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勇者達の頂点

だいぶ遅れてしまい、申し訳ないです。


今回は主人公達も気にしなかったドートンの秘密に迫る!

「アルクがまた女を連れてやって来やがったな………」

なんかおじさんがボソボソとフィユナさんを見て呟いてたけれど、声が小さくてよく聞こえなかった。

そんなことよりも、フィユナさんがおじさんを見て驚きの表情を浮かべているのが気になる。

「な……っ、あ、貴方は……!《考色(こうしょく)》のドートン!?」

そんなに驚くべき事なのか、フィユナさんは店全体に響く声でそう叫んだ。

………こうしょく?聞き覚えがないけど、おじさんの呼び名だって事はわかる。こうしょくって何だろう?

「………こうしょくって何?」

知らない事を考えてもしょうがないし、テストでもないから気になるなら人に聞けばいい。

そう思って外の仕事を終えて店内に入ってきているユナに聞いた。だけど、ユナも知らないみたいで首を横に振る。

「知らないわよ、勇者関連なんじゃないの?」

一般の人は知らない、勇者だけが知ってる事なんだろうか。

「………ん?いかにもそうだが………、嬢ちゃん俺と何処かで会ったことあるか?こっちは見覚えないんだが」

なんか有名人みたいな応対の仕方だ。おじさんはフィユナさんに会った事がないみたいだけど、フィユナさんの方はおじさんを知っている様子だった。

「い、いえ!直接の面識はありませんが………あの!」

フィユナさん、おじさんを見て「こうしょくのなんたら」とわかってからやたらとテンションの高いなぁ。俺とユナは会話についていけてない。

おじさんとは長い付き合いにも関わらず俺たち二人は(ユナに至っては娘だ)「今まで見た事も聞いた事もないけどこの人にファンがいたのか?」と困惑していた。

「もっ、もももっ、もしよろしかったらサインと握手してもらえませんか!?」

どこから取り出したのか、色紙とサインペンをおじさんに手渡すフィユナさん。お芝居でもない限り、本当におじさんに憧れてるんだなぁって感じの笑みを浮かべていた。

「アイドルばりに人気だな、俺は」

一方のおじさんはというと、フィユナさんのテンションの高さに苦笑しつつはサインと握手に応じていた。サインもスラスラと書いていたし、こういうのに慣れているのかもしれない。

「何々?どうなってんの?」

フィユナさんの喜びように目をパチクリとさせていたユナも、漸く平常運転に戻ったらしい。

「さぁ……?おじさんがフィユナさんに握手とサインを求められてるってのはわかるけど。………やっぱりおじさんのファンなのかな」

「ね、ねぇあなた。お父さんの事知っている様だけど、お父さんってそんなに有名なの?」

大人しいのは見た目だけのユナが直接聞きに行った。横槍を入れるようで悪いんじゃないかと思ったんだけど、そんなユナの質問にフィユナさんは驚いた様子で目を見開いていた。………テンション高いなぁ。

「ゆっ、有名なんてその程度ではありません!勇者の間では最早一般常識!かの《七色》に並ぶと言われた雲の上の存在です!そのお方がまさかこの地にいるとは思ってもいませんでしたかけほっ!」

なんか初めて聞く単語だ。そしてフィユナさんが危ない。

興奮気味に語っているけど、興奮しすぎたのか咳き込んでるし。

「七色?」

特別な名前なんだろうか。雲の上の存在とか言ってるし、やっぱりおじさんは実は凄い人だったのかな………。

「何者なのよ、お父さん………?」

そんなおじさんはフィユナさんに水を一杯あげていた。フィユナさんはそれに感動して再び咳き込み、もう一度水をもらってやっと落ち着きを取り戻す。こほん、と咳払いをする。

「《七色》も知らないんですか?」

「うん」

………勇者になりたいとか言ってるのに勇者の常識も知らないのとか言われたらどうしよう。

「さっさと教えなさいよ」

斬り込み隊長ユナがズバズバ言う。上から目線だし、すごく怖いよユナ………フィユナさんに対する失礼的な意味で。

俺は勇者志望だったにしてもこの街の人間からしかその話を聞いていないし、ユナに至っては今日初めて勇者を目指す。知らなくてもしょうがないって言ったらしょうがないけど、やっぱりなんか恥ずかしい。

フィユナさんは、おじさんが何か耳打ちした後、納得したように話し始めた。

「………今や星の数よりも多いと言われている勇者の中で、その頂点に立つ七人の勇者の事です」

「勇者の頂点が、たった七人?」

そもそも勇者の世界に頂点なんて区切りがあったのが驚きだ。俺が知ってる勇者のルールなんて、『十五歳以上が勇者になれる』だけだし。

「えぇ。ご存知の通り勇者は自称しさえすれば簡単に成れてしまうものです。

ですが、世に溢れている勇者の中でも極稀に、他の勇者では持ち得ない超技能を持つ勇者が現れるのです。

その稀有な勇者は、扱える魔力量がケタ違いに多かったり、知識量で他の追随を許さなかったりと勇者に必要とされている直接的な攻撃力には関係ないものの、皆その他にはない絶対的な特異性から選ばれています。本人はアピールするつもりはなくても自然と噂が広がってしまうのが難点ですが」

