見られる。
この駅の名前は『日本ESP高校前』。
正に、ESP高校のための駅といってもいい。
特急は素通りするが、結構大きな駅で、駅前にはタクシー乗り場、バス停、駐輪場などがあり、交通の便もいい。
後ろを振り返って、あの粉色のウェーブがかった髪がいないか見渡してみる。
うん、いないな。大丈夫だ。
『間もなく、2番乗り場に電車が参ります。危険ですから、黄色い線の内側でお待ち下さい』
アナウンスとともに、帰りの電車がやってきた。
ふと、ESP高へ推薦入試の願書を貰いに行ったときのことを思い出した。
あの日、無事に願書を貰い、家に帰るところだった。
こんな風に電車がやってきたとき、不意に後ろから――。
「はっ」
後ろを振り返ったが、誰もいない。
もちろん、あの大久保とかいう女子もだ。
「考え過ぎだよな」
そうだ、俺は昔とは違うんだ。
「ただいまー」
午後1時半ぐらいになって、俺は家に着いた。
硬い革靴を脱いでお茶の間まで上がる。
「おかえりー、お兄ちゃん」
母ちゃんが玄関まで来てくれた。
母ちゃんは雪乃が生まれてからは、俺のことを「お兄ちゃん」と呼んでいる。
「ただいま、母ちゃん」
俺はESP高でそうするように敬礼した。
「お兄ちゃん、戦争から帰ってきたみたいじゃないの」
「そういうつもりじゃないし、ESP高じゃあ敬礼が普通なんだ」
入学前の研修以来、制服を着ているときは敬礼が癖になっている。
確かにこれで学帽をかぶっていたら、間違いなく軍人みたいに見えるだろうな。
突然、母ちゃんの脇から白い犬が飛び出してきた。
「うわっ!」
転んだ拍子に、白いオオカミみたいな犬がのしかかってくる。
「こら、茶々、落ち着けって」
こいつはうちの犬の茶々。メスで、もうすぐ3歳だ。
茶々は、俺にもたれかかって口元をペロペロとなめはじめた。
「茶々、弁当の匂いするか?」
茶々はかなりの食いしん坊で、家族がご飯を食べていたら必ずおねだりに来る。
特に父ちゃんと俺がよく狙われる。
「相変わらずの学ランね。あんまり変わった感じがしないわ」
お膳の横で感じで寝転がっている雪乃が言った。
こんな真っ昼間にも関わらずパジャマだが。
「雪乃こそ相変わらずのパジャマだろうが」
雪乃にも敬礼して軽口をたたく。
「うっさいわね。春休みなんだからいいでしょ」
そういえば雪乃はまだ春休みだっけ。
雪乃が通っている小学校は、俺の母校でもある。
今年で雪乃は6年生になる。
雪乃は人気漫画『テニスの騎士様』を手に持っている。
これがきっかけでテニスに興味を持ったらしい。
「中学の制服は黒だけど、ESP高の制服は紺だろ。それに、カラーも襟に埋め込まれてて、襟を締めても苦しくないし」
中学のときの制服では、襟を絞めると内側のカラーが窮屈だった。
それに対し、この制服のカラーは襟の中に埋め込まれていて、首に当たるのは裏地の部分という優しい仕様だ。
「そんな微妙な違い分からないっつーの」
雪乃は呆れた様子で漫画に視線を戻した。
色の違いぐらい分かるだろ、色ぐらい!
そんな話をしていると、茶々がのしかかってきた。
「ちょ、ちょっと茶々、重いって」
茶々はかなり重い。
顔と脚は細いのに、胴体だけが太いというアンバランスな体型なのだ。
初対面の人は、茶々の顔だけ見ても、なかなか太っているとは気付かない。
でも茶々が可愛いから、ついごはんをあげちゃうからまた太るという悪循環になっている。
「ちょっと待て、茶々、おすわり」
俺はのしかかっていた茶々を一旦引き離し、おすわりさせた。
「それとな、これ!」
俺は“杖”が入った黒いケースを雪乃に見せる。
「どうだ? 念願の“杖”だぜ。ESP高正式仕様のな!」
「開けてないと何入ってるか分からないっつーの」
雪乃に言われてケースを閉じたままだったことを思い出した。
ダイヤルを……えーと……『5511』に合わせて……。
「そうそう。じゃあ改めて、これ!」
俺は今度こそ“杖”を雪乃に見せた。
「それが“杖”なわけ? まるで刃のない剣ね」
雪乃、なかなかいいところに目をつけるよな。
俺は“杖”を取り出し、爪を倒し、ブンっと音を立てるほど強く振った。
遠心力でスティックが伸び、剣のようになった。
“杖”の全長は伸ばすと50cmぐらいになる。先端は丸く膨らんでいる。
「どうだ? 本当にサーベルみたいだろ?」
軽くカッコつけてみる。
「にしても、そんなの高校生から持てるってどうなのよ。それってお兄
にい
もいつも言ってるけど、武器並みの扱いなんじゃない?」
「雪乃はもうスマホ買うのに?」
雪乃は前からスマホが欲しいって言っているが、まだ小学生なのに早過ぎないか?
