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N;EXUS(ネクサス)  作者: 柴豚
11/13

木瀬 宇田の非日常

病院前に到着。

病院内で電話はあまりよろしくないので、メールで連絡を取り合う。

ここでどれだけ情報を収穫できるか・・・・・

少し緊張しながら、いざ院内へ。


入ってみると程よく暖房が周っている小綺麗な内装がお出迎えする。

白を基調とした院内には、お年寄りから子供まで、様々な患者様が。

ひとまずは、この病院のマップを拝見。

この病院は、一階が診療所や手術室などで、二階から病練となっている。

こうして見ると、ホテルみたいだ。

屋上含めて全部で4階まである。

「とりあえず、二階から回って行くか・・・」

と、その前に狭間へ病院内の風景を簡単に説明して送信。

こんな感じで、随時報告しつつ、院内を散策。

エレベーターを使って二階へ。

中に僕だけの状態で閉めようとすると、慌ててもう一人入って来た。

「すみません」

見舞客だろうか?紙袋を持っている。

髪を後ろで縛った、茶髪の男の子。高校生くらいか?

ひ弱そうな顔が、妙に僕と似ていると思ってしまった。

あ、僕はひ弱じゃない。多分。


二階に着くと、一回よりも断然院内関係者の姿は見なくなり、患者が多く目にとまる。

さっきの少年は3階へ行った模様。まぁ、もう関係はないけれど。

病練を端から歩き、暇そうな患者さんを探す。

ラッキーな事に、平日でこの時間帯のため、看護婦さんは必要最低人数で動いているようだ。

看護婦さんの巡回ルートからして、病練を右回りに歩きながら聞き込みすれば、鉢合わせる可能性は少ないと思う。

そうして歩いていると、ベンチにすわって本を読む患者さんが一人。お爺ちゃんだ。

「あの、すみません」

「はい、なんでしょう?」

ハキハキした声で返してくれた。気難しい人ではなさそうだ。

「あの、この病院に、半年くらい前から崖から落ちて、入院してる15歳くらいの女の子を知りませんか?」

「はて・・・知りませんね。けど、どうしてです?」

「あぁ、私、その女の子と昔、近所でよく遊んでまして。最近向こうのメアドも変わったらしくて、なかなか連絡がとれないんですよ。今、その子が未だに入院してるかどうかすら分からなくて」

「ははあ、そう言う事でしたか。役に立つかわかりませんが、半年前から今も入院してるとすれば、別練にある、特別な患者さん専用で入院していらっしゃる階にいると思いますよ。特別病練といい、長期の入院や、お金持ちの方が向こうに行きますね」

「別練・・ですか。有難うございました」

「えぇ、では」

軽く会釈をし、お爺ちゃんを後に。

なるほど、別練か。もしも今もいるとしたら、女の子は病院から通信しているのか?

