強制入学!?
「久しぶりだな。Mr.大宮。」
俺は、現在取り調べ中。取り調べと聞くと、厳格な男刑事が机をバンバン叩いたり、かつ丼を食べさせるイメージがあるだろう。
だが、実際には、酷いもんだ。殆ど拷問に近い。
飯を食わされなかったり、トイレに行かせなかったりなども行われている。一番辛いのが、わいせつ行為を働いた時に取り調べる人物が女性な事だ。これ以上の屈辱はないともいえよう。
ま、これに懲りて再犯率はかなり低くなるだろう。
俺が、ここに来るのは8回目だ。ここの警官とは顔見知りが多い。
「はぁ、相変わらずですね。レイン=ブラット。」
全国の警察官の憧れでもある、女性で初めて特務警察署長まで上り詰めた女性。大宮春。
柔道五段。空手二段。弓道四段。県道七段。
新東京大学ハンター部卒業の超エリートだ。
元ハンターでランクはSだったそうだ。
「何ニヤニヤしてるんですか?普通なら貴方は処刑されてもおかしくはないんですから。」
彼女は美人ではあるが、性格がちょっとアレなので彼氏いない歴=年齢だ。
と言っても、俺とあまり年齢は変わらないが。
「それで、今度は何の用だ?」
「それがですね……」
彼女は沢山の書類を取り出した。そこに書かれているのは俺に関する資料だ。生い立ちから今現在までの出来事がみっしりと書かれている。
たが、ある期間を除いては……
「資料の限り、国連は貴方を即刻処刑せよとの連絡が入っています。」
国連にも目をつけられるのは程の有名人になっていたとは驚きだ。
前回は武器没収な上に、財産を8割持って行かれたからまだいい方だった。
世界はやはり俺を認めないのか。ま、俺みたいな存在がこの世界にいるのは罪だかな。
処刑の方法は出来れば安楽死がいい。男らしく、切腹するべきか。いや、痛いのはやだしな。
でも、やはり死ぬのはやだ。ここは、脱獄をするべきだと思った。
たが、彼女からは意外な答えが返ってきた。
「ですが、A国の一部のギルドが貴方を利用すべきとの声明が上がってます。」
「A国の一部の党ってのは米帝国の愛国ギルドの事か?」
捕食者の研究及び、防衛力においては世界一位の大国だ。
最近で言うと、北アメリカの殆どを併合させたと聞いている。
捕食者により、多くの国が消えてしまった。南アメリカはキューバとブラジルが統一。
アジアは中国とロシアがモンゴルの領有権をめぐって対立。
中東はサウジアラビアが統一。
ヨーロッパは国名はそのまんまだが、ドイツ、フランス、イギリスが統一している。
日本は憲法により、侵略戦争と判断され、そのまんまである。今は、新日本憲法により、領土問題となっていた、北方領土や竹島、尖閣諸島を国有化。
ミサイル問題で有名だった、北朝鮮は韓国が統一。しかし、北朝鮮の残党との内戦が絶えない。
アフリカに関しては、それぞれの国が我先にと領土を編入させ、第三次世界大戦になるんじゃないかと噂されたほどだ。
たが、アフリカは捕食者たちにより、汚染されてしまい、人間が住める環境ではなくなってしまった。
「愛国ギルドは政治関係において、権力があります。貴方が、今まで処刑を免れていたのはその為です。」
そういう事だったのか。これまでの成り行きを考えてみると説明がつく。奴らは俺の秘密を知っていた上なのだろうか。それとも、ただ単に、有名な無免許ハンターだからだろうか。
特に、俺についの秘密はては国連には知られたくはない。
「愛国ギルドはなんと言ってるだ?」
率直な質問だ。利用するべきとは聞いたが、何に利用するのだろうか。
人体実験か。それとも、強制入団か。
「貴方を引き渡せと……我らは君を歓迎すると言っています。」
どうやら、入団の誘いのようだった。あそこは給料もいいし、ハンターを目指す少年少女達にとっては夢のギルドだ。野球選手でいう、メジャーようなものだ。
職員全員がハンターランクA以上のエリート揃いだ。
ちなみに、ハンターランクSは国の全主力部隊に匹敵する。いわば、国の最終兵器。
たが、愛国ギルドは一人一人が国にとっては貴重な戦力な為、散歩するのにも許可が必要だ。
自由を奪われるのは嫌だ。
「ですが、日本ギルド教会としては貴方をA国に渡すには惜しいと考えています。」
