木瀬 宇田の日常
女の子と話し始めて、もう半年ほどたった。
話によると、女の子は気が付いたら「闇」に浮いていたらしい。
また、自分に関する記憶もサッパリなくなっていて、どうにこもうにも手詰まりだそうだ。
正直なところ、初めて聞いた時は50%疑っていて、今でも10%は疑っている。
というかこんな話信じている自分もどうかしてるのかもしれない。
・・繋がったのが僕じゃなかったらどうなってたんだろう?
しかし、始めて言葉を交わした時に決めたはずだ。
『この娘と話そう』と。
こうして僕と女の子の会話は、今日まで至る。
「おはよ。今日も闇にいるの?」
〈はい。そうみたいです・・・。もう慣れたので、落ち込むこともないですが〉
〈あ、そうそう!昨日遂に景色を少し変えれたんです。2秒程でしたが、久しぶりに外が見れて感動しました!〉
「そうか・・・良かったな。もう少し練習すれば、壁紙みたいに景色全体を変える事もできるんじゃないか?」
〈そうですね。今日も頑張ってみます!〉
そう。どうやら闇では、自分の欲しいものがなんなく出たり、このように景色を変えることができるそうだ。
始めは僕も耳を疑ったが、正確に暦を言えることが何よりの証拠だ。
闇で目が覚めて数日後、自分が何日間ここにいるか記録したくなりカレンダーを思い浮かべたところ、手の間に突然出てきたのがきっかけで分かったらしい。
しかし未だにこの現象については未知の部分が多いため、今はこうして僕と通信しつつ研究をしている。
そして約半年の研究でいくつか法則が見つかった。見つかったは次の4つ。
・生物は出せない。
・自分のある程度理解しているものしか出せない。
・景色も変える事ができる。
・機械も出せるが、通信機能は一切使えない。
最後の法則については、全くの謎であり最も解明が難しいと思う。
だって今こうして僕とは通信できるのに、それ以外は一切圏外オフラインっておかしいでしょ。
と、いう事で今はとりあえず『何が出せるか』について研究中だ。
・・・まぁ、もう粗方終わったんだけど。
〈うーん、景色については練習次第ってカンジですね。物を出すのと同様、頭で性格にイメージすればできそうです〉
「そうか・・でも景色のイメージって結構大変じゃないか?」
〈そうですね。物を出すのはもう完璧なのですが、景色となるとイメージする大きさも格段に違うので。苦労します・・・〉
「そうか。だったら景色じゃなくて、単純に周りの色を変えるだけの練習をしたらどうだ?黒から青みたいな感じで。それでコツをつかんだら少しづつモノを入れていくとか」
〈あ、それいいですね!やってみます!〉
「おーう。じゃあ僕今日予定あっから一回切るぞ」
〈了解しました。気を付けて〉
「ういうい」
接続を切り、外出する支度をしながら今日の報告について考察する。
まず景色が二秒しか反映されなかった事について。
物を出しても勝手に消えることはないと聞いたが、今回、景色は本人の意思に反して消えた。
考えられる理由は恐らく、「景色は意識していないと消える」と「イメージが曖昧で反映が不完全だった」の二択に限られる。
恐らく後者だが、もしも前者となると面倒だ。
意識してないと景色が出ないとなると、相当な集中力が必要となる。
と、なると仮に景色を完全にイメージできたとしても、固定するのは無理だろう。
「とりあえずこれいついては、帰ってきてから結果を聞いて考えるか」
独り言。反応したのはアンプ君のみ。次いこう。
「あとは・・記憶と脱出についてか」
シャツのボタンを締めながら考える。
この研究において、最も重要なのはこの現象ではない。女の子の脱出方法だ。
しかし脱出するにせよ、記憶を取り戻さなければ始まらない。
現象の研究も様々なものを出し、頭に刺激を与えて記憶を思い出させる意味合いも含めてやっているのだが・・・
今のところ、全く効果ナシ。あ、ボタンずれてた。
「記憶を戻す方法か・・・」
そもそも、僕達はどの記憶を取り戻せばいいんだ?
