『星の階を昇った先に』で語りきれなかったこと
「星の階を昇った先に」を最後までお読み下さってありがとうございます。
書き終えて、もう少しこの話について語り尽くせなかったことがありますので、今回エッセイという形で書いてみることにしました。
よろしければもう少しお付き合い下さい。
まず、この話を書こうと思ったきっかけについて。
原作RewriteのTerraルートをクリアして、ふと疑問に思いました。
クライマックスのシーンで、瑚太朗が最後の上書きをしたとき、篝への想いの源泉に気づきます。
それはもう一人ともいえる自分――Moonの瑚太朗から受け継がれてきた、篝への想い。
彼の最後の上書きが、どういった能力の底上げなのかは詳しくはわかりませんが。
篝への想いが込められた圧縮された情報を受け取ったことから、Moonの瑚太朗とほぼ同種の能力であったと思われます。
ですが、その源泉――Moonの瑚太朗が篝へ抱いた想い。
これがよくわかりませんでした。
彼がなぜ篝をこれほど強く想い、守ろうとしたのか。
Moonのシナリオでは、加島桜の亡霊ともいえる篝への敵意が現れたことで、瑚太朗は本来は自分がその役割であったことに気づきます。
篝を守るという意志はこれを契機に一気に高まるのですが。
それ以上の何かがあるのではないかと思いました。
つまり。
「加島桜の亡霊が現れなくても、瑚太朗は篝を守る想いを抱いたのか?」
という疑問がわきました。
加島桜の玉突き事故がなかったら、やはり瑚太朗は篝を殺す役割を担っていたと思います。
そういう運命でも、彼は篝を守る意志と想いを貫けたのだろうか。それほどの想いがあったのだろうか。
それを突き詰めてみよう、と思ったのがそもそものきっかけでした。
ですが。
おそらくですが、加島桜の亡霊という存在が、瑚太朗の最大のきっかけだったのは多分間違いないと思います。
それ以上のきっかけ――篝を守りたいと思えるほどの――を作るにはどうすればいいのか。
瑚太朗ではどうすることもできない、篝を殺してしまう運命。
これを打ち破るためには、やはり相当強い恋愛感情がないと成り立ちません。
原作では、瑚太朗の篝への恋愛感情は、Moonではそれほどあるようには見えませんでした。
いえ、好きだという気持ちはあったと思いますが。
なんというか、こう……。肉体関係とかそこまで持っていけるほどではないというか。
篝という超越存在のせいでそう見えてしまうのかもしれません。手を出せるような存在ではないです。
そこで。
Moonの篝に、瑚太朗を好きになってもらうことにしました。
相思相愛なら、強い恋愛感情で結ばれることもできます。
しかし……。
Moonの篝にそれが果たして出来るのかと。最初は無理だと思いました。そこで行き詰まりました。
彼女は人間の感情がそもそもありません。ないと思います。
だけど、Harvest festa! の篝ルートでは、人間に擬態して人間の感情を知り、瑚太朗に対して少し想いを応えているような気がします。
これならいける!
もう無理やりでも構わないから篝を一度人間に堕としめて、それで恋愛感情を持ってもらおう。
ただし本当に人間にしちゃうと困るので、瑚太朗に治してもらう。
そして瑚太朗が消滅すれば恋愛感情プラスされた新生篝が出来るのではないか。
はい。相当無茶なシナリオです。
ここまで持っていくには、まだ難関がありました。
瑚太朗が篝への想いを相当強めなくては、Moonの瑚太朗ではちょっと無理です。
そこで、篝という娘を作ることにしました。
近親相姦できるほどの強い恋愛感情があればいけるのではないか。
いや、そこまでする必要はないと思いますが……。
近親相姦というテーマも一度扱ってみたかったテーマではあるので、(『星の階を昇った先に』で書きたかったテーマ【近親相姦】について参照)とにかく瑚太朗の恋愛感情を高めるためにそうしてみることにしました。
詳しくはそちらのエッセイで語ったので省略するとして。
とりあえず娘への恋愛感情を作ることには成功しました。
かなり歪んだ形ではありますが……。(ほぼ性欲が勝っていたとしか)
そして、瑚太朗が篝を殺す運命ですが。
この設定をどうするか。いろいろ悩みました。
原作通りですと、可能性世界で何回も篝を結果的に失ってしまったことで、そういう因果が作られてしまったという設定になります。
これだけだと殺す運命を回避できそうな気がしました。
実際、Moonの瑚太朗は玉突き事故で回避できましたし、他にも別の要因さえあれば回避できると思います。
絶対に殺してしまう運命に持っていくにはどうすればいいか。
