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N;EXUS(ネクサス)  作者: 柴豚
8/13

木瀬 宇田の空白

・・・重い。

うつ伏せの僕の背中に、何か乗ってる。アンプか?にしては重すぎる。

それに加えてコーヒーのいい香り。

なんだ・・上・・・から・・・する?

寝ぼけた眼を開く。同時に背中の神経が起きてくる。

二つの棒が乗っかっている感覚。これは・・・・

「あ、起きた!おっはよーう!」

・・・・・栞だった。

「・・・何で僕の上にいる?」

「起こそうと思ったらさ、真っ平らで乗れそうな背中があったからついつい!」

「なんでコーヒー飲んでる?それ、ウチのコーヒーメーカーで淹れただろ」

「おいしそうだったから!」

「たわけ・・まず僕から降りろ」

「ちぇー。居心地よかったのに・・・」

背中の荷が降りる。

僕も仰向けになる。

するとどうしたものか。栞が腰の上に乗ってきた。

「どけ」

「うーん・・・こういうのってよく幼馴染シュチュであるじゃん?だからウダウダもそういうのに目覚めるかもなーって。あ、私の事好きになれって意味じゃないけどね?なんかほら、ウダウダがそういうの目覚めて同人誌とか買い漁ったら面白そうかなって」

「は・や・く・ど・け!」

「はぁーい」

栞を剥がして、今度こそ起床。

時刻は・・・午前8時29分。

・・・あれ?何か重要な事を忘れている気がする。

あ・・・そうだ。

「おい栞。お前どうやって僕の部屋に侵入したぁあああああ!!??」

「え?鍵空いてたよ?」

「は?」

あ、待った確かにそうだ。

昨日二人を見送る時既に推理しながら行動していた僕は、鍵を掛けるのを忘れていたかもしれない。

くそ、考えているとポカするのは僕の悪い所だ・・反省反省。しかし。

「だからって人の家に勝手に上がるのはどうかと」

「え?だってもう10年以上の付き合いでしょ?もうこの際いいじゃん!」

はぁ・・・コイツは昔からこうだったな。

まぁ今回のところは許すか・・・


部屋からリビングへ移動。すると、

「あ、そうだ!朝ごはん作るね!冷蔵庫漁っていい?」

と栞さん。

「あー構わんが、ドーナツは取るなよ?」

「取らないって!本当に好きなんだね・・・」

久々に栞の手料理か。

まぁ、コイツの料理は普通に美味しいから寧ろ有難いな・・・

さて。

朝食ができるまで、昨日の続きをする・・・前にシャワーを浴びる。

部屋から着替えを取って、シャワールームへ。

熱いお湯でささっと体を洗うこと15、6分。

上がって体拭いて髪拭いて服着たらリビングに戻る。

頭を拭きながら、スリープ状態のPCを起こして昨日の続き。

えっと、昨日はそれっぽい街の特定までできたんだよな。

日向市と火鉢市。さて、どちらから調べようか・・・・先にあった日向市にすっか。

市役所のホームページを開き、半年前くらいのニュースをざーっと見る。

【日向中学校の水泳部が、県大会で優勝しました!】

【市役所に銅像が設置されます】

【日向病院一部改装のお知らせ】

【日向山で新種のクワガタ発見!】

とりあえず4、5、6月のニュースを見たが、特にこれといった事件はなく。

基本的には平和な街らしい。

次は火鉢市を見よう・・・としたら、朝食ができたらしい。

「はいウダウダ。サンドイッチだけど良かった?」

「有難う。片手で食べれるし、ちょうどよかった」

BLTのサンドイッチを頬張りながら、栞が隣にきて作業再開。

しかし。火鉢市に関しては、これまたニュースが少なかった。

【火鉢市役所に、タレントの水樹花香さんが訪問】

【火鉢市のご当地アイドル、HBT24がライブ開催】

など、本当に平和すぎる。

一応、ニュースサイトで二つの市の名前を入れて検索する。

しかし、どちらも特にヒットなし。

「だめだ・・事件、起きてない」

再び行き詰まった。

ここは、狭間の帰りを待つしかないのだろうか・・・?

