プロローグ
一昨年pixivに掲載したものを、小説家になろうでも紹介したいと思います。
プロローグ
晴れた午後、俺達は家族4人で桜並木の間を歩いていた。
ここは陸上自衛隊の補給所。ここは毎年花見が行われていて、その間は一般人も立ち入り可能になる。
「いつまで戦車撮ってんの。もう行くわよ」
芝生の向こうで妹の雪乃が呼んでいる。
「わーった。もう一枚撮ったらすぐ行く」
向こうでは母がこちらに手を振っていた。
父は呆れた感じで笑っている。
俺は展示されている旧式の戦車を撮影していた。
今は右斜め前、正面、真横の三枚の写真が俺のスマホの中に収まっている。
俺も小さい頃はこれに乗って遊んだが、今は上に乗って遊ぶのはダメらしい。
いや、もうすぐ高校生だしそんなことしようとも思わないけどさ。
「あっ!」
どこからか子供の声が聞こえた。
見ると、陸上自衛隊のマークが入った帽子が宙に飛んでいく。
お土産で売られているキャップのひとつだ。
あれじゃどこに流されるか分からないな。
もし止まってたら、俺が止めることもできるかもしれないけど……。
――フフッフーフー。
風に乗ってハーモニカの音が聞こえてきた。
J-POP的なメロディーだが、よく知らない曲のようだ。
それが聴こえた途端、不思議なことが起きた。
帽子はまるで竜巻の真ん中に囚われているかのように、一ヶ所をくるくると舞いはじめた。
「何だあれ?……とにかくチャンスだ」
勢いの落ちた帽子に向かって指鉄砲を構える。
人差し指の周りに円形の式を構築し、発動方向を指先に合わせて――。
「バァン」
俺の指から見えない力が飛んでいった。
その力は帽子に命中し、帽子はくるくると錐揉みを描きながら落ちていき、戦車砲の先に引っかかった。
「ほら、気をつけろよ」
俺は戦車砲から帽子を取り、子供に渡す。
「かっけー! ありがとーにーちゃーん」
いつの間にか、あのハーモニカの音は鳴り止んでいた。
音楽の聞こえた方に目をやると、噴水の方で、俺と同い年ぐらいの女の子がこちらをじっと見つめていた。
まず、そのお嬢様みたいなウェーブのかかった髪に目がいった。
口元にハーモニカを当てているが、さっきの演奏はあれだろうか。
(まさか、さっきのが魔術だとバレた?)
「なー、それESPだろー? もっかいやってー」
子供が好奇心旺盛な顔で訊ねてくる。
こっちにも魔術を使ったのがバレたみたいだ。
「え? いや、今のは、その……」
「えっ、ESP?」
「何? 何をしたの?」
まずい! 周囲の注目が集まっている。
「ホラお兄、さっさと行くわよ!」
「お、おいちょっと!」
いつの間にか隣まで来ていた雪乃に手を引っ張られ、その場を立ち去る。
あの女の子は、先程と変わらず俺の方を見つめていた。
その姿も、ゆっくりと人混みの中にまぎれて見えなくなっていった。
その後、俺達家族は展望台になっている監視塔に行ってから、まっすぐ家に帰った。
その間、ずっと俺は歓喜に酔いしれていた。
久々に俺の人並み、いや、それ以下のESPが成功した。
何より、この力で人助けができたからだ。
原文ではプロローグと1話が繋がっていますが、投稿に慣れていないのもあって、ここで一旦区切ります。