「その《七色》はどれくらい昔からいたの?」

「そう呼ばれるようになったのがいつからかはわかりませんが、《七色》のメンバーはそのほぼ全員が、毎年行われている《七色》のメンバーを選出するための世界最大規模で行われるイベント、《カラーフェスティバル》によって毎年入れ変わっています」

「カラー、フェスティバル……」

「はい。ほぼ全ての勇者達が『超技能持ち』を探して候補として擁立するか、或いは我こそはと名乗り出ます。そのため、毎回7人の《色》も違いますが」

なんていうか、知らないことばかりだ。記録を取っておいて後で見返せるようにしとこう。

「そうして集められた勇者の中から最も突出した技能を持つ七人が《七色》として選ばれるのです」

その勇者の頂点にいる人達と同じくらいの能力をおじさんが持っている………ってことか。

要するに、新しく《七色》となった勇者は仕事の依頼や所属する組織の象徴としてあらゆる方向に引っ張りだこになり、一年間飽きの来ることのない暮らしを約束されるらしい。俺としてもそんな生活を是非送ってみたい………けど無理だよなぁ。

「そして、一年後に《七色》から外れたとしても、《七色》に選ばれた功績………というか特権?……によって、一生を遊んで暮らせてしまう訳です!」

「それだけ《七色》が特別な称号だってことね………」

なんか書くことがいっぱいだ。《七色》になれば遊んで暮らせる………と。

「はい。ですが、もっと静かに暮らしたいという方もいらっしゃって、そういう方はドートンさんのように勇者達の目が向かない辺境の地で余生を過ごすと聞いていますが」

フィユナさんがおじさんに目を向ける。

「まぁ、そうだな」

うんうん、と首を縦に振り肯定した。勇者については色々と教えてくれてたのに、おじさんの武勇伝ではこんな話出てこなかった。

ユナも知らないってことは、本当に誰にも話してなかったのかな。

「でも、なんでお父さんは最初にその《七色》に選ばれなかったの?技能がショボかったから?」

ちょっとユナ!おじさんのテンションがどんどん低くなってるから!心なしか周りの空気も重くなってる気がするし!

ユナのおじさんの心をえぐる質問に、フィユナさんは申し訳なさそうに、

「ドートンさんの技能はその………あまり、目立たない技能だったので発見が遅れたのです」

「超技能なのに目立たない技能なの?お父さん」

ユナがおじさんを見て、それにつられて俺とフィユナさんもおじさんの方へ顔を向けた。

「本当に大したことじゃない。だから何故選ばれたのかも未だに謎なんだよ」

と、おじさんはため息をつきながら言った。

そんな中途半端な、或いは曖昧な技能なのか?

「ドートンさんの超技能は『同時並列思考』という、複数の物事を全く同時に処理できるというものなんです」

「全く同時………」

イマイチぷわぷわして理解できない。同時に処理って、えっと………?

そんな俺を見て、おじさんはため息を吐いた。

「例えばだな、右手で魔法の式を書きながら左手で読書を全く同時にできるか?」

「こう、しながら………こう?」

おじさんが言うように右手で物を書くマネをしながら、左手に本を持ちパラパラとめくってみる。

………あ、本を見ようとすれば本に集中してしまうし、両方に気を配れば交互にやってしまう。

「普通の人間の脳は2つの物事を同時に処理することはできないらしいが、俺は魔法式を書く事と本を読むことを頭ん中で一緒にできる」

あぁ、だから料理を作りながら注文を取ることができてたんだ。普段から普通におじさんはこなしているから、アレが相当すごいことなんて気づかなかった。

「………、うー」

ユナはもう眠いみたいで、船を漕ぎそうっていうか今漕ぎ始めた。

「そういう訳で、ちゃんと見れば本当に凄い技能なのですが………」

「いかんせん事務作業か攻撃と防御にしか使ってなかったからな。有名になった期間も割と短かったし、そんな人の役に立つ技能じゃないからフィユナちゃんみたいに覚えている人がいてくれなけれりゃ忘れられるだろうよ」

少し寂しそうにおじさんは言った。確かに、凄い技能を持っててもそれを誰も知っててくれないのは寂しい感じだ。

「じゃあ俺も覚えておくよ。それくらい覚えてたって損はしないだろうから」

「………嬉しい事言ってくれるな」

「………むにゃあ」

何かをつぶやくおじさんの目には涙が浮かんでいる。その下では完全に寝落ちしたユナがカウンターに突っ伏していた。





(………チッ、最近涙脆くなってやがる。これも歳のせいかよ)

誰も自分に見向きすらもしなかった過去を思い出し、それとは違う賑やかなこの空間を見て、ドートンは感傷に浸る。まるで孫が遊んでいるのを見るような彼の目には一緒にいる時間が最も長い彼の妻ですら滅多に見ない涙が薄っすらと浮かんでいた。

