木瀬 宇田の迷究
〈すみません。気分が悪くなったので、今日はもう切ります〉
そう言い残して、通信は切れた。
「なんだったんだ・・・あんなに慌てて」
「記憶・・・戻ったみたいだね」
「きっと悪い記憶・・・だな」
3人とも黙りこくる。
結城・・この名前を出した途端、女の子は取り乱してしまった。
彼女に何があったのか?
彼女が何を見て、何を思い出したのか?
疑問が嫌になるくらい這い出てくる。
「僕たちは、悪いことをしてしまったのか?」
僕の口から出た言葉。
それを栞がキャッチした。
「・・・良いか悪いかは、まだ分からない。けれど、無理に思い出したことについて聞かなくても・・いいと思う」
「俺もそれは賛成だ」
「・・・そう、だよな」
ここで再び、黙る。
沈黙。白けた。
しかし、こういつまでも感傷にひたってる場合ではない。
重要なヒントが出たのだ。
「結城・・・これが、アイツの本名なのか?」
「・・・そうなのかな・・?もしかしたら、友達の名前かもしれないよ?」
「そこなんだよなぁ・・反応はしたけど、それが何を意味するかはサッパリ分からない」
3人揃って考える。
しかし文殊の知恵等はなく。
ただ各々自問自動する。
結城。
これが、彼女の名前なのだろうか?
改めて思考ぐるぐる。
・・・だめだ。情報が足りない。
これでは、仮説はいくら立てることができても真相には近づかない。
やはり、明日もう一回彼女に聞いてみるか・・・聞ければの話だが。
そう思っていると、不意に狭間が声を上げた。
「・・・なぁ、結城って苗字のやつ、ネットで検索してみるのはどうだ?何かソイツに関わる事件のニュースの記事とかあれば・・」
「・・・そうだな。やってみよう」
「うん・・」
あまり皆乗り気ではない。
分かっている。
結城なんて少し探せば見つかる苗字の奴が起こした事件なんて、今までに山ほどある。
その中で今回の件とマッチングさせるのはどれほどかかることか・・・・
ん?マッチング?
あ・・・まてよ。
「なぁ・・・それさ、調べるときに期間を絞ってみてくれ」
「期間・・?何のだ?」
「普通に考えて、女の子の周りには誰もいない。つまり、外から見ると女の子は、行方不明ってワケだ。するとわかるだろ?女の子の身の回りの人間が、女の子の失踪に気づいて警察に届けて、それが記事になる。 僕と女の子話し始めたのは半年くらい前。つまり、そこから逆算して女の子のが失踪した日を絞りこんで、その日と関係している事件を調べればいい」
そこまで言って、栞も間も同時に頷く。
そう、これは夢でも何でもなくて現実だ。
普通、人一人消えたらニュースにでもなる。
しかし、そこで重要となるのが事件と結城という名前の関連性。
こればっかりは祈るしかない。
何かと運要素の多いな、この研究。
狭間がタッチパネルの上で人差し指をなめらかに滑らせる。
すると、どうやらいくつかヒットしたようだ。
順に読み上げられていく。
「えーっと・・・じゃあ、とりあえず失踪系の記事を読み上げていくぞ。あ、因みに、記事は5/1〜5/10位までを上げるぞ。それで構わないか?」
「あぁ、構わない。たしか、ちょうどその日ら辺に話し始めたんだ。そんな気がする」
「おう。それじゃいくぜ。まずは、5/1のサラリーマン二人が死体で見つかった殺人事件。これは、・・・えーっと・・・被害者の一人が結城だ。 次に、おばあちゃんの転落事故。これは、おばあちゃんの名前が結城さん。あ、5/3な。 んでもって次が5/8の、4歳の結木くん誘拐事件。犯人は1日で捕まってるな。男の子は無事。・・・以上だ」
「なぁ、失踪系はないのか?最後の誘拐事件以外、全く関係ないじゃないか」
「あぁ・・・そもそもこの期間、そんなにエグい事件ねぇんだわ。悪いけど、人が傷ついたり死んでる事件は十日間でこれだけ」
・・・ついてない。
でも・・・これは、押し付ければそれなりに関連はする。
「なぁ、5/1のサラリーマン事件の被害者の親族が女の子ってのはないか?おばあちゃんの事件はあんまり酷くはないと思うし、最後の誘拐事件も無事らしいから、叫ぶほどではない・・・。と、なると限られるのは始めの事件だけだ」
