12 筋肉は乙女心を揺さぶるの?
宿舎から郵便舎までは距離があるというのに、走って辿り着いたとき、そこまで息切れしていない自分に晃は驚いた。
これもポポリさんの……おかげだ……よね? 感謝しつつ、ポポリの能力について晃は考えを巡らせていた。
時間を逆に撒き戻すことができた。
僕の体の筋肉の質を根底から変えた。
この二つの事実から考えられることは、ミシルさんと同じように高位魔法使いってことだろうか? もっと別のこともできるんだろうか? ちょっと試してみたいけれど、またお金が絡んでくるんだろうなぁ……。晃はお金のことを思い出して頭を抱えた。
「大丈夫? って、え? アキラ?」
急いで走ってきたのだろう。汗をうっすらにじませながらアミが後ろから声をかけた。アミの声に反応して晃が振り向くと、アミはその姿に絶句した。
「アミさん、お、おはよう」
頭の先からつま先までじっくり見るアミの視線に居心地悪そうにしながら晃は声をかけた。
「え、あっ、お、おはよう。あ、あのさどうしたの?」
アミは聞かずにいられなかった。
昨日までのアキラと全然違う。私と同じような体型だったのに。一夜でなにが起きたの? 筋骨隆々ってわけじゃないけど、ほどよく筋肉がついてて逞しいんだけど!
「どうしたって……、この筋肉?」
「そう! その筋肉。すごいよ。逞しい!!」
目を輝かせながらアミは遠慮なく晃の腕や腹回りを触りだした。急な接近に晃は心臓が飛び出しそうになった。近い! 近すぎる。しかも、ぺたぺた触られれば触られるほどアミさんからいい香りが漂ってきて、ドキドキが止まらない。晃は過剰なアミのスキンシップに高鳴る鼓動を抑えるので必死だった。
「すごいねぇ。昨日まではちょっと頼りなさそうだったのに。すごく頼もしく見えるよっ」
触るのにようやく飽きたのか晃からスッと離れると、にこにこと嬉しそうに伝えた。
「あ、ありがとうございます」
「あとはその遠慮深そうな言い方を直したら、素敵な男の子だねっ」
ふふっと笑いながら先に郵便舎の門をアミはくぐって行った。
素敵な男……。素敵な男になったらアミさんにもっと認めてもらえるのかな? 頬を赤らめてそんなことを考えていると後ろからポカっと頭を叩かれた。
「おい、作業始まってるぞ。って、アキラその服ミドリさんに言って新調してもらいなよっ」
「え? あ、はい。って、チカラさん待ってくださいっ!」
指摘された作業服のことはとにかく、作業開始の鐘が鳴り終わっていたことに気づき、チカラのあとを追って急いで中へ駆けた。
すると、一気に自分に視線が集まるのを晃は肌で感じた。
「わぁぁ、アキラ、すごーい」
ヒマリは作業を放り投げ、アミと同じように筋肉をペタペタと触ってきた。
「すごい逞しいですね」
にっこと微笑みながらミドリもそっと晃の筋肉を撫でた。
「うひゃっ」
ミドリの撫で方が滑らかずぎて晃は変な声をあげた。
「ふふふ。ウブですねぇ」
クスクスと笑いながらそっと離れていくミドリを晃は顔を赤くしながら涙目で見送った。
「やっぱり変態なんですね、アキラさんは。ミドリ姉さんに触られて、気持ち悪いくらいニヤけて。不潔です」
触れようと近くにきていたルミは、ミドリに触れられて変な声をあげた晃に蔑んだ視線を向け、スタスタと作業机へ戻って行った。
「いや、ちょっとっ!」
ルミを追いかけようと一歩踏み出すと、ぐいっと後ろに腕を引かれた。
「ヒ、ヒマリさんっ、あの、離してください」
「やだよぉ。この筋肉の付き方、すごくイイんだもん。盛り上がりといい、お腹の腹筋も」
ぽわーんと瞳を潤ませて、ヒマリはミドリと同じように撫でだした。ぞくぞくと腹の底から熱量が増していくのがわかり、晃は慌ててヒマリを突き飛ばした。
「ご、ごめんなさい」
一礼して、こんもり山になっている自分の作業机へ駆けだした。
「もう少し耐えてくれると思ったのになぁ」
ヒマリはそう小さく呟くと、ペロリと桃色の唇を舐めて後ろ背の晃を見つめた。




