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旅の勇者

第四話です。時間がかかってしまいました、すいません!

「アルク君、わざわざありがとねー!」

杏パイのおばさんがこちらに手を振っている。

ユナに頼まれたお礼を渡して出てきたところだ。

おばさんとは幼い頃からの付き合いのはずだけど、見た目が一切変化しない。逆に幼く………いや、若くなっているのは気のせいかな。

何せこの杏パイのおばさん。身長が百二十センチ前後の、見た目が六歳に届くか届かないかの幼女なのだ。

年齢は自分で「これでも三十四歳なのようふふ」と公言していたし、確かおじさんとお酒を飲んでいるのも見たことがある。

………でも、家族の人は普通に見た目も変わってるんだよなぁ

おばさんの妹やお兄さんは年相応に風格も表れている。年下キャラを狙うも上手くいかない身長一八〇センチの妹さんや、仕事がデキる男の人のお兄さん(一九〇センチ)。三人並ぶと見事に真ん中が凹む。あの人だけ何か突然変異なものが起きたに違いない。

そう結論付け、街の散歩を続ける。すると、たまたま通りかかった西門近くの飯屋に人だかりが出来ていた。

どうせ暇だから行ってみるか。

人だかりの端まで行ってみると、どうやら客と店主が食事の代金について論戦を繰り広げているらしい。中から勇ましい男性の声と少女であろう声が聞こえてくる。

「だから、お代はいらねぇって言ってんだろ嬢ちゃん。その《ウィル》はここじゃ使えないから、貰っても意味ないし、生憎働き手は充分過ぎるくらいだからな」

少し覗いて見ると、スポーツ刈りがよく似合う褐色の肌を持ち、長靴に防水エプロンを装着しているまさに漁師といった格好の、俺もよく利用している海鮮食堂の店主が困ったように客に語りかけている。

「そうだとしても、それでは私の気が済みません!代金は死んでも支払ってみせます!」

聞いての通り律儀を通り越して頑固な発言をしている客の方はというと、綺麗な金髪を後ろで三つ編みで纏めていて、最早ドレスにしか見えないような鎧を纏っている。俺と同い年かそれより下くらいかな。そんな容姿で碧眼の少女が、聞こえた通りに言い争っている。その側には散歩杖のようなものを立てかけていた。病弱って風にも見えないし、もしかして足が悪いのかな?

「このままじゃ埒があかないし、ツケっていうのも性分じゃねえしな、どうするか………ん?おぉ、アルクじゃねえか」

すぐに見つかった。俺からは客と店主しか見えないからわかりやすいけど、こうも野次馬がいる場所で、背が高い訳でも目立つ特徴を持っている訳でもない俺を見つけるなんてどういう視力してるんだこの人。

「う………どうも」

発見された以上は野次馬の中に混じっている訳にもいかないので、コソコソとなるべく注目されないように出て行く。といっても背後は野次馬で前は店長と客。俺にステルス魔法なんて使えるはずがなかったんだ。

「何でこんなとこにいやがんだ?お前はずいぶん前に………。あぁいや、何でもない」

俺がここにいる理由を聞こうとしたんだろうけど、吊っている右腕を見て顔をしかめ、言葉を濁した。詳しく言及してくれなくて助かります。

客と店主を交互に見て、大体の予想はついたけど変な事を言ってヒンシュクを買うのはマズイ。ここは必殺技その二、「ナニガアッタンデスカ」を使おう。

「はは……。それより、何があったんです?」

この店主はかなり人柄が良く、代金を取らずに飯を食べさせてくれることもある。俺もかなりお世話になっていて、実際飯もうまいのだから感謝の言葉しかない。そんな慈愛の塊の様な店主の提案を断る客も律儀ではあるけれど。

「まぁ、な。この嬢ちゃん、他所から来たらしくて《ウィル》しか持っていないんだ。この街の通貨は《タウ》だろ?こっちに来るのも初めてみたいだし、知らなくて当然だからお代はいらないって言ってるんだが」

なるほど、知らない人だしこんな格好の人初めて見る………と思ったら、街の外から来た人だったんだ。その《ウィル》の事も俺は全然知らないけど。

「いくら知らなかったとはいえ、これは私の失態です!それなのにこんなご厚意まで頂いてしまっては、本当に申し訳なくて………」

確かに、料理を注文する前の席に着いただけの段階ならまだ「お金無いから」って理由で店を出れば良いけど、ご飯まで食べちゃった後だからそうすると何だか図々しく感じてしまう。