・・・病院という不気味さを兼ね備えた建物故に、つい心霊的な事が頭をよぎる。

いや、そんなもには実際、現実にはあるわけない。

一度出かけた考えを振り払いつつ、まずは狭間に報告。

病院内の風景を乗せるとともに、今の情報を送信する。

送ると、5 秒で

《了解。上手いな》

と返信が。

女の子には、特に変わったことはない模様。

まぁいいさ。とりあえず真相には近づいてるはず。

スマホをしまい、再び歩き始める。



次に会ったのは僕より少し年上のようなサラリーマンのようなおじさん。

辺りに人がいないのを確認し、事情を説明する。

「すみません、私最近ここに入院したばっかりで・・・」

ここは収穫なし。

まぁそう立て続けに情報が入るまでもなく。

お礼を言って立ち去る。

すると、狭間から着信が。

「どうした?なんか緊急のことでも?」

《いいや。お前が知らせてくる状況的に、通話状態をキープしてもいいと思ってな》

確かに。ここでは大丈夫そうだ。

「分かった。スマホは通話するとき以外胸ポケに入れておく。雑音ひどいからって切るなよ?」

《分かった。切らねぇよ》

スマホを胸ポケに刺し、捜索再開。


次に向こうからきたのは・・・仲良く話しながらこちらへむかってくるお婆ちゃん二人組。

看護婦が更に奥にいるが、この距離であればいけるだろう。

「あの、すみません」

二人を呼び止めて、さっきと同様に説明。



「あら、それって、あやかちゃんの事かしら?」

「知ってるんですか!?」

始めはお互い分からなかったようだが、話し会っているうちに片方のお婆ちゃんが気づいた。

ここに来てとんでもない収穫だ。

「えぇ、私は心臓が悪くてね。2年くらい前からずっと入院してたの。それでも遂に明日退院だったから、あなた、運がいいわね」

ここにきて、また自分の運を使ってしまった。

明日辺りに自分がここでお世話にならないか心配だ。

「それで・・・今、あやかはどうしてるんですか?」

「今もまだ入院中よ。・・あやかちゃんが運ばれて来た時は本当に驚いたわ。夕方、下の階に用事があって行ったら、全身傷だらけで運ばれてきたんですもの。もう痛々しくてしょうがなかった・・・」

悲しそうな表情でお婆ちゃんは語る。

「入院中って・・・回復の具合はどうなんですか?」

ここで、最も重要な質問をする。

さぁどう答えるお婆ちゃん。






「それがね・・・体はもう大丈夫なんだけど、意識が戻ってないの。それに医者(せんせい)によると、五感(・・)が無くなっている状態なんじゃないかって。不思議よね。今の所、事故のショックで脳が塞ぎ込んでいるような状態って考えるのが有力な説らしいけど、こんな事例初めてみたい」





五感が・・・・無くなっている?

そして意識がない・・?

あまりの衝撃的な事実に目眩クラクラ。

ちょっと待て。じゃあ僕はそんな・・・そう。まるで、外の世界から拒絶されたような子と話してたのか?

あり得ない。

そんなのデタラメだ。

きっと嘘に決まっている。

あぁ、そうか。これはイタズラだったんだ。この患者の事を知っている誰かが、僕にイタズラしたんだ。

でもなんで?

理由が見当たらない。

いや・・ある。

僕があやかちゃんの部屋に来る事だ。

でも効率が悪すぎる。

大体、なんでこんな手間のかかる事をした?

それに、あのあり得ない周波数はなんだ?

正解が分かったところで、疑問が湧き出てしょうがない。

でも・・・・

「教えていただき、ありがとうございます」

「いいのいいの。でも、気の毒にね。久しぶりの再会が、こんな風になってしまうなんて・・・」

「覚悟はしていた事です。では」

あやかちゃんの部屋は、恐らく別練の特別病練。

エレベーターの近くにあった館内マップを見ると、三階から渡れるそうだ。

どうしてこうなったのかはさておき、行くしかない。

いいさ。この事件の犯人の手のひらで踊らされているとしても。

踊ってやる。ここまで来たんだ。

「・・・狭間、聞こえるか?」

《あぁ、信じられねぇ・・・・それと、あやかちゃんが名前聞いてからずっと黙ってる。・・・なんかマズイぞ、これ。引き返した方がよくないか?》

「いや、こうなったら最後まで突き止めてやる。こんな事した犯人にも会ってみたいしな」

《・・・お前がそう言ったんなら、今から止めに行っても無理か。わかった。絶対危険な事はすんなよ?》

「あぁ、じゃあな」

エレベーターに乗り、三階へ。

僕は、どこに向かっているのだろう。








[木瀬 宇田:10%]