米帝国と日本は今でも仲がいい。だが、愛国ギルドと日本ギルド教会とは険悪だ。
ちなみに、日本は三菱ギルド、三井住友ギルド、東京ギルド、大阪ギルド、名古屋ギルド、この五つのギルドが日本ギルド教会と呼ばれている。
特に俺には関係はないが。代表的なのはこれだろう。
「それで、日本ギルド教会は愛国ギルドに取られる前に、殺せと?」
どこかのゲームでありそうな展開だ。厄介な人材はすぐに消される。それが、今の世界情勢だ。
「そうですね。それに近いと言っていいでしょう。」
彼女は一枚のビラを取り出し、俺に投げつけた。
それを俺は、左手でキャッチした。一般人なら取るがで来ないスピードだった。もし、顔に当たったらゲガをするだろう。目にでも入ったら失明は免れないだろう。
俺は、受け取ったビラを見る。
「学園都市?」
学園都市。10年前に出来た、太平洋に浮かぶ人工都市。人工の7割が学生。3割がハンター関係の職員だと聞く。
いわば、ハンター育成専門の学校が集う都市だ。ここには、全世界のギルドがハンター育成の為に、作らせた都市だと聞く。公用語は何故だか、日本語。
普通、英語だと思うが、学園都市に一番投資したのが日本だからとか、発案者が日本人だからとか詳しくはよくわからない。日本ギルド教会の方が、自国の給料が高いからかもしれない。世界にでも、トップレベルだとか。ハンターの法律に関しては、一番緩いからかもしれない。
それが、俺になんの関係があるというのか。
「貴方は処刑された事にし、この学園に通うよう、政府から言われています。」
「この学園て言うと……」
学園都市には、大きく分けて、8つの学園がある。それぞれが超エリート校だと聞く。
そのうちのどれに通うのだろうか?
「貴方には、桜蘭学園に編入するのが妥当だと政府は言っています。」
桜蘭学園の言えば、学園都市で一番格下の学園じゃなかっただろうか。毎年行われる、海王祭で唯一、優勝した事がない。
そんなところに俺を行かせようとしてるのか、日本政府は。
「桜蘭学園は、日本ギルド教会に深く関わってますから……その点に関しては察してください。」
なるほど。もし、他の学園に編入されて、目をつけられるより、日本支部が深く関わってるところのほうが安全とのことか。
俺としても、その方が安全かもしれない。
まだ、行くとは確定してはないが。
「ま、行くのは個人意見を尊重しますが……」
ここは、正直に行きたくないというべきだろう。
だが、今の彼女の言葉には引っ掛けがある。
個人の意見を尊重。貴方の考えを聞きますよとは言ってるが、行くか行かないとは聞いていないのだ。この場合は、強制的に編入だろう。
逃げると言う選択肢もある。
たが、大宮春の目の前では、さすがの俺でも妙な事は出来ない。逃げられたとしても、腕を一本失う覚悟を決めなければならない。腕を失う事は、俺の職業上に置いて、引退する事と一緒だ。
どうせ、自由になったとしても俺のやる事は変わらない。俺には、これしかないからだ。
だが、少し考えると……
「ハンターの資格が取れる訳か。」
ハンター業はギルドに入らなくてはならない法律なんてない。ギルドに入った方が、依頼がたくさんくるわけだが。
フリーのハンター。いい響きじゃないか。もう、公安にも嗅ぎつかれることもない。
職務されても、資格があれば問題はない。基本的に、フリーのハンターは税金が殆ど取られない。ギルドに入ってない分、自己負担額が大きいし、依頼料がバカに高いからだ。それ故、依頼が少ない。
その点に関しては、俺には太いパイプがあるからそこら辺のハンターより稼げるはずだ。
「いいだろう。その話乗ったぜ。」
「ふふ、やはりそういうと思ってました。」
そういうと、彼女は履歴書を渡す。履歴書には名前以外の項目は殆ど埋まっている。大宮め、こうなると最初からわかってたようだ。
レイン=ブラットは今日をもって死んだ。新しい名前を考えなくては。
日本ぽい名前がいいだろうか。レイン=ブラットは俺の職業上出来たあだ名だ。本名は俺もわからない。なんせ、捨て子だったからだ。
