丸つけと日常の終わり
目の前の少女は、さっきエレベーターであった少年の首を締めていた。
おそらく、すでに少年は絶命している。
これは落ち着くどころの状況じゃないな・・・。
そもそも、数ヶ月眠り続けた少女が、なぜ今立っている?
なぜ今、人を殺すほどの筋力がある?
しかしそんな疑問について考えるまでもなく、少女は口を開く。
「いやーまいっちゃいましたよ。目が覚めたら少年が近くにいたもので。あ、こいつ同級生なんですよ!・・・でも・・・ちょっと思い出しちゃったので、殺しちゃいました」
「もしかして・・・そいつは日貴か?」
「ひき?・・あぁ、こいつの漢字、日って風に見えますけど、本当は曰くなんです。
曰くって読み方変えると曰になるんですよ?」
「なるほどなぁ・・・曰貴って同級生の名前だったのか?で、なんでお前を助けた男を殺した!?」
「あぁ、助けてくれたのこいつだったんですか。まぁいいです。こいつ、ちょっと私の秘密を知っちゃったんです。ですので、今さっきチャンスがきたので殺しました」
「そんな風にサクッと人殺せるんだったら・・・お前の秘密は、人殺しまくってたとかそんなところか」
「えぇー・・まぁご明察ですけど。言い方酷くないですか?」
「人殺しに向ける言葉に良いも悪いもねぇだろ」
「私だって人間なのに・・・人権あるんですよ?」
「そうかい。んで、お前の代わりに僕と通信してたのは誰だ?」
なるべく話を続かせる。逃げる手順を頭でイメージ。
「?私本人と木瀬さんは話してましたよ?」
「嘘をつくな!!昏睡してた奴と話せるわけないだろ!!」
「そう考えますよね、普通。けど、私自身よくわかんないんですけど、なんかテレパシーみたいのに目覚めたみたいなんです、私」
ここに来て何を言う?まさか、本当にこいつg・・・
〔きぃいいいいごぇますか?ぁ?〕
「っぁああああっっ!」
急に頭に声が響く。脳内に直接文字を刻まれる感覚。とてもじゃないけどずっとは聞いていられない。
「ね?こういう事なんです。恐らく闇は私の脳内・・・恐らく、意識の具現化ですね。そこで暇してたら、このテレパシーが木瀬さんの無茶苦茶な周波数を拾っちゃった・・・みたいな?粗方そんなところでしょう」
嘘だ・・・そんなのしんじられるわけない・・・
テレパシーを受信していただと・・・?
でも・・・闇の正体が自分の意識そのものだとしたら、説明がつく。
好きなものを出せる現象や、景色を変える力。
思い返せば、自分の思考なのだからそれらは出来て当然。
そして、この地球上でそんな場所は他に考えられない・・・・やはり、本当なのか?
「くっそ・・・こんな事、想定してなかったぞ」
「私もです。まぁ、殺人鬼を目覚めさせた自分を悔いて下さい」
笑顔で少女は続ける。まるで、それこそテレパシーで逃げようとした僕の心情を悟ったかのように。
「それでは、敬意を払って殺しますね!ありがとうございました!!」
机にあったナイフを手に取り、一直線に僕の方へ走ってくる。とても速い。
なんとかかわすと、僕のいた所の空にナイフの先はあった。
・・・・なんでナイフなんかあるんだよ!?
それに、あの馬鹿みたいな身体能力はなんだ?とても今さっきまで昏睡していたとは思えない。
「逃がしません!」
少女が振り向くのと同時に横に振るわれるナイフ。
まて・・・この立ち位置は!
「えっへへ・・これで逃げられませんね・・・」
ベッド越しに向かい合う。
僕の後ろには壁。
・・・完全に逃げ場を失った。
・・・・・・ここまでか・・・?
でも、まだ死にたくはない。
ここまできて死ぬなんて。
家ではアンプと狭間がいまもいる。
きっと狭間は会話を聞いて青ざめているだろう。
そういえばスマホからなんか聞こえるが、聞き取る暇もない。
今はこのシュチュエーションに集中。
・・・・・。
一瞬後ろを見る。
窓はある。
しかしここは三階。
でも、ここから窓に向かうのは絶望的だ。
「・・・・・狭間、救急車呼んどけ!!」
叫ぶと同時に、少女が向かってくる。
そして僕は窓から飛び降りる。
幸いと言っていいか分からないが、窓は全開だった。
空中に体を投げ出す。
なんと少女も一緒についてきた。
笑顔だ。
何故か釣られて僕も口の端を上げてしまう。
まぁ、これで僕が死ぬんだったらこの子も死ぬんだし、お互いどうせ重症だから、最悪でもこれ以上被害が広がることはないだろう。
グッバイ日常。
楽しかったよ。
「じゃあな」
[木瀬 宇田:11%]
[曰貴 真琴:0%]
[笹原 彩香:78%]