「なるほどー。でも、どうやって調べるの?けっこうもう時間経っちゃってるし、二人の事を調べるのは難しいよ・・・」
「そこなんだよなぁ・・・」
再び、沈黙。
どうしたものか。
でも、同時に少しだけ希望が見えた。
この事件が、もしかしたら女の子の件と重要な繋がりがあるかもしれない。
違う。そう祈るしかない。
正直なところ、これで関連性がなかったら、もう手がかりは何もなくなる。
女の子が、次に出てくる保証もない。
「・・狭間、今見てるサイトとは別の所で、同じ事件は載ってないか?」
「あぁ、今調べてる。待ってろ」
どんな少ない情報でもいい。
お願いだ。
・・・・・・・
静かになる。
狭間の表情が、少しだけ驚いたものになる。
何か見つけたのだろう。
「なぁ木瀬・・・。さっきのサイト、情報少なすぎたわ」
もったいぶらずに、はやく。
「結城 大伍さん。実家に帰り、家族三世代計5人、祖母・祖父・結城・妻・息子で車で旅行に行く途中、交通事故で結城以外、死亡。その葬式の帰りに、妻の方の親父に刺されたそうだ。結城が友人と二人でいるとき、後ろからザクっと。始めに結城を庇った友人が刺されて、次に結城が刺されたそうだ」
「そうか・・・ありがとう」
「にしても随分理不尽だな。これ、交通事故に関しては、運転は祖父がしてたらしい。なのに、妻の方の親父は、結城一人だけが生き残ったのを恨んだみてぇだな・・」
なんとも理不尽極まりない事件だ。
けど、こんな悲惨な話であるならば、女の子が叫んだのは納得できる。
徐々に、二つの事件が近づいてきた気がする。
「よし、ここからは分担して調べてみよう。栞と狭間は、被害者の結城さんについて調べてみてくれ。僕は、女の子と話せるかどうか試したりしてみる」
「おう、それじゃあ俺たちは一回大学の方に行く。二人で話した方が向こうもリラックスしやすいと思うからな」
「そうだね・・・3人で囲って話聞くのも可哀想だし。うん!あの子を口解くのはウダウダに任せた!」
「あのなぁ・・・まぁわかった。じゃあ、何かあったら連絡くれ」
「おう。それじゃあな。邪魔したぜ」
二人は立ち上がり、帰る準備を簡単にする。
「ばいばーい!」
そのまま玄関まで見送り、
がちゃん。
二人は数分で家をおいとました。
さて、ここからは個人作業だ。
ある意味こっちの方が集中できる。
アンプ撫でてネコエネルギーチャージしたら、マイクを入れて待機する。
ん?
今、何か違和感があったような・・・
何だろう?何かおかしい所があった気がする・・・まぁ今はいいか。
とりあえず、推理しながら待機しよう。
推理に耽っていると、今まで女の子と話した記憶が蘇えってきた。
気がつけば、なんだかんだで半年が経っていた。
そそて、この半年で、僕の趣味も気がついたらこの研究のみになっていた。
・・・・もしも。
もしも、この研究が終わり、女の子も元の生活に戻ったら、僕には何が残るのだろう。
とりあえず、趣味はなくなるわけか。
そうしたら、また新しく探すのか。
面倒だ・・・なんてあることないことかんがえながら。
ふと、カレンダーに目をやる。
11月。
あ、そうだ。
ふと、思い出した。
去年の今頃、隣町で連続殺人事件があったんだ。
こっちの街では恐らく被害者はいなかったが、とにかく犯行は残虐なものだったという。
それが、確か2月ごろに終わったんだっけ?
犯人は捕まっていない。
宇宙人とかジャックザリッパーの復活とか色々騒いでたなぁ、世間。
特に無線以外やる事がないから、こういうどうでもいい世間話はよく覚えている。
まぁ本当に心底どうでもいいので、思考を推理に戻す。
あ、そうだドーナツ食べよ。
冷蔵庫からドーナツを5つ程出し、机に並べてシンキングタイム。
糖分が脳にダイレクトにシュートされる。
いい気分だ。頭が冴える。
あ、こらアンプ。それは僕のだ。とるな。
「はっ!?」
気がつくと、 僕は寝てしまっていたようだ。
考え続けたいたら、横から睡魔がきたらしい。
僕は負けたのか。
時刻は・・・・23時27分。
膝の上でアンプが寝てる。かわいい。
そっと撫でてやる。
そういえば、女の子は起きているだろうか?