わかる事は、自分が日本人な事ぐらいだ。髪の毛も日本人特有の黒髪だ。たけど、目がシンメトリーなのが気になるところだ。昔は、両目とも一色だったが、とある出来事により、シンメトリーになってしまった。
それより、今は名前だ。何にしようか。日本で一番多い苗字は佐藤。佐藤は少し微妙かな。全国の佐藤さんには悪いが……
佐藤ってカタカナで書くとサトウ、場合によってはサトゥーて呼ばれて結構いいかもしれない。でも、砂糖ってからかわれそうだ。
剛力……強そうだけど、なんか言われそうだ。
何かあたりに、ヒントになる物がないかなと探していると、あるものを見つけた。
それは、龍の置物。
龍の荒々しいその姿は、まさに力の象徴だ。鯉が滝を登ったらあんな感じになるのか。龍のように大空を飛び、気高く生きるのもいいかもしれない。苗字に龍がつくものがいいかもしれない。
龍王……いや、やめておこう。龍山。流産を連想させるからやめよう。
そんななか、出てきたのが、龍ヶ崎だった。
名前は、レイン=ブラットからレ、ン、トを取り出し、レント。蓮斗にしてみた。
龍ヶ崎蓮斗。いい感じじゃないか。かっこいいし、日本ぽいし。
俺は、履歴書に龍ヶ崎蓮斗と名前を書く。漢字の行数が多いのが少し面倒くさかった。
そして、それを大宮に渡す。
「龍ヶ崎蓮斗ですか……貴方にしては、いい出来だと思います。」
少し、俺を舐めてないだろうか?俺だって、高校には通ってないが、中学を卒業するレベルの問題は解ける。
英語と数学に関しては、壊滅的だが……数学ってなんであんな変なの習うんだろうか?面積はともかく、因数分解とかいつ使うんだ!
?
英語もそうだ。現在進行形?過去完了?過去進行形?知らんわ。誰だよ、こんなに難しくしたの。英語って古典なのか!?
古典もそうだ!昔の日本語なんて習ってどうする!?今時使うか!?「〜けるを。」言うか!
ま、その辺のことは置いといて……
「では、ここにハンコをお願いします。」
「拇印でいいか?」
「それでも構いません。」
俺は、ハンコを持っていない。契約はいつも、サインが殆どだった。無論、偽名だが。
日本は、ハンコが支流だろう。ハンコは偽造が効かないのが面倒くさい。
でも、これからは必要になるかもしれない。こんど、頼んでみようか。龍ヶ崎って掘るの大変そうだから、物凄く値段が張りそうだ。
俺は、ナイフを取り出し、刃先で親指を切る。朱肉でもいいのだが、血でやる方がかっこいいと思ったからだ。これくらいなら、バンソコを張って消毒すればすぐ治るだろう。
おれは、履歴書に拇印を押した。ちょっと血が出すぎて濃かったが、ちゃんと指紋が残っているから問題ないだろう。
拇印を押し終わると、彼女は第一声に……
「はい。では、今直ぐ羽田空港に向かってください。」
とつぜん無茶苦茶な要求をしてきた。今直ぐ羽田?おれはイモトア○コか!?
「学園都市は、月に一回しか便がないんです。あそこは、警備がとても厳しい国ですから。」
そういうと、彼女はパスポートと、何かの手紙を俺に渡した。
パスポートは俺が、捕まった時の写真を利用したらしい。名前も、龍ヶ崎蓮斗と書いてある。どうやら、彼女は、あの一瞬で名前を入力させたらしい。
手紙に関しては、人国審査の時に、警備員に見せるといいらしい。一体何が入ってるやら。
「チケットは、パスポートの一番裏にはさんでありますので、絶対に無くさないように。」
そういうと、確かに、チケットが入ってあった。
えっと、出発時刻が13時50分。今の時刻は……
「あと、15分しかねぇー!!」
タクシーなんて捕まえている暇なんてない。ここから空港までは、10キロぐらいだろうか。
それに関しては、大宮から、白バイを貸してくれるとのこと。
バイクの免許は持ってないが、白バイに乗っているなら、バレることはないか。
こう見えて、バイクの技量に関しては、そこらの白バイ警官よりも自信がある。
俺は、大宮から白バイの鍵をもらい、倉庫へと向かう。
倉庫には、1台だけ白バイが置かれていた。他にも白バイ専用の駐車場があったが、1つもない。どうやら、この時間帯はパトロールのようだ。
白バイのエンジンをかけ、空港へと急いでいく。
残り、10分。間に合ってくれ!