コネクト
小さい頃から今日まで、僕は人間として人として霊長類代表として、並に生活していたと思う。
親に対する反抗期もほどほどに、友人は合計50人程度。知り合い含めて100ちょっと。
そして無線だいすき。要はアマチュア無線オタクだ。
アマチュア無線っていうのは・・・簡単に言うと、金銭目的で使用することを禁じた、完全に趣味&個人的な研究で使う通信だ。
一応使うには免許がいるが、そう大して難しい試験ではない。・・・少なくとも僕からすれば。
中学生に入った辺りに祖父に進められてから、これにハマり出した。飽きやすい性格の僕にとって、コロコロ相手を変えて一日限りの話し相手を作ることのできるこれは、数少ない興味を持ったものだった。・・・中学の終わり頃までは。
適当に自分のキャラを作って、その通りに自分を作り、適当な人と繋いで話す。
始めはとても楽しかった。なりたい自分になれる事がなにより嬉しかった。
しかし。
会話とキャラのネタ切れによって、この方法での楽しみ方は次第に消えていった。
そんでもって次にやり出したのが、無線機器の改造だ。
高校で知識を身につけ、大学に入ってから金と時間をかき集め、軍などの通信をジャックする・・・とまではいかずとも少し特殊な電波を拾ってみたくて、始めてみた。
後にこれが、最高の楽しみへと繋がるのだが。当時はまだ知る由もなし。
改造は、思った以上に困難を極めた。
知識さえ身につければと思ったものの、実際に自分でいじると何も進歩しない。
それでも他に何もやる事もないので、必要最低限の出席日数で大学に通い、飼い猫兼相棒のアンプを撫でながら半引きこもりとなり作業に没頭した。
そしてついに。
この研究は、思いもよらぬ形で停滞期へと突入する。
ある日いつものように作業をしていると、本来ならばあり得ない周波数で雑音が聞こえた。
「・・もしかして・・・マジで軍とかの拾っちゃったか?こりゃ」
周波数を調整しながら、徐々に雑音を綺麗な音へと近づける。
〈・・・ま・・・・・・・・・・・・・〉
すると、確かにその瞬間、雑音まみれの砂嵐の中に日本人であろう声のが聞こえた。
そのまま興奮しつつ、調整を続ける。
〈・・・・・ん・・・・・・・・・・・ま・・・・・・・・・・・・・・・・・べた〉
「どんどん近づいてる・・・いいぞ・・・・」
しかし、もう少しのところで雑音はプツっと切れた。
「は・・・嘘だろ・・ここまできたってのに・・はぁ・・・」
急速に無気力となり、机に突っ伏す。
この時、突っ伏した時に口がマイクの付近になければ。
さらに言うと、突っ伏した時に偶然にもマイクのスイッチがONにならなければ。
僕はここで研究をやめていたかもしれない。
暫く机と頬ずりしていた僕は、唐突にその疲れ50%めんどくささ10%大学の出席日数気にする5%その他無気力35%でその言の葉を吐いた。
「いい加減繫れよ・・・」
〈うわあああっ!〉
「ああああああああ!!??」
するとなんと言うことでしょう。見るにも耐えない周波数に繋ぎ、マイク付近で愚痴を零すという匠の技により、可愛い(未確定)女の子の声が聞こえたではございませんか。これにはさすがの匠もびっくりです。
「ちょまっ・・は、はぁ!?」
〈嘘・・喋った・・誰かいるの!?〉
繋がった・・その喜びが全身を0.53秒で駆け抜けて一周した。
つまりは冷静になったと言う事だ。
姿勢を正し、僕の特徴的な三白眼をむき出して応答する。
「あー、えーっととりあえずこんにちは」
〈あ、うん・・・こん・・・にちは?〉
女の子は今だに驚いた様子で、それでも丁寧にあいさつを返してくれた。
「適当に周波数いじってたr・・・」
〈ねぇ!どこにいるの!?〉
あれ?なんか事情説明しかけた所で向こうから居場所聞かれた。
脈アリかなーなんて考えていると、
〈ねぇどこ!?〉
〈いるんでしょ!?お願い出てきて!〉
と、どうも切羽詰まった様子で一方的に言われてしまった。とりあえず落ち着かせよう。
「あー僕は今家にいる。アパート。一人暮らし。日本だよ」
住所とか言うのは怖いので、とりあえずおおまかな事だけ伝える。
〈え・・・なんで・・?〉
デジャブか?さっきも似たような事言われた気がする。
しかし「なんで?」って何だよ。
「あー別に嘘ついてるわけではないぞ?とゆーか、なんでそんなに慌ててるんだ?」
角という角を取り除いたまん丸な言葉で返す。
〈・・・・・・〉
「どうした?」
今度は黙ってしまった。どうしたもんだかこの娘(性別不明)。
〈あの・・・〉
「ん?どうした?」
〈もしかして・・・闇の中にいるわけじゃないんですか?・・その・・・もしかして、現実ですか?そっち〉
は?what?葉?生?ハ?
このこの娘どうしたんだ?なに?闇?現実?とゆうか現実=闇じゃね?このご時世。
「えっと・・・どういう事だ?闇ってなんだ?」
〈やっぱり・・・そうなんだ・・・・〉
「あーあー、できれば説明してくれ」
「ものすごい電波女と知り合ってしまったか」「いや、これこそ我が冒険の始まり」「めんどくさそう」「学校いこうぜ」と、脳内会議を展開しながら会話をする。
〈あの・・・私、信じてもらえないと思いますけど・・1年くらいよくわかんない闇に閉じ込められてるんです・・〉
おい。今さらっとすんごい事言ったぞこの娘。
一年間?闇に?閉じ込められた?
意味がわからぬ・・
けれど。
この言葉を聞いた時点で僕は既に決めていた。
これが冗談でもいい。釣りでもいい。本当でもいい。
何でもいいから、この娘と話そうと。
純粋に、興味が湧いてきた。
別に、あり得ない周波数で知り合ったからではない。
単純に、この娘に興味が湧いたのだ。
だから僕は、とりあえず話していく上で最も重要な事を説明をした。
「僕は木瀬 宇田。とりあえず、話は聞くよ。」
[木瀬 宇田:10%]