「ねぇ、ウダウダが今調べてるのって、女の子がいた街?」

「あぁ、そういえばお前にまだ説明してなかったな」

昨日の夜の会話の内容を栞に説明する。

「なるほどね。それじゃあさ、今から二人で山いかない!?」

すると、とんでもない事を言い出した。待って、僕の昨日の睡眠時間、4時間ちょっと。

この体で山登りはきつっ・・・

「借りるよ!」

栞は、二つの街にある山について調べ始めた。

助けて。本当に行く気だ、この子。

「あ、日向山ってここから電車で30分くらいだって!いこ!」

よりにもよって近かった。まずい。たすけて。

「すまんが栞、僕はちょっと眠いからやめと・・・」

「部屋入るよー!」

僕の弁論を聞かず、栞はずかずか僕の支度を始める。超手際いい。助けて。

「えーっと今の季節は割と寒いからこの上着と・・一応シャツの着替えを一枚に・・ハンカチとティシュと・・・はい!これウダウダの分!」

5分ほどで僕の準備をして肩掛けバッグに詰め、僕に手渡す。

なんで服の位置とか知ってるんだこいつ・・・・

あ、あと上着はこれ着て。、と、終いに上着まで手渡された。

これは・・行くしか無いのか。助けて誰か。狭間と一緒に行かせとけば良かった・・・

「じゃあ、私の準備もするから一旦私の家いこ!」

と言われながら、引きずられて玄関→外へ。

・・・もうやだ。山登りとかしたくない。

あと決めてからいくの早すぎ。行動力の塊だ・・・あいつ・・・・






栞の家に行ってから電車に乗った。

途中、なんども逃げようとしたが無駄だった。

狭間が羨ましい。家に帰りたい。I Love 家。

それでも虚しく電車のドアは閉まり、出発する。

がたごとがたごと。人の不幸を燃料にして走っているようだ。

「あ、お昼は山の茶屋で食べよ!飲み物は麓で買えるって!」

「・・・おーう」

「ウダウダ憂鬱になりすぎ!大丈夫だよ、そんな高い山じゃないからー」

「・・・うーい」

「もっとさ、人生を楽しもうよ!せっかくの山登りだよ!?」

「お前は駄目な領域まで楽しみすぎてる」

「えぇーそんなぁ・・・でもさ、楽しみすぎちゃ駄目ってゆうのは・・多分無いからいいんじゃない?」

「・・・まぁそうかもな。僕はそこまで到達してないから、わかんないけど」

そうして話しつつ、目的地までの距離は縮んでいく。






日向駅についてから乗り換えて一駅。目的地の、日向山(ひゅうがやま)前に到着した。

平日なのであまり人はいない。また、いたとしてもお爺ちゃんorお婆ちゃんなので、若い僕たちはかなり浮いていた。

(ふもと)の売店でお茶を買い、出発。

幸いにも、頂上までのルートは一本のみの、初心者向けの小さい山だった。

頂上までは約3時間ほどらしい。

茶屋は頂上にあり、今から登ればちょうどお昼頃に上につく。

「それじゃ、行くか。一応、道中も手がかりないか確認してくれ」

「了解!」

二人で足並み合わせて歩き出す。

道はゆるやかだが、木々が生い茂っているために、道のりがとても長く感じる。

僕はもう憂鬱・気だるさ・やる気なさMAXだが、対する栞はとても楽しそうだ。鼻歌歌ってるし。

「何年振りかな〜ウダウダと二人で出かけるの」

「高一の時、お前の買い物ついて行ったきりだと思う。それ以降は、僕が自分の研究に没頭してたからな」

「そうだよね〜何回誘っても、結局来ないんだもん。つまらなかったよー、もう」

「知るか・・・」

そんな思い出話をしつつ。

ある程度歩いたところで、生い茂っていた木々が晴れて、地層や段差が露わになる。

ん・・・まてよ・・・この風景・・・

「ねぇウダウダ、ここから先は、ずっとこんな感じなんだって・・・」

「そうみたいだな。頂上はちゃんと整備されてるそうだけど・・・」

この風景。そう。崖が多い。つまり、女の子の言っていた山に限りなく近いのだ。

「ここが・・・女の子のいた場所・・・」

「まだ確証はないけどな。恐らく、ここだろう」

「すごい・・・なんかワクワクしてきたよ!」

「まだ興奮するのは早い。とりあえず頂上まで登って、ここ周辺・・・ついでに、街で起こった事件も聴いていこう。平日で観光客が少ない分、地元の人が多くて確かな情報が入りやすいと思うしな」

「うん。分かった。それじゃ、一気に登っちゃおう!」

「おいちょっ・・・」

栞が、僕の手を引く。

あぁ、小さい時からよくこいつは、僕の右手を自分の右手で引っ張ってたな。

「休憩は途中でするんだろうな!?」

「そんなの時間の無駄だししないよ!」

はぁ・・・死にそう。







マジでこいつ休憩入れなかった。

頭がクラクラする。ここどこ?僕は誰?あなたはだあれ?