○○○○○





時間は、木瀬が二階に上がった辺りまで遡る。



今日は久しぶりに、彼女のお見舞いにきた。

紙袋の中には花と、あの日落としていったナイフが入っている。

昨日お見舞いの準備をしてる途中に、今更になってナイフの存在を思い出した。

僕が持っているのも何だか罪悪感があるし、きっとこれは彼女の大切なものだったのだろう。返さなくちゃ。

三階について、そのまま真っ直ぐ別練へ通じる廊下へ。

何ヶ月も通っている風景だ。

あの日の後、山では土砂崩れが起きて、恐らくだが彼女の埋めていたものは完全に隠された。

運が良かった。

これで、彼女が人殺しだという事はバレずにすんだ。

知っているのは僕だけ。

あの日知ってしまってから、誰にも話してない。

単に彼女が好きだから匿っているのもあるけど、昏睡している時に通報するのも卑怯だから。

まぁ、今後も話す事はないだろけどね。

そう考えつつ、彼女の部屋の前へ。

笹原(ささはら) 彩香(あやか)様】と書かれたプレートのドアを開く。

今日もこの病院の眠り姫は、いつもと変わらずに眠っている。

美しい顔。相変わらずだ。

沢山の管に繋がれた体は、何回目にしても痛々しくて直視できない。

そのため、僕は彼女に背を向けて花瓶に花を刺し、机の上にナイフを置く。

「・・・・・・」

背を向けたまま、暫く立ち尽くす。

このナイフを見ると、あの日が未だに鮮明に蘇って来る。

あの時に、僕が付いていかなければ。

笹原は普通に今日も登校してたかもしれない。

そう考えると、目が滲む。

なんで。

どうして。

知りたくなかった。

全部忘れたい。

そんな思いがこみ上げて来て、また一人で泣いてしまう。

情けない。笹原が目を覚ましたらどうするんだ。

そう自分に言い聞かせて、涙を拭く。

そろそろ帰ろうか。

そう思って、やはり背を向けたまま別れの挨拶を一言。

「ごめん、君のナイフ、今更だけど返すね。それじゃ、また」

そう言って帰ろうとした。でも、その日はいつもと違って。









「あぁ、ありがとね」






と、返事が返ってきたんだ。








[○○○○:10%]








×××××






「あやかちゃん」

そう聞いた時に、闇が広けた。

辺りにとめどなく光が入って来る。まぶしすぎ。

直視できない量だ。

目を瞑ると、暗闇に自分の記憶が映し出される。

あぁ、きっとこの光は、私の記憶そのものなんだ。






小さい頃、よく体に痣があった。

家の中で殴られて殴られて殴られて殴られて殴られて殴られて殴られて殴られて殴られて殴られて。

沢山泣いたけど、小学校では絶対に泣かなかった。

大事な友達に心配をかけたくなかったから。

いつも笑顔で、明るい話題で常に話す。

そうする事で、皆と仲良くなれた。

学校だけが、私の楽園。

皆優しくて、学校にいる時だけが楽しい。

今思えば、家の中で起こっていた事は、いわゆる虐待だったのだろう。

ひどい時には金属バットで思いっきり飛ばされたり、首を絞められたことも。

何をやっても親は私を拒んだ。

私に家での居場所はなかった。

けれど、そんなある日に状況は一変する。







小学五年生の冬の日。

夫婦喧嘩をしている中で、私は部屋にいて。

転校する友達に送る、皆んなの寄せ書きが詰まった、メッセージカードを作っていた。

カッターなんて家にないので、果物ナイフで画用紙を切る、

「小さい頃はよくこれで指きったなぁ」

なんて思いながら、工作に集中していたその時。

父親が、ドアを勢いよく開けて入って来る。

手には金属バット。

目は血走っている。

怖い。

今までに見たことのない表情で、私を睨む。

「・・・お前が」

思わずナイフを握り、身を震わせる。

怖い。

今までにない恐怖心が全身を覆う。

「お前なんかが生まれたからこんな事になったんだよクソがぁああああ!!!」

理不尽すぎる叫び。

私は泣いていたと思う。

勢いよく頭上から金属バット。

まともに食らうしかない。

そしてここで死ぬんだ、私。

でも、死にたくない。

嫌だ。

嫌だ。

嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない



死にたくない!