俺だって今年の高校入学祝いだったのに。
「武器とスマホは違うっつーの!」
雪乃が呆れ気味に言い返す。
「だいたい私達、ただでさえも『超能力高校の凡人』とかいう小説と名前が似てるっぽいのに、更にネタにされそうなんですけど! ブラコン妹扱いされるなんてまっぴらごめんだっつーの!」
だからその『凡人』は俺も読んだことないから分からないって!
どっちかっていうと俺は野球漫画の双子って言われることが多いぞ。
「言っとくがな、雪乃。俺の場合その『凡人』の兄貴とは違ってな……本当に凡人なんだよ!」
「んなこと自慢すんな!」
実際、俺の場合は本当にESP高の中では凡人、いや、下手すればそれ以下のレベルだ。
何せ俺がESPを始めたのは、事実上中学生の頃からだし。
「それでお兄ちゃん、高校はどう? 楽しそう?」
そこで俺は、今朝の出来事を思い出した。
「うん。でも、一つだけ気になることが……」
「なに?」
俺は“杖”を引っ込め、母ちゃんに相談してみることにした。
俺は、今朝、入学式の前に起きたトラブルのことを簡潔に話した。
主に椅子が勝手に片付けられたこと、そして、それを大久保神流が認めたということだ。
「……ということがあったってわけ。せっかくのESP高なのに、またああいう奴に目をつけられたみたいだ」
母ちゃんはその話をじっと聞いていたが、やがてこう言った。
「お兄ちゃん、それは勘違いじゃない?」
……やっぱり母ちゃんも信じてくれないのか。
「そうじゃなくて、何か見落としてることもあるんじゃないか、って」
そんな俺の心境を見透かしたように、母ちゃんが続ける。
「お兄ちゃん、自分では分かってないけど、思い込み強いから。その大久保さんだっけ? その子も、ひょっとしたらESP高とは関係ない場所で会ったことがあるかもしれないし」
――納得できない。
明らかに実害を加えられたのに、被害妄想と見なされるなんて。
雪乃は漫画に目を戻し、興味ない振りをしているが、多分じっと耳を傾けているのかもしれない。
いつの間にか茶々はお茶の間のゲージの中に戻って丸まっていた。
ただ、ぐっすり眠っているのではなく、不安そうな顔でこっちを見つめている。
これは叱られたときか、俺がイライラしてるときの表情だ。
そこで我に返った。茶々を怖がらせてどうする。
中学生の頃、特に受験勉強のあった3年生の頃、俺は受験ノイローゼといじめが原因で、ストレスがたまっていて、よく物に当たっていた。
その度に、よく茶々を怖がらせていた。
もう中学校じゃないのに、何やってるんだ、俺は。
「ごめんな、茶々。大丈夫だしな」
俺は茶々を撫でる。
茶々は俺の手をペロペロと舐めてくれる。
「ちょっと部屋で寝てくる」
俺はそれだけ言うと、2階の自室に上がった。
俺は布団の中で、今日の入学式のことを思い出していた。
俺の夢の第一歩を踏み出したこと。
生まれて初めて“杖”を持ったこと。
そして、あの大久保神流のこと。
一体、何がきっかけであいつに目をつけられた?
今のところ、中学のときの誰かが大久保に俺のことを吹き込んだぐらいしか思いつかない。
中学のときの奴らが『上杉@ってキモいESPオタクがいるんだけどよ』とか、大久保に吹き込んでいる様子が浮かぶ。
ピリリリリ
メールが届いた。
「唯ちゃんだ」
唯ちゃんは、俺が小学校のときからの付き合いだ。
可愛いもの好きで、家ではハムスターやグッピーなど、色々な生き物を飼っている。
だが、俺と唯ちゃんは学校が違う。
出会ったのは、ある習い事の場だった。
そこでは少人数で先生のテーマに沿って遊んだり、ペットのハムスターの面倒を見たりもした。
そこの先生は、今年の春に、入学祝いに有名なESPの功労者の伝記をくれた。
メールにはこう書かれていた。
『タク、入学おめでとう。
タクの高校ESP高っていうんだよね?
学校は違うけど、応援してるね』
そういえば、唯ちゃんも今日が高校の入学式だっけ。
唯ちゃんは俺のことは『タク』と呼んでいる。
これは家族間、幼稚園の頃まで俺のあだ名だった。
そういえば唯ちゃんは、今日から地元の高校に通っているはずだ。
どう返事しよう?
俺は布団の中で何十分もスマホとにらめっこし、メールの本文を入力してはまた消しを繰り返し、一時間後やっと返事をした。
『ありがとう。
唯ちゃんも高校入学おめでとう。
お互い頑張ろうな』
そうして俺は、今日の入学式のことを考えながら眠りについた。
これから、どうやってあの大久保のことをかわそうとか、そんなことを考えながら。