荒い息を落ち着かせながら木でできた椅子に腰を下ろす。

頂上は、小さな開けた公園のような場所になっていた。

勿論遊具とかはないが、広々としてて登山客が弁当を食べたり、記念撮影をしている。

奥の方から、茶屋で弁当を買ってきた栞がくる。あざっす。

「はぁー歩いた歩いた。お腹空いたなぁー!」

「歩いたってレベルじゃねぇよあの速さ・・。ってゆうか頂上見えたらお前走ってたじゃん」

「えー。だってお腹すいてたんだもん」

「酷い。もうなんか色々酷い」

「酷くないよぉ。ウダウダもお腹空いてたでしょ?」

「そういう問題じゃねぇ・・」

弁当の唐揚げを頬張ると、体は疲れていたが内臓は元気だった。

けっこうおいしい。箸が進む。

「ほら〜。言葉では強がってても、体は正直なんだね!」

「にしても我慢はできた」

「うっそだー!」

なんて話しながらもぐもぐ。

快晴で景色もいいため、疲れているのを除けば、割と悪くないランチだ。




二人とも食べ終わったところで、聞き込みを開始する。

「まず、どこから聞こうか?」

「そうだな・・・茶屋にいるおばちゃんとか、まずはどうだ?」

「そうだね。今は暇っぽいし、聴いてみよっか」

茶屋にいくと、暇そうに談笑しているおばちゃんが2、3名。いまなら聞けそうだ。

「あの、すみません」

半年前の事について尋ねる。

「半年前・・・そうねぇ、それより少し前だったけど、大雨で土砂崩れがあったわね。ここって崖が多いじゃない?だから、こういうのが起きてとても大変だったのを覚えているわ」

「土砂崩れ・・・か」

あまりこれは関係なさそうだ。

「おばあちゃん、他に何かありませんでしたか?」

「んー・・無いわね・・。少なくとも、わたしは覚えてないわ」

「そうですか・・。ありがとうございました」

「うん。こんなので役にたったかしら?ふふっ。そういえば、貴方達はなんで聞きまわってるの?」

「あぁ、僕達、大学で校内新聞サークルをやってまして。それでです」

皮肉にも、咄嗟に出た質問で狭間のを使ってしまった。

「あら、そういう事だったら、山の麓で野菜売ってる池杉さんを尋ねるといいわ。あの人、この辺の情報はよく知っているから。野菜買うついでに聞くと、教えてくれると思うわ」

「池杉さんですね。分かりました。ご協力、ありがとうございます」

お礼を言って、茶屋を後にする。


一応他の登山客にも聴いてみるが、あまりいい情報は手に入らなかった。

「それじゃ、下山しよっか。今が2時位だから、早く降りないと暗くなっちゃう」

「そうだな・・・そのおじさんにも会えるかどうか。急ごう」

ただでさえ遠回りな登山道の上、ロープーウェイなどはない。

ここは少し早歩きでいくか・・・と思ったら、栞は思いっきりマラソン走りし出した。

毎度の事だけど・・・せめてリフトくらいつけろよ、山の管理人。






「あ、まだ野菜売ってるよ!・・違う、片ずけてるんだ。早く早く!」

「お゛・・・う・・・」

ゼェゼェしながら栞について行く。

ただの一度の給水もなく、一気に降った。

明日は半日ほど寝ていよう。

恐らく、筋肉痛でマトモに動けないはずだ。

なんとかして前を向くと、山の入り口の道端で野菜を片付けているおじさんが一人。あの人が池杉さんだろうか?

「あ、あのー。今、お時間宜しいでしょうか?」

栞が、先に声をかけてくれた。

僕はマトモに声が出ないため、栞が説明する。


「ふーん新聞かぁ。面白そうやな。いいぞ、半年前だな?えーっと・・・失踪じゃねぇが、女の子が滑って崖から落ちたんだ。けっこうヤバかったらしくてよ、今はどうなったが知らねぇけどな」

ここにきてようやく、それらしい事件に触れることができた。

「すみません、その事件、詳しく教えていただけないでしょうか?」

「おうよいいぜ、教えてやる」

池杉さんは、顎髭を触りながら、上機嫌で話し始めた。

「俺が野菜片付けてる時によ、女の子抱えたボウズが、泣きながら俺のところまできて、『この子、崖から落ちたんです。お願いします、病院へ連絡してください』ってよ。どうやらそのボウズ、携帯持ってなかったらしくてな。女の子は気ィ失ってて、そのまま病院に運ばれたよ」

「その運ばれてきた女の子と、運んできた男の子の名前はわかりませんか?」

唾を飲み込む。

これで、結城の名前が出れば・・・!