ごん。ぶちゃ。







目を開くと、私の握っていたナイフは心臓に深々と刺さっていた。

そして、勢いよく振り下ろされた金属バットは後ろの壁に突っかかっている。

私の体が小さかった故のカウンター。

無意識に私は、手を伸ばしていた。

「きゃっ!」

状況を理解して腕を引く。

すると、父の口と傷口から噴水の如く血が吹き出た。

初めて見る大量の出血。

しかし、不思議と怖くもないし、助けてあげる気もない。

体が、「これで楽になった」と、教えくれているように。

何故か私は嬉しくて。

手足を痙攣させて倒れる男を見下しながら笑ってしまった。

あぁ、これが殺人か。

悪くないな。

そう確信すると、部屋の入り口に顔を青ざめて立ち尽くしている母。

汚ったない髪。

「あ・・・あ・・・・」

悲鳴も出ないんだ。

いっつもキーキー五月蝿いのに。

まぁ静かになったぶんいいか。

「この人殺し!!!!!」

あーあー五月蝿くなった。

しかもこっちに走ってきてるし。

馬鹿じゃないの?こっちナイフもってるんだよ?

素手で勝てるわけないじゃん。

女が、手を高く上げる。

はいさくっと。

隙ができた所を、一直線に心臓めがけてどーん。

男とおんなじ反応で倒れる元・母。

やった!これでこいつらから解放された!

この際捕まってもいいや。

警察にどういう風に捕まるのかな?

今はそれすら楽しみだ。

すると、悲鳴を聞きつけた隣人が来た。

悲鳴を上げる。あぁ五月蝿いな、もう。

すると次に、その隣人のおばちゃんは、私を抱き寄せた。

大丈夫?怪我してない?だって。

あ、女の胸にナイフ刺さりっぱなしだったから私が被害者だと思われたのか。

なんかラッキー。







その後は、警察は幼い私に容疑をかけることもせずに、事故として一件を処理した。

その後は里親の元で暮らす事になり、人並みの幸福を与えられたけど、やはりあの日の感覚は忘れられなかった。

殺したい。

中学2年頃になるととうとう我慢ができなくなり、ホームレスを人気のない場所に誘って殺害。

死体は適当に埋めといた。

今までに溜まっていたのもを吐き出した感覚。

私の中にあるなによりの喜び。

その後も半年おき位に殺した。

なるべく殺しても社会に影響しないような奴を殺す。殺す。

あぁ、なんて愉快。

楽しくて楽しくてしかたなかった。

木瀬さん。ごめんなさい。

貴方が興味を持った人は、どうしようもない殺人鬼でした。

私に名前を聞かせた事、後悔して下さい。

下の名前で全部思い出して、目ぇ覚めちゃいました。

苗字じゃだめだったんですね。

ごめんなさい。

今から、多分こっち、来るんですよね?










じゃあ、私、恩人の木瀬さんを殺します☆!







[笹原 彩香:70%]









□×○□○×






渡り廊下を歩く。

あやかちゃんへ会いに行く。

犯人の顔を拝みに行く。

特別病練のフロアを一周。

いた。【笹原 彩香】とプレートがついている。

部屋の前で一呼吸。

一旦連絡を入れよう。

「着いたぞ。今、部屋の前だ」

《そうか。あやかちゃんからは応答はサッパリない。・・・・行くのか?》

「あぁ、今からドアを開ける。電話越しによく聞いとけよ?」

《当たり前だ。この通話、録音してるんだからな。帰ったら報告書のネタにすんだから》

「そうだったな・・・・」

そうだ。別に死ぬわけじゃない。

落ち着け。僕。

ついにここまで来たんだ。

後はドアを開けるだけ。

「なぁ、あやかちゃん。もしも聞こえるなら、返事はしなくていいから聞くだけ聞いててくれ。答えなくていい」

ドアノブに手をかける。

「お前が、笹原 彩香か?」

そう言いながら、勢いよくドアを開ける。

ノックした方がよかったかな?

でも、そんな必要はなかった。

目の前の光景が、おかしすぎたから。


僕の質問の答えは、目の前にいる少女の口から直接帰って来た。





「はい、私が笹原 彩香ですよ!」








[木瀬 宇田:10%]











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