俺だったらそんなこと言われたらもうすぐに甘えてしまうのが目に見えてるけどね。

とはいえ、これを解決しないとどうにもならないらしい。

俺が呼ばれたのは挨拶ってのもあるだろうし、この場をなんとかしてほしいってのもあるだろうし。これ俺が解決しなきゃいけないのか?……女の子さんもそんなすがる様な目でこっちを見ないで下さい………。

あ、そういえばこの客の女の子。格好を見てもただの旅人には見えないし、あの杖が武器だとしたら、勇者の可能性もある。全然違う可能性もあるけど。

もし勇者なら、話を色々と聞いてみたい。ちょっと確認してみるか。

「ちょっといい?その……女の子さん」

年齢は見た目からして俺と同年代とはいえ、年下かもしれないし杏パイのおばさんの様な突然変異かもしれないので、呼ぶ時に「さん」を付けた。

「おっ、おん……!?私の名前はフィユナです!姓は訳あって言えませんが………」

フィユナさん、か。女の子さん呼ばわりが気に食わなかった………ってことは、年上かな。

「あの、フィユナさんって勇者………だよね?」

間違ってたら「はぁ?何言ってんだこいつ」みたいに思われるだろう。

そんなことにはなりたくないけど、それを確かめる術はないから神に祈るしかない。読心の魔法なんて使えないし、それ以前に魔成器の魔力生成量が少なすぎてまともな魔法すら使えないけど。

「はい、確かにアルクさんの言う通り私は勇者ですが、それが何か?」

「ここは支払っておくよ。だからその代わり、君が持ってる勇者についての情報がほしい」

と、既に代金を店主に手渡しつつ、フィユナさんに言う。

「えっ?その程度でいいんですか?………というか、見ず知らずの私をアルクさんが助ける理由なんて………」

確かに助ける義理も無いけど、俺がこれからしようとしてるのは取り引きだから問題ない。

「それだけでも十分なんだけどね。『情報とは、思ったよりも価値がある』って知り合いの人が言ってたんだ。俺もそう思うし」

「思ったりよりも価値がある………ですか」

「そうだよ。これは取り引きだから、それなら問題ないでしょ?」

「それでも私のメリットの方が大きいですけど、それなら………」

これでもまだ抵抗があるらしいけど、取り敢えず応じてくれたので良し。後は場所を変えないと。流石にこれ以上は店主さんにも迷惑がかかってしまう。

「よし、これで交渉成立。それじゃ場所を変えよっか。子供も立ち寄る酒場があるからそこで話を聞かせてよ。昼間は大体静かだし」

「子供も………?別に私はどこでも構わないですけど、その場所が都合が良いならそこで話しましょうか」

「荷物は?沢山あるなら持とうか?」

「たいした量ではありませんし、そもそもけが人に荷物を持たせることはできません」

「あはは……そうだったよ」

ついつい自分がケガ人だということを忘れてしまっていた。こういうところもダメだなー、「自分がどういう状態、状況にあるかもしっかり把握しておくこと」っておじさんにも言われてしまったし。まぁとにかく、これで話を聞くことができる。おじさん以外の勇者にも聞いておきたかったし。そういう意味じゃこの飯屋に寄ったのはある意味幸運だったかもしれないね。





「先程はありがとうございました、見ず知らずの私を助けていただいて………」

「気にしないでいいよ。勇者の事についてこれから色々と聞かせてもらうんだからさ」

場所は変わって夕方の街の中心部。フィユナさんはしばらく街に滞在するらしくて、話を聞くためにさっき言ったおじさんの酒場まで来てもらうことにした。あの酒場の近くなら安くてしっかりした宿泊施設も沢山あるし、暫く滞在するつもりなら宿だって必要だろうし。

「あの、お話をする場所は酒場………と聞きましたけれど、店主の方が気になされたりするんじゃ………」

フィユナさんが心配そうに聞いてくるけど、この前の二人みたいに変に騒いだりしなければ基本おじさんは起こらないから大丈夫………ということを教えないと。

「これから向かう酒場なんだけど、そこの店主の人は男の人で、怒ればすごく怖い。けどちゃんとしてれば優しい。金髪にカチューシャってわかりやすい特徴があるから見ればすぐわかるかも。後は………他の人の迷惑になるような騒ぎ方をしなければ騒がしくしても大丈夫な店だから安心してね」

