表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
43/48

6 お金の行方と

 女の子たちから奇異な目で見られながら、晃はミシルの部屋に連れてこられた。

 以前来たときと変わらぬ、うららかな日差しが差し込み部屋が暖かい。


「アキラ、そこに座って」


 木製のテーブルと対になっている椅子を指さしてミシルは促した。


「は、はい」


「さてさて、賃金がどうとかヒマリの部屋で言っていたようだが」


 ミシルも椅子をかたんと鳴らして晃の向かい側に腰をおろした。そして、テーブルの上に人差し指で大きな円をゆっくり描き出した。一体なにをしているのだろう? と不思議に思いながらミシルの指さきを見つめていると描いた円の中央部分からゆっくりと白っぽい陶器がテーブル表面から頭を出し始めてきた。


「えぇ?」


 ゆっくりせり上がるさまに晃は目を丸くして見つめるしかなかった。ちょこっと覗かせた白っぽい陶器は次第に姿かたちがはっきりしてくる。それは二つのティーカップにソーサー、そしてティーポットだったのだ。


「それにしても本当にヒマリの部屋に行ったことは関心しないな」


 ふぅと息を吐きながらも、ミシルはティーポットに手をかけてカップに注いだ。飴色のお湯が注がれ湯気を上げている。晃はテーブルから顔を出してきたティーセットに驚き、ただただその様子を見つめることしかできない。


「まぁ、ヒマリの強引さについて私も気づいてはいたのだが……。アキラはそういう誘惑に打ち勝てるかと勝手に思い込んでいたんだ。悪かったね、アキラ」


 ソーサをゆっくり晃に渡しながら吐露した。


「え?」


 流れる動きで渡され素直に晃は受け取ったが、ミシルの言葉に首を傾げた。ミシルさん、なにを言わんとしているのだろうか? と。


「アキラも耳にしたことがるだろう? 私は宿舎で起きるあらゆることに精通しているということを」


「あ、はい」


 確か同じ内容をフミさんかヒマリさんが言っていたような……。うろ覚えの記憶を晃は辿った。


「まぁ大抵は知っていても目を(つむ)っておくんだが、今回のように規約に反することや、目に余ることが起きたとき、私は容赦しない。容赦しない、と言ってもまぁ大概賃金からペナルティを引くくらいしかしないのだけどね。だが男が女性の区画に勝手に入る、ということを起こしたらこの特別地区から追放と定められているのだよ」


「え……」


 本来受けるはずだったことを突然言われ、晃は固まってしまった。


「捻じ曲げることは好かないが、アキラに免じて……だ。でも二度はないぞ?」


 そう言いながら右手で宙に円を描くと、その円の中へミシルは手を伸ばした。伸ばした先は別の空間が繋がっているのか、ミシルの指先は晃から見れない。そのままぐぐっと肘あたりまで進めていくと数秒止まり、んーと小さな声をあげながら、ミシルは平たい皿をそこから引っ張り出した。バターの風味がほどよく香るクッキーを乗せた皿を。

 皿をテーブルに乗せると、すぐにミシルは手を伸ばし口に運んだ。サクサクとクッキーを砕く音が部屋に響く。


「女風呂を間違って覗いてしまったり、ヒマリに無理矢理部屋へ連れて行かれた、とまぁ不可抗力、尚且つアキラが下心ない、というところで非難や追及は免れたが、今後もっと気をつけるように」


 カップに注いだお茶で口の中のモサモサ感を消そうとミシルはゆっくり飲み干してから、晃に注意をした。


「はい。すいません」


 不可抗力、と晃は納得しようとしたが、なかなか割り切れなく、膝の上で固く握った拳を見つめるしかなかった。そして自分の不甲斐なさを痛感した。一つはフミの話をしっかり聞いておけば起きなかったこと、もう一つはヒマリの誘いをきっちり断れば、ヒマリ自身に迷惑をかけなかったことだということを。


「まっ、そんなに気落ちした顔をしないで。お茶もあるし、お菓子もある。食べて少し気を晴らしなさいな」


 一口も口に含んでいない晃のカップをミシルは取ると、自分の空になったカップに注ぎ入れ、新しく晃のカップに()ぎ足した。


「あ、あの……、それで賃金の行方は一体……」


 このままミシルのペースで話されてると尋ねたい本筋を見失いそうに思えて、おそるおそる晃は尋ねた。


「ん? あ、あぁ!! そうだな、そうだった。すまない。すっかりここに呼んだ理由も忘れるところだった。うん、賃金はとりあえず私が持っている、というのが正しいと思う」


「……へ?」


 さらりと言ってのけたので、そのまま晃は聞き流すところだった。


「ん? だから皆が稼いだ賃金は私が全部管理しているのだよ」


 どこがおかしいのだろう? とミシルは不思議そうに首を傾げた。


「あの、それって……どういうことです?」


 言っている意味が理解できず晃は聞き直した。

 ミシルさんが全部管理? 働いている人に一銭も渡していないということ? え? そんなことってあるんだろうか?