(………っと、ユナを移動させないとな)

この街の夜は季節に関係なく寒い。このままではユナは風邪を引いてしまうかもしれない。

暑さや湿気などの夏の気候にはめっぽう強いユナだが、寒さや空気の乾燥などの冬の気候にはからっきしなのだ。

「起きろユナ。おーい」

「………んにぃ………」

肩を揺らすが、あまり効果はないようだった。昔から寝つきは良いのに一旦寝てしまうとなかなか起きない。そのため、ドートンもユナの母親もユナを寝かせる時は気をつけていた。

ところが親が起こしに来てもダメだというのに、アルクが起こす時だけは驚くほど早く起きる。最近はアルクがユナを起こしていたので、その心配はすっかり忘れていたのだ。

(………どうしたもんか。かといってここで寝るとユナは毛布を被ってても風邪をひくからなぁ)

思春期か反抗期か、前にドートンがユナを運んだ時はボッコボコにされたのだ。アルクは今怪我をしているし、ドートンが運んだことはすぐにバレる。

(………お、名案)

何かを思いついた顔をして、ユナに顔を近づけるドートン。

「アルクとフィユナちゃんの距離が近くなってるぞ。このままだと………」

「どこよっ⁉︎あのバカは!」

本当に寝ていたのか疑いたくなるほど迅速な返答に、ドートンも思わず笑みがこぼれた。

(本当に、アルクのことになったらお前は………)

「アルクならあそこだ。それよりお前、こんな所で寝ないで寝るんだったら自分の部屋で寝ろ」

「………わかったわよ」

ドートンに促されて二階に上がろうとするが、その途中でアルクとフィユナの会話がユナの目に入った。

「この術式はですね———」

「それは最近開発された———」

「いえ、それは———」

アルクが次々と質問し、フィユナが答える。こちらには目もくれないアルクに、そこまで集中できることユナも感心した———というよりは呆れていた。どうしてそんなに夢中になれるのよ、と。

「………寝ないのか?」

「眼が覚めた………」

そう言ってユナはアルク達から離れた位置にあるカウンターに座る。

ドートンはコップにユナお気に入りのミルクを注ぎ、ユナの前に置いた。

「お前、アルクをあの子に取られて膨れてんのか?」

現在時刻は午後十時三〇分。ドートンの酒場は子供も多くやって来るため、営業時間を夜の七時までとしている。

今は営業時間外の為に他に客はおらず、アルクやドートン達だけだ。

ユナも居眠りしだす前に食器も洗って片付けたし、テーブルも拭いた。暇ではあるものの、あの二人の会話に入っていける気がしない。

だからユナは今、カウンターの端から未だに楽しそうにお喋りしているアルクとフィユナをチラチラと見ているだけだ。ドートンの言うあの子とはフィユナに他ならないが、確かにこの様子ではいつも一緒にいるアルクをフィユナに取られたようなものだ。

「べつに、私のじゃないし………」

ドートンが運んできたホットミルクをちびちびと飲み、目をアルク達から背ける。

(べつに、アルクにそんな感情あるわけないってわかってるし………)

心の中で、そんな言葉を付け足す。

わかっていても、気になることは気になる。自分にそんな風に話しかけてきたことはないし、アルクと《パートナー》になった今だってアルクがあんなにも勇者に憧れる理由がわからない。幼い頃から兄妹のように育ってきたのに、アルクの心をちっとも理解できない。

「………アルクが」

ぽつりと呟く。

「ん?」

「アルクが勇者をまだ目指しているのは意地だから、アルクをバカにした奴らに気持ちで負けたくないからだって、言ってた」

「おう、言ってたな」

「………でも、あの顔」

手が届かない、何処か遠くにあるようなものを見る目でフィユナと楽しそうに話すアルクを見る。つられて、ドートンもアルクを見た。

「あの顔、あんな楽しそうな顔は意地とか負けたくないだけで出来るものじゃない。………なんで、どうしてあんなに楽しそうに出来るのかがわからないの。私とアルクは《パートナー》だから、そういう気持ちもわかってあげないといけないのに」

「それは違うぞユナ」

ハッ、と顔を上げるユナ。ユナを見つめるドートンは真剣な眼差しをしていた。

「《パートナー》だから全部わかり合ってなくちゃいけないなんて、そんなことはない。いくら好きでも、《パートナー》でも、アルクはアルクだ。お前じゃない。それに、アルクだってお前の気持ちはわからないだろ?わかってたらもっと違った反応をするはずだ。それに、相手の気持ちがわからなくても、自分の気持ちをしっかり持っていればいつかちゃんとアルクの事もわかってくるだろうよ」

「……ふん。………なら、いいか」

いやよくない。何アルクに触ってんだあの女。アルクも嬉しそうにしちゃって。私が一番アルクと一緒にいるというのに。

「………………くっ」

アルクと一緒にいることに躊躇いは無くなったものの、フィユナがアルクに惚れてしまわないかという新たな問題に頭を悩ませるユナだった。

楽しんでいただければ幸いです。感想お待ちしています!

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