俺が出来うる限りドスピニティは安全だという事を伝えたつもりだけど、フィユナさんは別の事について考えてたようで、

「金髪にカチューシャ………で、男の方?その姿を何処かで聞いたことがあるような……」と言っていた。実際おじさんは物凄く強いので、おじさんが現役だった頃は(おじさん自身が言っていたことだけど)かなり有名だったらしく、それで知っているのかもしれない。まぁただの偶然かもしれないけど。同じ顔の人はこの世に三人はいると言われているし、同じ格好の人が六人いても不思議じゃない。

「………そういえば」

周囲をきょろきょろと見回していたフィユナさんが、何かに気づき話しかけてきた。

「この街、青年の人が少ないんですね。子供やお年寄りの方は見かけますけど、その中間の年代の方々はあまり見かけませんし」

フィユナさんにつられて見ると、子供やお年寄りしかあまり見かけない風景が目に映る。この街にずっと住んでたからそういうのはあまり気にしたことがなかったかも。この街の子供達がなりたい職業第一位は勇者だっていう子供達がかなり多くて、俺もその一人だったし。

「それは、この街の人間のほとんどが勇者に憧れてるからじゃないかな。勇者を名乗っても良い年齢は十五歳からだし、老人はみんな元勇者かこの街に元々住み続けてきた人だからね」

「………だから、年齢層にぽっかりと空白ができているのですね」

「うん。三〇歳くらいの年齢でこの街にいるのはあの飯屋の店主くらいじゃないかな」

あと杏パイのおばさん、と心の中で付け足す。あの人は会う度に幼くなってる気がするから本当はもっと年上なのかもしれないけど。

「あなたは?子供には見えませんし、かといって成人にも見えませんが」

「十五歳だよ。ついでに言うと、この前の春の日に勇者になる筈だった」

おじさんから聞いた話だけど、春の日と夏の日と秋の日と冬の日があって、それぞれの日までに誕生日を迎えた子供達がそれぞれの日に旅立つのだとか。

「『だった』?………、その怪我に原因が?」

俺の、未だにガチガチに固定された右腕を見ながら言うフィユナさん。そんなに興味深げに見られると恥ずかしいんだけど。誇るようなものでも見世物でもないし。

「まぁ、ね。この街の東門から出たらすぐの所にモンスターが生息してる丘があるんだけど、そこでボロボロにされちゃって」

「……?余程強いモンスターが他所からやってきていたとか?」

………まぁ、そうだよね。至って普通の場所でボロボロにされたって聞いたらそう思うよね。

「……いや、俺って昔から喧嘩とか物凄く弱くて、『それでも勇者になってやるんだ』って装備とかも整えていざ出発したら、子供でも勝てるって言われてるモンスターにボロボロにされちゃって。それでこの有様だよ」

「……それは気の毒に」

目を伏せて同情するフィユナさんだけど、そんなのはどうでも良かった。本物の勇者から話を聞ける、これ以上ワクワクすることなんて今まであったかな。

「それよりも、君から聞かせてもらう話を楽しみにしてるから」

「あ……ええ、わかりました。答えられるものはできるだけ詳細をお教えします」

「よろしく。それで、君はいつ勇者に?」

「貴方と同じ、春の日ですよ」

「………え?……それじゃ俺と同い年?」

「そういえばそうですね」

改めてフィユナさんの装備を見る。首や胸、腰、籠手に使われている《マテリアル》はありえないほどの魔力で溢れている。おそらく迷宮の魔法を使う事に特化したボスから入手できる素材だろう。羨ましい………。

「でも、その装備の素材何処かの迷宮のだよね?もしかして誰かから譲り受けたとか………?」

フィユナさんはそんな訳ないと言わんばかりに首を振る。じゃあやっぱり………?