「皆働きに出て、部屋を開けることが多いだろ? 掃除しに部屋に出入りもある。部屋に置いておくと、いらぬ誤解を生む。それに必要なものは、ほぼ支給されるからね。まぁ高望みしてしまうと色々お金はかかるが。普通に過ごしていれば特にお金など必要ないだろ?」


「え?」


「どうしても必要なときは、私に使いたい金額を告げてくれればいいだけなのだよ。チャララ~ンとすぐ用意するから。あ! でもこれだけは気をつけておかないといけないな。稼いだ賃金がペナルティを重ねてマイナスになっていると、頼まれてもお金は用意できない。そういう仕組みになっているんだ。どうだ? アキラ。理解できたか?」


「はい。まぁ……」


 つまりミシルさん自体が大きな銀行で預け口も引き出し口も全部一手に担っているということなのか……。でもそれって、宿舎にいる人たち全員のお金の動きを把握しているということ? それはそれですごいんですが。

 ようやく賃金の行方を知れて安心するも、必要なときミシルに用途を説明しなければいけない、という課題も浮き彫りになって、晃はおののいた。


「で、アキラはなにか入り用なのか? 賃金、賃金と結構しつこく聞いているようだが」


「あ、は、はい。まぁ……。で、でもまだあのマイナスだと思いますし、必要な額に全然達していないかと」


「ふむ」


 ミシルは腕を組んで少しの間考え込んだ。考え込んでいる最中に組んだ腕で押しつぶされた胸の肉厚に自然と視線が引きつけられ、顔を赤くさせていた。あ、相変わらず目に毒な格好で……。ヒマリとの出来事が落ち着いてきたと胸を撫で下ろしていた晃だったが、あっという間にドクンドクンと鼓動が早くなってしまった。


「んー……なんだかんだで――。え? 20ブローしか溜まってないだと? ものすごいペナルティついてるじゃないかアキラ!」


 考えても答えがすぐに出てこなく、ミシルはクッキーの皿を取り出したときと同じように、分厚い本を空間から抜き出しパラパラめくりながら驚きの声をあげた。


「十日ほど働いてこれしかお金が溜まってないとか……。目もあてられないな、全く」


 パタリと臙脂(えんじ)色の表紙を閉じながら深々とミシルはため息をついた。


「す、すいません」


「謝らなくていい。ただ、もう少し賢く、(さと)く行動しないといけないよ? マイナスが続くこともいけない。負債をこっちは抱えたくないから金額が膨れたらそれもまた特別地区から出て行ってもらうことになる」


「はい」


「しかも今回の減給ときてるし。悪いが今回は二つの作業合わせて一ブローずつ。一日働いても二ブローしか稼げないからな」


「え……」


 どんどん目標金額から遠ざかっている現実に、晃はショックを隠せない。


「え、ってそれほど深刻な事態を招いたのだよ。自覚がなさすぎて私はアキラが心配だよ?」


 しょげている晃の顔をミシルは体を乗り出して覗き込んだ。

 たゆん、と。そして豊かな谷間を作ったミシルに晃は慌てて顔を手で覆った。や、やばい。い、いまのはマズイ。近すぎるし、は、ハッキリとみ、見えてしまった。た、た、谷間が!!

 零れ落ちそうなミシルの無防備な胸に、心拍数があがった晃はこのまま気を失ってしまうんじゃないか、というほど頭のなかが沸騰していた。


「顔を隠すな。私の胸がそんなに毒か? 減るものでないし、堂々と見たらいいのに。だってアキラは邪な目をもっていないのだろう?」


 ぐぐっと、顔を覆っている手を引きはがそうと、更にミシルは体を乗り出した。カチャカチャとティーカップやティーポットが音を立てる。


「い、いやあ、あのや、やめてくださいっっ」


 減るものとか減らないものとかじゃなくて……。必死でミシルの抵抗に反発する晃であった。しかしそのこと自体を楽しむかのように、ミシルはなおもしつこく顔を覆う晃の手をどかそうと画策した。

 そこまではよかったのだが、悪ノリが災いしてしまった。ミシルがフッと手を離そうと力を弱めた瞬間、二人ともバランスを崩し、床に転げ落ちた。


ガシャン、バタン、ドシンという派手な音とともに――――。


10日経過してアキラの【所持金20ブロー】と判明。


1日で稼ぐ賃金は15ブロー。今回の減給で1日=2ブローへ。

2ブローな日々が7日間。



ブ、ブラックですか??(-∀-)今更?

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