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4 告げ事と急降下

 お昼を食べ終わった僕は、ちょっと困っている。

 お、女の子の部屋って男部屋と真逆にあるじゃないですか。そこまでどうやって行けと? そもそも掃除以外で行っていいのかわからない。

 食事後、食堂近くの共同トイレで手を洗いながら、晃は宿舎の地図を頭で思い描きながら唸っていた。


「あ、いたいた。アキラ! 行くよ」


 ひょこっと出入り口から顔を覗かせたのはヒマリであった。


「え? あ、ちょっと、ここ男子用なんですけど」


 覗かれた晃のほうが慌ててヒマリに駆け寄った。


「まっ、気にしない気にしないっ。いまなら人少ないし、行くよっ!」


「ちょ、ちょっと待って、うわっ、ちょっと」


 ヒマリに力強く手を引かれ、前につんのめるほどの勢いで先を()かされた。


「ちょっと、ヒマリさん、は、早いですってば」


「いいのっ! このくらい急がないと同室の子が来ちゃうからっ」


 足早だったのが次第に小走りに、最後はダッシュでヒマリの部屋に引きづり込まれた。

 向かう途中、ヒマリが言ったように女の子たちが寝起きする区画にはほとんど人がいなく、その少なさに晃は違和感を感じた。晃たち男子区画は昼過ぎの作業に向けて、慌ただしく人が行き来していたから余計に。


「ご、ごめんね。急がせちゃって。ハァハァ、せっかくご飯食べたのに、すぐお腹すきそうだね」


 ボフッとベッドにダイブしながらヒマリは晃に謝った。


「い、いえ。だ、大丈夫です。えっと、同室の子、来ちゃうんですよね? だったら早速ですけど、さっき言いかけてたこと教えてください」


 どこに腰をかけたらいいのかわからず、晃は玄関のそばで立ったまま尋ねた。


「えー。どうしよっかなぁ」


「え?」


 部屋に入ってしまえば簡単に教えてもらえると思った晃は、予想外な返しをされて固まってしまった。


「え? ってこっちが〝え?〟なんだけど」


「え?」


 もう一度同じ声を晃は出していた。

 どういうことだろう。心なしかヒマリさん頬膨らませて怒っているように見えるんだけど。笑って約束を交わしたときと様子が変わっていて晃は急に不安になった。


「あのさ、アキラ。最近アミさんばっかり見てるよね?」


 うんしょ、と言いながらヒマリは体を起こし、ベッドに腰かけた。


「え……」


 晃の体全体がぴょこっと跳ねるのをヒマリは見逃さなかった。しかし、なにも気づかないふりをして先を続けた。


「アミさん、可愛いし綺麗だし、お姉さんっぽいけどちょっとドジっ子だし。いいところいっぱいあるもんね」


「え……、あ、あの」


 危うくすぐに頷きそうになった晃は寸でのところでやめた。ヒマリのじっと見つめてくる視線に気づいたからだ。(まばた)きをせずに真っ直ぐ見つめている視線に。


「いいの。男の人ってアミさんのような人が好きっていうのなんとなくわかるから。私みたいにペラペラ話す子って、うざがられるのよくわかってるの。でもね、でもね」


 ベッドをギシリと鳴らしてヒマリは立ち上がり、ゆっくり晃に近づいた。


「この気持ちは抑えられないし、アミさんには負けたくないって思ってるの。どんな気持ちかわかる?」


 一歩一歩近づくヒマリに晃はどう対応していいかわからなくなっていた。

 これは、なにかマズイ状況だろうか? 逃げたほうがいい? いや、でも働いたお金の行き先を知りたいし。どれを優先したらいいんだろう? と。


「そんなに怯えないで。へんなことしないよ? ただ知っていてほしいの。私の気持ち。アキラのことが好きっていうことを」


 晃の至近距離に近づき、優しくそっとヒマリは告げた。言われた本人は、ただただ瞳をぱちくり開いたり、閉じたりするだけ。それ以外の動作は忘れてしまったのか微動だにしていない。


