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2 対面

「うわぁぁぁぁぁぁ!! なんで? は? 夢? 夢だよね? 夢? なんでさっきと登場人物変わってないんだ? どういうこと?」


 自分の置かれている状況が全く把握できていない少年だった。

 少年は慌てて跳ね除けた布団をもう一度引き寄せて中に潜った。高速で羊の数を数えようとしたが、集中することができない。と、いうのも、その直後布団を思いっきり引っぺがされたからだ。

 身を守れそうなものは周りにはない。

 いるのはやっぱり、おじいさんおばあさんばかり。しかもラスボス感ありそうな黒装束の人がじっと自分を見てる。あなたのその格好なんですか? アラブ系の人ですか? 目元残してマントみたいので全身覆われてて威圧感半端ないんですけど。少年はシーツを剥ぎ取って被りたい気分になっていた。


「□×△〇※△□?」


 〝雪かきさん〟が少年に向かって話しかけている。しかし少年は首を傾げた。口元がもにょもにょ動いているけど、なんて言っているのだろう? 口元に布があるから?


「あ、あの聞こえないんですけど」

 

 素直に思っていることを言うと相手は目を見開いた。うっ。怖い。一重の人が無理矢理大きく開かせようとしているから、異様で怖い。ラスボスっていう風格ありすぎなんですけど。なので心の中でラスボスさんって呼ばせてください。お願いです。ラスボスさん、普通にしてください、普通の目つきでお願いしますと心の中で少年は何度も願った。


「どこから来たのか? と聞いておられるんじゃよ」


 今度は白と黒のゼブラ柄に髭を染めたエメエールが答えた。

 もそもそ言っていたのによく聞こえたな。エメエールさんって見た目がおじいさんなだけで、実年齢は若いとか? 妙な考えに少年は至っていた。


「日本です。日本知ってますよね? 知ってますよね?」


 必死に答えた。そうだよ、と認めてもらいたくて。でも半分認められたくないような気もしながら。知ってる、と言われたらこの状況が夢ではない、という可能性がぐんと広がりそうで。少年は答えを待つ数秒、期待と不安が入り混じり、思わず握り拳を作っていた。


「……知っている」


「え? なんです?」


 よく聞き取れない。低めの声がしているのだけど、わからない。首を傾げてラスボスさんを見ると、その人は今度、眉をぎゅぎゅっと寄せている。おかしいこと言ったんだろうか? 不安げに少年は〝雪かきさん〟を見上げた。


「私の言っていることがわからないのか?」


 布が上下して低い呪文みたいなのが聞こえた。口を動かしているようだけど、やっぱりわからない。困った表情で、


「あの、言っていることがわからないんです」

 

 と、正直に少年は伝えると、〝雪かきさん〟は驚いたのか再び目を開いて丸くさせた。


「お前さん、雪かきさんの言ってる言葉がわからんのか?」


「え、あ、あの、だって布が……、口元にあって良く聞こえないだけですよね?」


 エメエールは顎先を片手に乗せ、もう片方の手で髭を撫でつけながら胡坐あぐらを組み直した。


「……。ちぃとお前さん、雪かきをしてみんさいな」


「は?」


 あれよあれよと立たされ、エスキモーみたいな上着を着せられ少年は外に連れ出された。


「そんじゃよろしく」


 エメエールたちは玄関より外には出ず、少年と〝雪かきさん〟を見守るように佇んでいる。


「あ、あの、雪かきってスコップでやればいいんですよね?」


「違う」


 肯定されたと思い、少年は先を続けた。


「スコップってどこですかね?」


 その言葉を聞くと〝雪かきさん〟はがっくり肩を落として、少年を物寂しげに見つめた。


「……町長、スッコプが必要だそうです」


 今度ははっきりと声が聞こえたけれど、なんて話しているのかわからない。玄関口で様子を見ていたエメエールが、雪かきの時によく見る柄が長くてスコップ部分が横に幅広い雪かき用のスコップを持って出てきた。


「お前さん変わってるのぉ」


 そう呟いて少年に渡した。なにが変わっているんだろう? 雪かきって大体こういうスコップでしますよね? なにが変わっているのか理解できないまま少年は受け取った。少年のリクエストに応えたエメエールが玄関先に戻ると、集まっていた人たちがエメエールを取り囲んでザワザワと騒がしくなった。

 

「お前、本当にこの世界の人間じゃないのか?」


 〝雪かきさん〟は疑問をぶつけるも、少年はただただ首を傾げた。


「え? え? なんです?」


 寂しそうな視線かも、と少年は思った。その瞬間〝雪かきさん〟は右手をゆっくりあげ、肩と同じくらいの高さにあげた。そのまま滑らかに手首をニ、三回クルクル回すと手の甲を地面側に向け、手の平は逆に天へ向けて開き、ふぅっと息を吹きかけた。


「え? えぇ?」


 自分の目を何度もこすってしまった。だって、今目にしている光景が信じられないから。

 手の平に息を吹きかけたと同時に、キラキラ光る小さな粒みたいのが周りに積もっている雪を救い上げ、どこかわからないけれど、一定方向に移動していってる。なにこれ? これって魔法? いやこれも夢の続きに違いない。とてもリアルな夢なんだ。

 現実味がなく少年は夢の世界へ戻るために瞳を閉じたが、肩をぽんと叩かれ、ハッと我に返った。それはとてもリアルな感触で、人の手の厚みと温もりを感じた。


「君もやってみて」


 言葉が通じないとわかったので、左のほうに残っている雪を指さした。なにか指示されているような気がして少年はとりあえずスコップを雪に垂直にさして、テコの原理で雪をすくった。


 すると後ろから、違う、あれは違う、と否定の声が聞こえてきた。

 なにが違うっていうのだろう。ただ雪かきをしただけなのに。少年は汗を拭いながら不思議に思った。

 範囲としては五メートル四方。もくもくと懸命に雪かきしたのだけど、ラスボスさんに優しく肩を叩かれ手を止めた。見上げると、頭を横に振っている。どういうことだろう? どんな意味で首を振られているのか少年には理解できずにいた。



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