6 再会
中へ入ると、一人の女の子がほうきに跨って、右へ左へ、上へ下へと忙しそうに移動していた。
空を飛べる人って本当にいるんだ! まさに魔女っていう感じがする。あれ? ん? あれ? あの髪の色は……。金色が自然とキラキラ輝いている……。晃はハッと息を呑んだ。
「ア、アミさん?」
郵便舎で働いているって言っていたけど、ほうきに乗れるなんて聞いてなかったんですけどっ! 晃は興奮して、少し離れたところに着地したアミの場所へ走った。
「あ、あ、アミさんっ!」
流れる汗を腕で拭いながら、アミは呼ばれたほうに顔を向けた。
「アキラっ!! え? なんで? なんでここにいるの?」
思いもよらぬ再会でアミは目を丸くした。しかしすぐに破顔し、晃の腕を掴んで嬉しそうにぴょんぴょん飛び跳ねた。
「ア、アミさん、痛い痛い」
「あ、ごめんごめん」
掴んでいた手を慌てて離し、少し晃と距離をとった。
「ぷっ」
アミは口元を片手で覆いながら噴き出した。
「え? え? なんです?」
笑われる理由がわからなく、晃は戸惑った。
「あ、ごめんごめん。晃がその作業服着てるの不思議で」
「あ、あぁ……」
あぁ、わかります。わかります。その突っ込み。僕もこういう格好したことないからむず痒くて仕方ないんです。そう喉まででかかったが、アミの服もなかなか目のやりばに困るもので思わず尋ねた。
「そういうアミさんだって、なんですか? その服」
「え? あぁちょっと暑くて。上だけ脱いじゃった。でも大丈夫だよ? 外に出るときはちゃんと上も着るし、ガウンも羽織るし、マフラー巻いてゴーグルして出ていくよ?」
黒いつなぎの上半身を脱ぎ、袖が泳がないように腰に巻きつけている。つなぎを脱いだ上半身は薄い生地のタンクトップ。しかしその下身に着けている黒いブラジャーがチラチラ見れて刺激的で晃は目のやり場に困った。色がわかるくらいタンクトップが透けてるってどういうことなんですか? アミさんっっ! くるりと一回転しているアミに、晃は鼓動の高鳴りがばれないように隠すので必死だった。
「アキラから見て、へん? 涼しくて私は好きなんだけど」
晃の視線が泳いでいることに気づき、アミは少し屈んで晃の顔を覗き込んだ。
「うっ」
慌てて晃は両目を覆った。
やばいっっ!
まずい。
見えた。
見えたんですけど、あ、あれが。あれがっ!
もはや晃は平常心でいられなかった。アミの胸の谷間をタンクトップの隙間から見てしまったのだ。どくんどくんと血液が沸騰してくるのが自分自身でもわかり、じりじりと後ろに後ずさった。しかし、アミはそんな思いに気付くはずもなく、晃が本当に具合を悪くしてしまったと心配した。おでこの手をかざして熱を測ってみようと、アミはにじり寄った。後ずさりとにじり寄りを繰り返し、とうとう晃は壁まで追い詰められた。
「ひぁっ」
背中に触れた壁が思ったよりひんやりとした感触で、晃はおかしい声をあげてしまった。くすくすとアミの笑い声が漏れた。
「アキラ、本当に大丈夫? もし具合悪いんだったら宿舎長呼ぶけど」
心配そうに丸い目を潤めながら聞いてくるので、なおさら晃の心は乱れた。
「だ、だ、大丈夫ですから、はい。あの、うわっ」
横から急に腕をひかれて晃はよろけた。
「アキラっ、アミさんとなにイチャイチャしてるの? なんでアミさんに話しかけてるの? 髪が綺麗だから? 外見も可愛くて綺麗だから?」
矢継ぎ早にまくし立てたのはヒマリだった。晃の腕を掴み、頬を膨らませてアミを睨んでいる。
「え?」
「な、なに言ってるのヒマリちゃん」
晃とアミの声が重なりあい、不審げにヒマリは二人を見やった。
「あやしぃー」
今度はジト目で見ている。
「あ、あのね、ヒマリちゃん、アキラとはね」
アミがアキラとの関係を説明しようとしたとき、郵便仕分けを始める始業の鐘が鳴り響き、その声はかき消されてしまった。そしてそのまま晃はヒマリに引きづられるように連れていかれた。
アミはただただ二人の姿を見送るしかなかった――――。