「ア、アキラ? き、聞こえてた?」


 十数秒経ってもなお動かない晃に、ヒマリは心配して肩をとんとん、と叩いた。


「え? あ、えっと、あ、えと」


 どの言葉から先に出していいのかわからなく、晃はしどろもどろだ。


「私の気持ち、迷惑? いや?」


 互いの息づかいがわかるほどヒマリは更に歩み寄った。あまりにもな近さに、晃はふいっと視線を外してヒマリの揺れるツインテールを見やった。


「どこ見てるの?」


 あからさまな視線の移動にヒマリは膨れながら、両の手それぞれで晃の頬を挟んで自分の方に顔を向けさせた。


「あ、あのヒマ、ヒマリさん」


 しっとりと自分の頬に触れるヒマリの手に晃は動揺した。

 な、なんですかっ、この状況は。えっと、こ、これは手を振る払うべきなのか、このままにしたほうがいいのか、誰か教えてくださいっっ!! 初めての状況で晃は心の中で絶叫していた。


「冷や汗出るほど迷惑? アキラのこと好きでいちゃダメ?」


「い、いやあの、そういうわけじゃなくて、あの、え……あ……、えぇ? 好き?」


「そ。好きだよ? アキラのことが」


「え、えぇぇ!?」


 ようやく言葉の意味を理解できたのか、晃は改めて驚き、勢いあまって後ろに飛びのいた。


「え? えぇ? なにその反応!」


 飛びのき、ドアにぴとりと背中をくっつけ、片腕で顔半分を隠す晃の行動にヒマリが逆に驚いた。


「え、あ、ひ、ヒマリさんがぼ、僕を好き?」


 顔を真っ赤にさせながら小さく呟いた。そしてランに言われてことが頭にかすかによぎった。


「うん。アキラのことが好きだよ。会ったときからビビっときたの」


「ビビって……」


 ちょっと古い表現だ、と頭の片隅で思いながらもヒマリの真っ直ぐな気持ちにどう応えたらいいか晃は悩んだ。

 女の子から好きだ、なんて言われたことがない僕はこのあと、なんて言ったらいいか全く見当がつかない。僕も好きです? と答えるべき? いや、それはちょっと、いやかなり違う気がする。ここは無難にありがとうございます? それもなにか違うような。そ、それに会ったときから僕のことを意識していただって? そんなことってあるんだろうか?

 ……いや、あり得る。このマンデルブロ大陸に来たとき。アミさんに助けられたとき、僕は――――。

 ゆっくり瞼を閉じながら晃は来たばかりの頃を思い返した。


 〝雪かきさん〟じゃないとわかったとき、唯一アミさんは僕の可能性を信じてくれた人。それがとても嬉しくて。心があったかくなって。アミさんの仕事に対する熱意、仕草どれもが気になって。この気持ちをなんと呼ぶか僕にはまだわからないけれど、ヒマリさんのいまの気持ちってそれに似て……いる?


 え? じゃぁ、それって……。ヒマリさんの気持ちを僕に当てはめると、も、もしかしなくても僕はアミさんのことを? え? えぇぇ? 今まで気づかなかった想いがヒマリのきっかけで晃の中でボンと噴火した。そしてヒマリに対する想いにどう応えるべきか、懸命に考えていた。


  

 どんな言葉が返されるのか内心怯えながら、瞳を閉じたままの晃をヒマリはじっと見つめていた。


「アキラは私のことどうお――――」


 しかし、待てど、まてども一向に晃が口を開いてこないので、ヒマリはしびれを切らして声をかけたちょうどそのとき――。

 ようやく晃の瞼が押し開いた。

 少し眩しいな、と思いながらヒマリの顔を晃が目を細めて見やると「あっ!!」という口を形づくったところだった。

 え? と思った時はすでに遅く、なにか固いものが頭を直撃し、自分の体がムギュと潰れるのを晃は感じた。く、苦しい。胸が圧迫され……る? 頭もジンジンして……。

 痛みを抑えようと腕を動かすと、


「え? なんでアキラさんいるんですか? うわっ、不純、汚いっ、最低っっっ」


 視界が狭くなった部分から蔑んだ目線を晃に向け、言葉を吐く人がいた。それはヒマリの同室であるルミだった。

 彼女は風呂上りで気分がよくなり、晴れやかな気持ちを扉に思いきりぶつけたのだ。まさか裏に人がいるなんて思っていないのでその力は半端ない。だが、ドスンという壁の当たり音ではなく、弾力のある感触にルミは不思議がって扉の裏を覗き見た。ヒマリの制止を振り切って。


 そして見つけたのが晃だったのだ。


 ルミのなかで上がっていた晃に対しての株は大暴落。


「やっぱりアキラさんって女の人に対して誠実じゃないんですねっ! 私のこと助けたからっていい気になって。本当さいってぃ!!」


 そしてルミの金切り声が廊下に響いた。


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