そこで以前読んだ小説、光瀬龍著「百億の昼と千億の夜」を思い出し、彼岸の彼方の超越存在が生命(高エネルギー粒子体)を抹殺しようと企む設定を参考に、虚数領域の、生命とは対の存在が生命抹殺計画の一環で瑚太朗を送り出したということにしよう、とほとんどパクリに近い設定を作りました。
確かあの小説では、宇宙そのものがエネルギー循環炉のような存在だったから、宇宙の彼方ではなく虚数領域ならまあ、それほどパクリじゃないよね……とかもう、無理やりに。
どうして虚数領域の存在が生命を抹殺しようとしたかは、詳しくはちはやが語ってくれています。ほとんどこじつけですが。
それだけだとまだ殺す運命に抗えるような気がしたので。
篝を殺すために長い時間をかけて下準備をしてきた、という設定も加味しました。
Moonで篝に何度も殺される運命に耐えられるように瑚太朗の変性意識を鍛えあげる下準備として、可能性世界で何度も篝を失うという因果律を発生させ、瑚太朗の事象素子(虚数領域を走る光子で、因果律の伝達を行う)の密度を高めていた、という設定です。
そして篝を抹殺するために、生命への自己崩壊因子を埋め込むことが、本来の瑚太朗の役割にしました。
篝への崩壊因子を埋め込むのは、瑚太朗の深層領域から虚数領域への入口を繋げば、無意識伝達で可能だと判断しました。
まあ、そのために性行為をするというこじつけが成り立ったわけですが。
篝と何度も性行為して快楽を無意識で伝達すれば、もう取り返しがつかなくなります。
篝を殺す運命は、これで絶対に回避できなくなるので、これを打ち破るほどの恋愛パワーを瑚太朗が持てるかどうか。
結果的にそれは成功しました。
客観的にストーリーを見ても、瑚太朗が篝に対して強い恋愛感情を抱くことが出来たと思います。
ただ……。
篝の瑚太朗への恋愛感情。
かなり無理やりな流れに見えたと思います。
篝が一時的に一部人間となってしまったのは、瑚太朗の崩壊因子の影響です。
瑚太朗個人に恋愛感情を抱くのは、人間としての感情なので、その過程は必要でした。
ただ、人間のままだと、篝本来の役割――生命を存続させるための模索――が失われてしまうことになります。
それに気づいた瑚太朗に危機感を抱かせ、篝の本質を引き出すため、彼女の怒りを誘発する行為をしてもらうことにしました。
あの酷い扱いの性行為は、まあその、書きたかったというのもありますけど、必要なことでした。
これは当初から考えていた設定です。
瑚太朗と篝は、かなり激しい性行為をする予定でいました。
ですが、一番行き詰まったのは、最初の性行為でした。
瑚太朗にどうやってそこまで持っていかせよう……。そして篝にどう受け入れさせよう……。
これが一番の難関でした。
ここさえ突破できれば、あとはいくらでも出来ます。
それは二十四章で突破できたので、これでいいかと。あまり満足いく結果ではなかったですけど。
三十二章「変貌」のラスト。
ここで篝が瑚太朗の名前を認識します。
この篝は、崩壊因子によって一部人間化しておりますが。
実をいうと、ラストの新生篝に持っていくための布石でもありました。
つまり、篝の本質そのものが、瑚太朗への想いを抱きつつあったと……わかりにくいですが。
なぜそうなったかというと。
一番の原因は性行為による快楽の共有です。恋愛の要素で一番重要なのは、やはり性行為が欠かせないものなので。
原作Moonの瑚太朗の恋愛感情が薄いと思ったのも、そこにあります。
これは個人的見解なので、異論はあると思いますが……。
それと、篝の恋愛感情のきっかけになった、もうひとつの要因があります。
これはストーリー上で明かさなかった部分ですが。
このエッセイのみで語らせて頂きます。それを書きたかったのが目的ですので。
篝は、瑚太朗の本質に気づいていました。
彼が虚数領域から自分を殺そうとしている存在だということに、最初から気づいていたという設定です。
そして瑚太朗の行動をずっと追って、見ていくうちに。
篝を守ろうとしている瑚太朗個人の想いに気づき、それが篝に伝わりました。
精神的な部分での相思相愛です。これが肉体的な部分と重なり、篝の本質が瑚太朗への恋愛感情へとシフトしました。
この話は、瑚太朗視点で書いていますので、この隠された設定を書くことは出来ませんでした。
篝視点はとても難しくて無理でした。……書きたいとは思いましたが。
この場を借りて謝罪致します。
最終章のシーンは、いろいろな解釈ができると思います。
作者としては、いろいろ明かしたい部分もありますが。
それは読者の皆様の想像力にお任せしたいと思います。
ですが。
悲恋という形ではありますが、瑚太朗と篝の恋物語を、最後まで書くことが出来たこと。
それはとても満足しています。
こういうの、作者冥利に尽きるっていうんでしょうか。照れますね。
それでは。
長々とお付き合いいただき、ありがとうございました。