ふと、そんなことを考えた。
「まてよ・・思い出したい記憶を指定すればいいんじゃ・・」
確かにそういう風に考えると、今まで僕達は「なんでもいいから思い出す」を目標に研究していた。
しかし、それは逆に大雑把すぎてダメなのだとしたら。
思い出したい事を絞り、集中的に問い詰めるのがいいかもしれない。
今の方法では進歩してないわけだし・・やってみるか。
そこまで考えた所で荷物をまとめ終えた。お水一杯飲んでから出かけよ。
目的地の喫茶店に到着。今の時刻は10時ちょい前。待ち合わせのちょっと前。
この喫茶店――「コンチェルト」は元気な老夫婦が経営している老舗の店だ。
仲のいい夫婦と店内の空気がとても暖かく、地元で最も愛されている店の部類に入るだろう。
古びた味のあるドアを開けると、既に僕を呼んだ人と・・+αで面倒な奴が一名。
緑がかったロングの髪のハーフアップ+白カチューシャという普段通りの格好で登場した、幼馴染で同じ大学に通う宮野 栞。こいつが、今日僕を呼んだ人。
相変わらずの超絶美形で、彼女がいるだけで周囲の明るさが2割ほど上がる気がする。
べつに恋愛対象として見ているわけではないが、長い付き合い故に、気の置けない数少ない友人だ。
「あーおっはよー!」
と、栞はこっちを見ながら笑顔で手を振る。
それに応じつつ席に座ると、
「相変わらず無表情貫いてるなぁオイ」
と、苦笑いしつつ絡んでくるめんどくさい彼は、狭間 雄大。
大学に入ってから何かと僕に絡んでくる。めんどい。
ボサボサだけど何故か似合う紫がかった深い色の短髪。
こいつも毎度毎度変わらない。狭間はともかく栞は小学校から今まで大した変化ないしな・・・あ、でも確か中学生の頃、1日だけツインテで登校したんだっけ?なんでだろ。いつか聞こ。
「そんでー?・・・今日は何の用だ?ってゆうか栞だろ?僕に用あんの。なんで狭間がいるんだよ」
「あれぇ?木瀬クン俺がいない方がよかった?スマンスマン」
「えーウダウダ私のことそう思ってたの!?きゃー!」
・・・あー悪ノリだるい。帰るか。
「帰るのか?昼奢ってやろうと思ってたんだけど」
畜生狭間め心を読まれた。僕が金欠なの知っての策略か。
「・・孔明め」
「んじゃ決まりだな」
狭間はゲスい笑みを浮かべている。くそ。
「そんで?要件は?まぁ大体予想はつくけど・・」
「木瀬よ・・・」
一呼吸置いて要件が伝えられる。
「いい加減お前の部屋じゃなくて大学で無線やれ」
狭間の超笑顔を僕の超真顔で防御する。
「断る。そもそも機材を持ち出すのもめんどくさいし。まぁ諦めてくれ。何千何万回聞かれても僕は場所を変えん」
「そんな事言わないでよぉ・・・授業は出なくていいからサークルは出ろよ?な?」
「そもそもあのサークルまだ残ってたのか。いい加減潰れたかと思ったぞ」
「あぁ、もう失せる一歩手前だ。とうとう一昨日、吉田が辞めてな。そろそろ教室借してくれなくなりそうでな」
「もうここまできたんだから潰れてもよくないか?そもそも何でお前は自由研究部に固執する・・?」
自由研究部は、「一つの場所で個人が自由な研究をするために集まり、資材や知識等を共有し、お互いを助け合い効率を上げるサークル」だ。
特にアマチュア無線なんて趣味を持つ僕は、大学に入って早々にサークルの先輩に目をつけられ、入ることになった。
しかし入ってみるととても研究をしている雰囲気はなく、サークルのメンバー全員がお座敷でゆっくりお茶を飲みながら談笑している光景が続いた。
まぁもちろん僕がそんなサークルに入り浸る・・もっと言えば、通うはずもなく。
名目上は籍を置いてはいるが、元々学校にも毎日いくわけではないため、サークルに顔を出す日は一年間にあるかないかレベルとなっていた。いわゆる幽霊。ゴースト。もっと言うなら籍を置いてるから地縛霊だろうか。
「なぁ頼むよ・・もうお前含めて3人だけなんだ・・・」
「3人?先輩は?」
「校長の教育改革の餌食になって去って行った。つ事で今は俺がサークルのトップ」
「先輩・・・・」
僕の通う橋帝大学では、この度校長が教育改革だのなんだのと言って、卒業が何割か難しくなった。
そのため、今までサークルで勉学等とは程遠い生活を満喫していた先輩方は、止む無く図書館で勉強するハメになったそうだ。可哀想に。ってゆうか辞めなくてもいいじゃん。
「なんで辞めちゃったんだ?サークルでも勉強はできるだろ?」
