4 マンデルブロ?
なんか周りがガヤガヤしているような気がする。あっ! 授業中寝てたんだったかな?
……授業中、寝てしまうことなんてあっただろうか? とりあえず目を開けばどういう状況か把握できるだろう。そっと目を開けてみた。
そしてすぐに閉じた。
な、なんかたくさんの目が僕を見ていたような? え? どういうこと?
ドクドクと早鐘のように鼓動が鳴り、少年はもう一度瞼を押し上げるか考えだした。
現実味に欠ける着ぐるみの女の子をお化け校舎の裏で出会って……。それからどこかへ連れていくって言われたような。いやそうじゃないかも。白夢中を授業中見ていたのかもしれない。そうだ! 授業中だったんだ。早く起きないとクラスメートのいいカモになってしまう。からかわれるのはごめんだ。
少年は結論に至って慌てて飛び起きた。
そこには少年を見つめるたくさんの視線があった。視線を投げかけている元を辿ればおじいさん、おばあさんたちの姿が少年の目に写った。
なんだこれは。悪い夢かなにかの冗談? そうだ、もう一度目を閉じよう。これも夢の続きにきまっている。深呼吸でもしてもう一度目を開ければきっと――――。
心を落ち着かせて少年はゆっくりと目を開いた。
あ……れ? さっきと光景が変わらない。どうしてだ?
少年の動揺とは裏腹に、少年を囲んでいるおじいさんおばあさんたちはの目はより一層ランランと輝かせていた。
「起きなすった! エメさん、エメさん早く早く」
「エメさん?」
少年が「エメさん」と呟いたのを聞くと、囲んでいた人たちがざわざわと騒ぎ出した。
な、なんだ? 何が変なことを言ってしまったのか? それとも新しい夢の始まり? 懸命に思考を巡らせるが、うまく回路がつなぎ合わせられない。
「おぉぉ、起きなすったか。我らの助け手。わしの名はエメエール。短くして皆エメと呼んでる。して、なして我らの言葉で話せるんじゃ?」
「は?」
「異世界からいらっしゃた方々皆、言葉を理解しても話せるまでにはとても時間がかかるのじゃが……、お主まさか異世界住人ではないというオチかの?」
「は?」
異世界住人? オチ? なにを言ってるんだ? しかも異世界って……。ん? 異世界? もしかして、いやもしかしなくても熊の着ぐるみの女の子に出会ったこと、そしてキラキラ光る金色の髪の毛をした女の子に飛びつかれたのも夢ではないっていうこと? その女の子は確か「異世界からようこそ」って満円の笑みを浮かべて言っていなかったか? そ、そうだあの女の子! キラキラ光る金色の髪をしたあの子! あの子はどこだろう。助け舟を出してほしくて少年は姿を探すが見当たらない。タミ爺と呼ばれたおじいさんも見つからなく冷や汗がどっと出てきた。
「ここはマンデルブロ大陸、東の国、ウルサの町なんじゃが、お前さんはどこから来たんじゃ?」
「……東京だよ。っていうか、なんですか? マンデルブロって」
そうだ。あの子……、着ぐるみの女の子もマンデルブロって言っていた。少しずつ自分に起きた出来事を少年は把握しつつあった。さらに少年が先を続けようと口を開きかけると、
「マンデルブロとはな――――」
背を丸めて座っているエメさんと呼ばれた老人、エメエールが先に言葉を続けた。自分の長い白髭を撫でながらどこか遠くを見つめながら。そして深く息を吸うと先ほどまでしゃがれた声は何処に、突然朗々とした声が響き渡った。