「これは、正真正銘私が迷宮に探索に出かけてボスの頭を引きちぎり、手に入れた《マテリアル》と偶然手に入れた《崩石(ほうせき)》を合成して造ったモノです。もちろんこの杖も」

ふふん、と胸を張るフィユナさん。ちなみに、《崩石》とは文字通り何かが崩れてできた石で、その何かは巨大モンスターの骨や岩盤が何かの原因で崩れた結果、その中に含まれている希少な石が出てくることがあり、それを《崩石》という。………頭を引きちぎったというのは聞かなかったことにした。

「ということは、君は十五歳になる前から冒険に出ていたの?」

「………えぇ、そうです。冒険を始めたのが十歳の時で、勇者と名乗るのは春の日からですが」

フィユナさんが落ち込んでいるように見えるけど、それよりも冒険を始めたのが十歳の時だということに驚きを隠せなかった。

「じゅ、十歳………!?」

俺が十歳の時は近所の子供達と喧嘩ばかりしていなぁ。そんなに早く冒険に出ていたからこそ、強そうな装備をつけてる訳だ。俺が同じ頃に冒険に出たとしても春の日みたいになって下手をしたら死んでただろうし。

「身寄りもなく、自分で稼ぐしかなかったんです。その点、勇者と名乗りさえしなければこの仕事はやっていけるので便利でしたが」

フィユナさんの調子も戻ったみたいで、勇者になった経緯を教えてくれた。

「あ、ついた。ここだよ。例の酒場」

「ドス、ピニティ………」

そうこうしているうちに、ドスピニティへと到着する。店の前では、ユナが牛乳のタンクを軽々と運んでいた。ユナの体重より遥かに重いはずなのに。

「アルク!おか……えり………?」

ユナが俺に気づき、笑顔を見せるけれど、隣にいるフィユナさんに気づいたユナの表情が固まる。

「うん、ただいま」

知らない人だからか、友達を作るのが嫌いなのか。

ユナも友達が少ない。というか、俺以外と話してるのを見た事がない。俺があの子を連れてきた時もあの子に対して拒絶するような態度を取っていたし、俺には友達が少ないからユナには友達をもっと作って欲しいと思う。

「………何、その後ろにいる女の子」

うっすらと見開かれている瞳が怖い。謎の威圧感にたじろいでしまう俺とフィユナさん。力関係においては既におじさんを凌ぎつつあるし俺も今は骨折中なので、必然的に対話による交渉しかユナと和解する手段はない。

「えっ……と、西門の近くの『漁師屋』で会って、この子は勇者らしくて、成り行きで話を聞く事になって、それだったらここの酒場がいいかな、って………」

ギン!ギン!ギン!と強くなっていくユナの威圧に声もしりすぼみになってしまう。

怖すぎでしょ俺の幼馴染ぃ………。

「………また、女の子を引っ掛けて……!あの子もいつ戻ってくるかわからないってのに………!」

メラメラと髪を逆だたせるユナが何か言ったみたいだけどよく聞き取れなかった。

「?何か言った?」

「いーえっ!話すなら中の方がいいでしょうからどうぞ!」

持ってた牛乳のタンクを隣にドスンと置いて、「私怒ってます」と言わんばかりにぷりぷりしている。

「………何で怒ってんの?」

「怒ってません!」

一応聞いてみたけれど、やっぱり怒ってる。しかもこの反応からして、拗ねたような怒り方だ。本当に怒ってる時は言葉よりも先に拳が出るから間違いない。

「ならいいんだけど。それじゃあ、こっち」

あからさまに怒ってはいるのだけれど、本人が怒ってないと言うのだし、危険な方の怒り方じゃないしまぁいいかと思いフィユナさんを先に通してから俺も中に入る。こういうマナー?はユナが教えてくれた。

教えてくれたのはいいけど、他の人にそれをやるのをあまりユナが良しとしない。中ではおじさんが酒を並べていた。

「帰ってきたか、アル………」

見た目の違いはあれどやはり親子なのか、ユナと同じように固まるおじさん。

「西門の近くで知り合ったんだけど、おじさん以外の勇者の人に話を聞いてみたかったから連れてきた」

聞いてるのか定かではないけど、連れてきた経緯も説明しないと後でユナが怖い。

その話題の中心人物であるフィユナさんを紹介しようと、フィユナさんの方に顔を向けると、おじさんを見て驚愕の表情を浮かべていた。

フィユナさんは全体的に薄緑色の装備を纏って、イメージ的にはシスターさんに近いかもです。

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