「ウダウダは学校きてないから知らないかもしれないけど、校長が、卒業できる成績じゃない人は全員サークル強制的に辞めさせたよ。ホントあの校長やる事過激だよねー」
どんだけうちの校長破天荒なんだ・・・背筋が凍ったぞ。
「まぁ強制的に辞めさせられたのはマジで成績ヤバい人達だからな・・先輩方は・・・」
そこまで狭間がいいかけた所で、3人とも察した。うん。踏み込んではならぬ。
「つー訳だ。このままじゃ研究する部屋が消える。もうお茶もお菓子も出ないクソみてーなサークルに廃るんだ。そんなのいやだろ?な?だから頼む・・・・」
「そもそもお茶もお菓子も出てこたつもある方が豪華すぎなんだよ。研究してないし」
「あれはお菓子メーカーの進化を噛み締めてたんだよー!立派な研究だってば!」
「・・・個人の研究だろ栞さん?」
「たまたま研究内容が重なったの!」
「た わ け」
・・・まぁ今まで怠けた当然の報いだろう。
そもそも僕の「研究」は、人に見せられるようなものではない。
それに、仮に女の子と繋がってなくても僕は一人でやる方が好きだ。
よってこのサークルは僕に不適切。不適合。これが結論揺るぎはしない。
「そこまでダンボールの中にいる子犬みたいな目で見られても僕の答えは変わらん」
「くそ・・・・ここまでか」
「狭間!諦めちゃだめ!」
「分かった・・・最終手段だ」
何を出すつもりだ。
「お前ん家の・・・アンチ?」
「アンプだ」
「うん・・そのアンプちゃん。そのアンプちゃんに半年分程の餌を進呈しよう。そこそこ高いやつな」
「ブランドは?」
「カナゲンキャットフード」
「何ッ!?」
カナゲンキャットフードは一袋4000円の超高級キャットフードだ。
一度食べれば(無論猫が)二度と安い物は食べられなくなるとまで噂されている中毒性と独自の研究によって生み出された芳醇かつ新鮮な香りが特徴な素晴らしいキャットフードである。
しかしカナゲン半年か・・・アンプのためなら考えてやらんでもない。
「いいだろう。とりあえず現地まで行く。その後考えよう。まだ教室は使えるんだよな?」
「あぁ勿論。使えなくなるにしてもあと3日程あるからな」
「分かった。じゃあ早速行こう」
こうして、とりあえず僕たちは喫茶店を後にした。
駅まで20分程歩き、そこから二駅+10分の徒歩で橋帝に到着。
まるで美しさを求めていない、3:4.5くらいの比率の平面を組み合わせた腐ったカステラみたいな外観の学び舎で、遠目に見たらアパートのようにも見えないことはない。
割と歴史があるそうだが、元々そんなに目立った特徴もなく偏差値も並なので、勉強さえすれば割と簡単に合格事はできる。
正門をくぐり、授業真っ只中なのを3人共無視して我らが研究室(?)へ。
僕はともかく後の二人はサボるタイプではないのだが・・・まぁここまでサークルに対しての情熱がすごいのだろうという事にしとく。
本校舎の裏口を開け、中に潜入。
一階の端にある、二階へと通じる階段の踊り場の下に位置する場所に、研究室はある。
古びた校舎の中でも一段と古く、手入れされてないドアに狭間が合鍵を刺し、入る。
ちなみに合鍵は無断で作ったらしい。
カギがあるなら無断でも使えるのでは・・・と聞いたら、
「さすがにそれはダメだろ」
と帰ってきた。無断でカギ作った奴のいう事とは到底思えん。
中に入ると、そこは始めて入った時と変わらない匂い、家具の位置、雰囲気だった。
少しカビ臭いような、あたたかいような香りがするのが、実家のような安心感を演出している。
部屋自体はさほど大きくはないものの、布団をしけば普通にここで暮らす事はできるだろう。ただしフロ、キッチンはなし。
「相変わらず研究室とは無縁だな」
「?何がー?ちゃんとテーブルもパソコンもあるじゃん!」
栞が頑張って反論したところに、カウンターかます。
「テーブルって・・・大きめのちゃぶ台だろ?それにパソコンはノーパソで、しかも入ってるのはエロゲとFPSだろうが!」
「なんで知ってるの!?」
「明から様にバレたらまずかったみたいな顔すんなよ・・先輩と廊下で話してる時に聞いた」
「クッソ・・木瀬にバレたら来る気なくすからだまってて下さいってお願いしたのに・・」
狭間よ。知っても知らなくても結果は変わらなかったぞ。
「あーけっこうホコリたまってるね・・・とりあえずお掃除しよっか」
「そうだな・・じゃあ二人とも頑張ってくれ」