最後に話したのがちょうど昼ごろだったから、もうそれなりに時間は経ったはずだ。
・・・あ、狭間め、僕にランチ奢るのどうしたんだよ。くそ。
まぁいい、とりあえず声をかけてみる。
「こんばんは。夜遅くに悪い。今、起きてるか?」
〈・・・こっちは夜も分からないですし、それに寝なくても大丈夫みたいです〉
応答してくれた。
もう大分落ち着いたように見える。安心した。
「そうか・・もう大丈夫なのか?話したくなかったらいいんだが・・」
〈いいえ、私も報告しなければいけない事があるので。今は木瀬さん一人ですか?〉
「あぁ、そうだ。話してくれ」
〈はい・・・。順を追って説明しますね。まず始めに。ゆうきさんという名前なのですが・・・〉
〈どうやら、私ではなく、他の人みたいです〉
「そうか・・・今、ちょうどそう考えて、二人を調べに行かせている」
〈そうですか・・。本当にいつも、お手数おかけします〉
お辞儀をしたような気がした。
それほどまでのお淑やかで、心のこもった礼。
「いや、いいんだ。これは僕たちが好きでやってる事だしな。 それで?まだ、終わりじゃないんだろ?」
〈はい。あの苗字を聞いた時、私の頭の中である記憶が走馬灯のように、早送りで流されました。そのうちの少ししか覚えていないのですが、やけに風景がはっきりしてたので、お話しますね〉
「分かった。それで?どんな感じだったんだ?」
〈まず、私は山を歩いていたんです。地面はぬかるんでいて、今にも滑りそうでした。 そして何より崖が多く、遠回りをしながら登っていきました〉
「山・・」
〈はい。山にいた記憶は以上なのですが、その後に、その山の麓であろう街を歩いている記憶もありました〉
街か・・・できれば、特定したいのだが。
「その街の名前とか思い出せないか?あとは、景色とか。なんでもいいから、教えてくれ」
〈はい。たしか、街の名前は・・・「ひ」から始まったと思います。緑が多く、そこまで大きな街ではありませんでした。あとは・・・駅は工事中で・・・一応使うことは出来てたみたいです〉
「それぐらいしか思い出せないか?」
〈はい・・すみません、結構間が抜けていて・・・・〉
「いや、十分だ。そこまでわかれば、今の時代、すぐに特定できる。疲れているところ悪かったな。 僕は一回切って街の特定するから、何か用があったら呼んでくれ。一応接続はそのままにしとく」
〈あ、有難うございます〉
「おう。本当に些細なことでもいいからな。んじゃ」
そう言って僕は一度席をはずす。
するとそれと同時にスマホに通知が入った。狭間からだった。
《とりあえずネットで調べても大した情報はなかった。明日、俺が事件の現場近くで聞き込みしてくるわ。まぁ新聞部ですって言えば平気っしょw》
あの馬鹿・・・高校生じゃあるまいし・・・
でも実際、それが最善の方法だろう。ここは狭間の情報収集能力に期待する。
《了解。たわけ。それじゃ、明後日にまた集まろう。時間は適当で。》
っと返信。後で栞にも送ろう。
さて、ひと段落ついた所で思考のお時間至高のひととき。
どうやら僕は考える事自体は好きらしいな。
まず・・は・・「ひ」か始まる駅をPCで検索。ざっと見た所・・・うわぁ、めんどくさそう。
その検索結果のタブとは別のタブで、半年前に工事していた駅を検索。
出てきたのは各市役所や、駅のニュース記事。
案外簡単に出てきた。
後は、二つのタブを使って絞り込んでいく。
【日向野駅、改装工事のお知らせ】〔日向野市だより〕
【飛馬駅前、火災復旧のお知らせ】〔飛馬市市役所ホームページ〕
【陽座間山前駅、完成間近!】〔陽座間山にいこう!〕
こんな風に、一致したものの情報を照らし合わせる。
そしてその街をマップで検索。
街の風景に緑が多いかや、近くに山があるかによって選別する。
・・・途方も無い作業だ・・・。
3時間くらい経っただろうか。
もう粗方絞ることは出来た。
最終選考にノミネートされたのは、T県、日向市・S県火鉢市の二つ。
他にもいくつかあったが、山があって緑が多いのは大体ここ。
一区切りつき、どっと疲れが出る。
気がついたらもう真夜中だ。あと2、3時間もすれば日が昇る。
「一旦寝るか・・・」
スマホで目覚ましをセットしてベッドに直行。
シャワーは明日の朝浴びよう。
部屋の明かりを消すと、5秒ほどで眠りについた。
[木瀬 宇田:10%]