「あー悪ィ。女の子の方は知らねぇんだ。」

強張ってた肩の力が緩まった。

なんだ・・・くそ。

でもまぁいい。次は病院に行って聞き込みを・・・

「あ、でも、ボウズの方ならホレ、メモしてあるぞ」

すると池杉さんは、ポケットから手帳を出し、『日貴」と書かれたページを見せてくれた。

「今後、何かあった時のためにと思ってな。一応メモしてたんだ」

「その・・・・この方の、読み方はなんと言うんでしょうか・・・?」

「あー・・・・・・悪い、忘れた。まぁでも、普通に日貴(ひき)じゃねぇのか?変わった名前だよな」

溜まっていた緊張が、今度こそなくなった。

くっそ・・・・結城じゃないのか・・・一文字あってるのに・・・・




最後に女の子が入院している病院を聞いて、お礼を言い、帰路に着いた。

さすがに栞も疲れたようで、満員電車の中、僕の肩にもたれかかっている。なんか恥ずい。

そして家の最寄りに停車する前に起こして、寝ぼけた栞と下車。

家につくと、アンプが迎えてくれた。

「あー疲れた」

ソファにダイブ。栞は床に倒れた。犬かお前は。

「これからお前はどうする?とりあえず僕はご飯食べて風呂入って寝るけど」

「んー・・・じゃあ私もそーする」

「おう。じゃあな。気をつけて帰れよー」

だるい体を起こして、冷蔵庫に向かうとなぜか栞もくっついてきた。

「ん?どーした?」

「え?夕食」

ちょっと待て。どうやらこいつは、僕の家で食べていくらしい。

「帰れ。お前に出す飯はない」

「えーもう今日疲れたしいいじゃーん」

「いいじゃんって・・・お前もしかして・・・」

「うん。ソファでいいから今日ここで寝る」

なんたる奴だ・・・

一応、二人とも一人暮らしだから止めるものはいない。

くそ・・・こいつの親はなんで(こいつ)を一人暮らしにさせた・・・!?

「いいから帰れ。さすがにこの歳で付き合ってもないのに、男女二人きりはないだろ」

「えぇー・・・昔はよく一緒に寝てたじゃん」

「いつの話だ・・・最後にお前がウチきたの、小6の時だろ・・・」

「大して変わってないって。迷惑かけるつもりないし、お皿とか洗うから今日はいいでしょ?一応、登山用に着替えはもってきてたし」

そういえば、僕の分も上下と・・・下着まで入れてあった。

せめて行き先が山じゃなかったら、こんな事にはならなかったのに・・・

「はぁ・・・・」

なんかもう、無理やり帰らせるのもめんどくさいから放っておくことにした。

というか、どっちみちこいつが帰るわけない。

そういう部分は、小さい頃から何かと一緒に行動してたせいで良くわかる。

・・・まぁ、一緒に行動といっても、向こうが一方的について来てただけだけど。

「夕飯ドーナツ2コでもここで寝るか?」

「むしろ疲れてたから甘いものがほしかったんだよー!」

「・・・あそ。僕からドーナツ貰えるのを有り難く思え」

「うん!美味しくいただく!」

「あと、宿泊代とドーナツ代で1500円な」

「えぇー高いよぉ」

「元は3000円なのを、朝のサンドイッチ代とこの後の皿洗いで浮かしてやるんだからマシだと思うけど」

「うー・・わかった。お皿は後でやっとく」

「おう。頼んだ」

それから、二人でドーナツを囲う。あゝ癒し。

その後栞は皿洗い、僕は風呂。

次に栞が風呂で、僕は髪を乾かしながら、『先に寝る。毛布置いとくから、勝手に寝とけ』とメモ用紙の置き手紙を置く。

毛布をクローゼットから引き出してソファに投げたら、歯磨いて部屋に戻る。

布団に入ると、別段気持ちが盛り上がることも下がることもせずに、ただ疲れに身を乗せて寝た。

妙に心地よい。

明日は狭間が来るから、午前は情報交換して、午後は病院に行こう。

そんな事を考えていると、次第に意識は薄れていった。











[木瀬 宇田:10%]

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