「何言ってるの?ウダウダもやるんだよ?」
「ちょっとまて。狭間はともかくとしてなんで僕まで」
「や る よ ね?」
「ういっス」
栞が一瞬、光のない目で僕を睨む。
この顔は基本的に僕にしかしないようなのだが、とにかく怖い。
・・・・まぁ僕自身争いは嫌だから適当にやるか・・・・決して女子が怖くてやるわけではない。
「えーっとー、ホウキは私やるからウダウダぞうきんで畳拭いて。狭間もぞうきんで壁お願いね」
「・・くっそ栞め一番簡単なのを・・」
「おい木瀬、宮野に従っとけ。悪い事は言わん」
「・・・・おう」
こうして各々、淡々と自分の掃除を全うする。
部屋も大きくないので割と時間をかけずに終わりそうだ。
なんて思っていると、
「あ〜ごめーん!」
どごっ
と。
栞が僕をさり気なく蹴る。
最近シュチュエーション的に無かったので忘れていたが、昔から栞は僕より目線が高くなると、蹴るなり叩くなり、何かと痛めつける。
本人曰くストレス解消と普段僕に見下ろされている仕返しらしい。
ストレス解消は分かるが仕返しは・・・・ただの理不尽ではないか。
そして割と痛い。
「おい掃除中はやめろって・・・っ痛ッ!」
「ごめんごめん。床が拭きたてで滑るんだよー!」
コイツ辞める気ない。真性のSめ。
「くっそ・・・だったら仕事放棄してくれるっ・・」
「オイ木瀬クン。掃除が終わって無いではないか。面白いから・・ゴホン、しっかり最後までやりたまえよ」
「おい本音が出てるぞこの野郎ッ・・・ぐはっ」
どごっ
べきっ
どしっ
どんっ
抵抗しようとするものの、巧みな足使いにより僕の手は捌かれて結果的に栞にはノーダメージで、立ち上がろうとすると足を払われ床に伏せる形となる。
「あーもう私の事は気にしなくていいから掃除しなよ!あとほんの少しだよ!」
べし。
そう言いながら、今度はほうきの先を太ももにクリティカルヒットさせ、立てなくする。いつこんな技覚えたんだコイツは・・・・・
ばし。
ごり。
どかっ
どんっ
掃除が終わる頃には、もう僕の体は痛みと疲労で動く事を放棄していた。
関節の節節と筋肉に鈍く、重い痛みが広がっている。
「にしても今回はやり過ぎだろ!マジで痛かったぞ・・」
「本当にごめんってばー!次から気をつけるから!ね!」
恐らくMからすればこんなものはご褒美以外のなんでもないであろう。
美形の女の子に踏まれて蹴られるのだ。嬉しくないはずないであろう。
・・・・僕には理解しがたいけど。ああいうの好きな人って人間の大切な何かを一つは捨ててる気がする・・・
「まぁとりあえず座れよ。お菓子はないけどお茶は少しあるからさ」
「あ、私淹れてきまーす!」
パタパタと会議(??)の準備が始まった。
別に、現地の状況見て決めようと思っただけなんだけど・・まぁせっかくだしゆっくりしてくか。
因みにもう、この部屋の環境的に僕が研究の拠点を移す気はなくなっていた。
少しでも無線できそうな内装に進化してればもう少し検討したが、僕が始めてここに来た時から進化してない上に、やはり機材の移動がめんどくさい。アンテナとかどうすんだ。というか機材持って来ても置いておける机がないではないか。
しかし・・・単に「やっぱヤダ」とは言えない。アンプの餌がかかっている。ここはうまいこと交渉しないとな・・
そう考えると会議は有難い。じっくりコトコト話が出来る。
「グラスバラバラでごめんねー。はい」
3つのグラスにお茶が注がれる。
「んじゃー第一回木瀬のサークル存命会議だ」
「わ〜!ぱちぱち」
「・・大げさすぎる」
「話し合いってタイトルつけた方がテンション上がって話しやすいだろ?」
「むしろ気恥ずかしいわ。・・・まぁいい、始めるか」
まずはこちらの言い分を上げておこう。正直僕の通じる意見はそう多くない。今の所、研究の拠点を移さずにキャットフードを確保するには、
・「研究の拠点は移さないけど、一応顔は出すから」
・「掃除とかも手伝うよ」
の、二つの言い分が最有力だ。
問題は、いかに上手くこの言葉を入れるか。つまりはタイミング。出すマークは相手の会話の中にある。
「じゃあ単刀直入に聞くが・・」
ここでいきなり狭間はストレートに僕の急所めがけて言葉を突く。
まるで2メートル程の槍で特攻してくるかの如く引っ掛けも不意打ちも何もない攻撃。故に避けるのは難しい。ならば、こちらが用意すべきは回避ことではなく、僕が構えし大剣によるカウンター!
