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8 アミの魔法

 町ごとに分けた手紙や小包を僕は魔法で移動させることができないので、集積カゴに運んでいるのだけど、意外に体力がいるなんて。肉体労働を甘くみていた……。

 あぁ、こんなことならもっと真面目に体育の時間を受けていればよかった。筋肉動かす意味を感じなかったのが手痛い。往復を何度も繰り返すと、息は上がるし、腕も疲れてきた。まさか異世界でこんなに体力がないっていうことを痛感するなんて思わなかった。

 ここで働く、っていうなら体力作りもしていったほうがいいのかな。滴る汗を拭いながら今後の心配を晃はしていた。


「あ、アミさんっ」


 マンデルブロ大陸の町ごとに分けた集積カゴを運ぼうと、アミが晃たちの作業場へやってきた。


「アキラ、頑張って働いてるねっ」


 自分のことのように嬉しく感じ、アミは微笑んだ。私のところにいたときは、おどおどして、どこか自信なさげで大丈夫? って思ったけれど、アキラはこの仕事にやりがいを見つけたのかな? そうだったらいいな。晃の額を流れる汗を見ながら頼もしく思った。


「えぇ。ちょっと大変ですけど、自分の分はもう少しで終わりそうで」


「自分の分終わったら、他の人のところも手伝ってあげないとね」


「あ……はい」


 そうか、自分の分が終わったらはい、それで終わり、というわけにはいかないのか……。体力持つかな。流れる汗がひんやりと晃の背中を伝った。


「それはそうと、ねぇ、私がこの荷物をマンデルブロの町に配るんだけど、どうやるかわかる?」


 にっと唇を横に引いて悪戯っ子のように笑った。


「え?」


 晃はアミの言っている意味がわからなく、首を傾げた。ほうきに跨って配るだけだろうけど……。どうって、どういうこと?


「こういうことなのよ」


 フフフと含み笑いをしながら、アミさんは集積カゴの一つをひっくり返した。いや、床にぶちまけたというほうが正しいかもしれない。


「あ、アミさん、小包の中が割れ物だったらどうするんですかっ!」


「え……あ……、ヤバッ。ううん、あ、だ、大丈夫よ多分」


 焦りながら空笑いをした。いや、今確実に「ヤバッ」と「多分」という言葉が聞こえましたけど。晃は訝しげにアミを見つめたが、顔を上げた途端アミの仕草に目が奪われた。


 アミはキラキラ輝く金色の髪を揺らしながら小さな声で心地よい歌を口ずさんだ。そしてまるで指揮をするかのように両手を内側、外側へとゆらりゆらりと振りだしたのだ。すると床に散らばった手紙や小包が次々とコンパクトに収縮していった。


「え? えぇぇ?」


 なんで? どういうこと? アニメで青いタヌキみたいのとか、ちょんまげしたロボットのどっちかか忘れてしまったけれど、物を小型化するライトあったよね。それとまったく一緒な縮み方なんですけど。どうして? なに? どういうこと? 晃は目を白黒させながらアミを見つめるしかなかった。


「こうやって、小さくして袋に詰めるの。そうじゃなきゃ私一人じゃ運びきれないんだ」


 肩をすくめながら寂しく笑った。しかしそんなアミに気づかず、ただ驚きが先にたって晃は呆然としていた。


「晃? だ、大丈夫?」


 あまりにも微動だにしないので、アミは心配になって晃の顔の前で手をひらひらさせて反応を伺った。十回ほど繰り返した頃だろうか、


「え? あ、はい? なんです?」


 と、ようやく反応が返ってきた。


「え?」


 この魔法って結構皆びっくりするんだけど、アキラには珍しくないのかな?

 思っていた反応でなく、アミは逆にしょげてしまった。


「ご、ごめんね。あの、私じゃぁまだ途中だから……」


 コンパクトになった荷物をアミは素早く袋に詰め込み、とぼとぼと晃から離れていった。


 いや、すごすぎる。アミさんってほうきに乗れるわ、物を小さくする魔法を持ってるなんて。でもどうやって元の大きさにするんだろう? 本人がいるんだ、今聞けばいいよね。晃が我に返って顔をあげると、既にアミの姿はなかった。


「あれ?」


 晃は首をひねった。


「いつの間にいなくなってしまったんだろう?」


 そうぼやくと、わき腹を突っつかれ視線を横に移動させた。


「あのさぁ、アキラ、アミちゃんに鼻の下伸ばすのはいいけど、まだ自分の半分くらい残ってるんだよ? 私たちの作業が遅いと、アミちゃんの帰る時間も遅くなるから急いで急いでっ」


 眉間に皺を寄せながら頬を膨らませているのはヒマリだった。ヒマリは晃をせっつくように背中を押しながら、アミの去って行った方向にあっかんべぇをした。

 アミさんのほうがスタイルも容姿もいいかもしれないけど、アキラは私たちといる時間が多いんだからねっ。アキラとどんな繋がりがあっても、私アミさんになんかに負けないんだからっ。絶対アキラを振り向かせてみるんだからっ!

 ヒマリはアミに対し、メラメラと闘争心を燃やしはじめていた。


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