「あぁ、残念だけど、物理的にここで研究をするのは無理そうだ。だが・・」
一度敵の攻撃を受け止め、受け流してから次の蓮撃を打つ。
「ここに週何回か顏を出して、お前らの研究を手伝うのはいい」
・・決まった。
閃光の如く敵の胴体を、槍ごと切り裂く僕の攻撃は、かなりのダメージを与えたようだ。
案外早く終わったな・・さて締めの言葉で終わりにするか。
と、思っていると、思わぬところから敵の援護がくる。
「えーでもさぁ、ウダウダがここで無線しないなら、サークルのアピールできないじゃん?前は先輩が古典の研究してて、それがサークルの広報とかになって新入生とか入ってたんだけどもういないからさー。できればここでやってほしいんだけど・・だめ?」
栞による弓の援護が、僕の体を掠る。
くそ・・・そんな事は知らなかった。完全に不意打ちだ。
しかし、僕はそんな事で諦めはしない。
「確かにそうだな。ここきて3人でお茶飲むだけじゃ、部屋がどんなにあっても来年にはサークル潰れそうだしな。やっぱ木瀬、ここでなんとか頼むわ!」
折れた槍と無数の矢による攻撃をかわしつつ、僕はとっておきの秘技を出す。
これさえ決まれば、僕の勝利は確定だ。
「あぁ、無線の研究は月一程でレポートを出して、その内容を広報にすればいい。サークルの本部はここでも、研究してる場所が離れてちゃ、いけないわけじゃないだろ?」
「あぁ、あとここにきた時は、週一程で僕が掃除でもしてやるよ。今日の部屋に入った状態を見ると、お前ら掃除してもせいぜい半年に一回程度だろ?なんなら、僕がホウキでささっとやっとくからさ。それならいいだろ?」
「掃除してやるからこのまま了承しろ」という我ながらゲスい意味を込めた反論を決める。
これは完全に勝敗が決した。
やったなアンプ。これでカナゲン食べれるぞ。さぁ狭間よ、早く戦利品をドロップしろっ・・・!
「あ、じゃあさ、ここ来る意味なくなるから、ウダウダの家に私達がいけばいいんだー!」
ひゅっつっ・・どす。
遠くから僕の心臓目掛けて強力な矢が放たれ、少しズレた所に刺さる。
致命傷ギリギリの傷だ。
「はぁあああ!!??ちょっと待て。僕は絶対認めないぞ!第一ここはどうする!お前らの家みたいなもんだろ!」
必死になって剣を振るう。
「んー・・でもここよりウダウダの家の方が綺麗であったかくて猫ちゃんいるしー」
「それに、協力しあって研究するサークルじゃん?だから、ここにいるよりウダウダの家で活動する方が効率いいよ!」
「確かにそうだな。成る程。それなら皆、人の目気にしないで研究に没頭できるからな。最高じゃんか!」
「あ、でもタダで毎日通うのは申し訳ないから、私と狭間でお金出して、カナゲン毎月買ってあげるね!」
「割り勘か!そんなら買い続けてやってもいいな!どうだ?木瀬?悪くないと思うんだが・・」
二人の連携攻撃をを受け、今度こそ僕は敗北した。
カナゲン毎月って・・・これ以上の戦利品があるなら僕は・・・多少の犠牲を省みない。
だが・・・これは・・・女の子との通信はどうする・・・くそ・・・
「・・・1日待ってくれ。来るんだったら掃除とか色々準備するからな」
「おおぉおー!!ありがとな木瀬!これで少なくともサークルは存命だ!」
執行猶予を作る言い訳を間違えた。これでは、もう来てもいいと認めてるようなものではないか。・・失敗した。
「ありがとねーウダウダ!助かるよ〜」
・・・あーあー。もうどうにでもなれ。
何かを考えるより先に、僕はひとまず思考を放棄した。
これからどうなるんだろう・・女の子の事、説明しなきゃな。違う、まず女の子に説明しなくちゃ・・
深いため息をつき、僕は机に突っ伏した。
[木瀬 宇田:10%]