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3 トンネルの先

 トンネルを通り抜けるとそこは温かでうららかな春の日差しが降り注いでいた。着ていたコートが意味をなさないくらいに。コートを止めていたボタンを外しながら、晃はゆっくりと空を見上げた。

 白い鳥が数羽、澄んだ青空を気持ちよさそうに飛んでいた。


「おぉぉ」


 晃は声をあげたまま、開いた口がふさがらないでいる。そして目に見えるところをあますことなくキョロキョロと見渡し始めた。

 アミさんと歩ってきた光景と全然違う。木々は青々と葉を生い茂らせてるし、花もカラフル。植物が生命に溢れてるように感じる。雪が降るほどの寒さはここにはなくてまるで別世界みたいだ。

 晶の見渡す姿にアミは面白そうに見ていたが、目的の場所に近づいてきたので晃の肩を軽く叩いた。


「あれが宿舎だよ」


 アミが宿舎だ、と指さすのは、晃がいた世界のヨーロッパにある中世の庁舎のようだった。白いアーチ型の回廊の上には赤レンガが敷き詰められ、建物を形成している。その中で高い塔が一つそびえ立っていた。


「どう……かな?」


 驚きの声をあげた以外、言葉が出ない晃にアミはおずおずと感想を求めた。


「え? あ、なんていうか凄いっていうか。雰囲気があっていいね。それにさっきまでいた外と気候が違うし」


「でしょでしょ? ここは特別区なの」


 顎先をつんとあげて得意げにアミは言った。


「特別区?」


 聞き慣れない言葉で晃は首を傾げた。


「そう。ここにウルサの町の拠点のみならず、マンデルブロの主要機関が集まってるの」


「主要機関?」


 次々と出てくる言葉に晃はオウム返しのように聞き返した。


「まぁ簡単に言っちゃうと政治を動かす機関が入ってるの。それとマンデルブロ大陸を治める王宮も。あ、あと私の働く郵便舎もね」


 一つずつ指おりながらアミは簡単に説明した。


「……へぇ」


 それ以上の説明があると思っていた晃は面食らった。


「……あの、それじゃぁ、宿舎にはどんな人がいるんです?」


「そうね、宿舎には主に郵便の文字読みの人、王宮で仕えてる人、ここを美しく保つために雇われている人たちが寝泊りしてる場所っていったらいいかな。それ以外にこの特別区を支えてる人たちもいるらしいけれど、詳しくは私も知らないんだ。ごめんね」


 チロっと舌を出してアミは晃に謝った。


「け、結構な人数ですよね?」


 目の前の建物を見る限り、規模が小さいですよね、とは言えない。横幅が長いし、縦もなかなかあるし。そんな中、右も左もわからない僕が突然入っても大丈夫なのだろうか。晃は不安になった。


「まぁ結構いるけど、仕事時間のほうが多いからね。宿舎には寝泊りするだけって感じだから大丈夫だよ?」


なにが大丈夫なのだろう? と思いながら入り口の黒光りする鉄の大きな門の前で待っているアミのほうへ晃は走り寄った。


「ここが宿舎の通用口。宿舎にいるひとたちは皆、ここを通ってそれぞれの仕事場へ行くの」


「へー」


 晃は扉の取っ手に気を取られていて生返事をした。

 気のせいか取っ手の輪を咥えているライオンの装飾が光ったというか、目が動いたようなのは気のせいかな? 晃はふるふると頭を振って考えを消そうとした。しかしその思いを砕くようにアミはライオンの顔に話しかけだしたのだ。


「アミ・マンデルブロです。昨日お伝えしましたが、一人こちらで預かっていただきたく……」


「聞いてる。入りなさい」


「うわっ、ラ、ライオンが喋った」


輪を咥えたまま器用に口が横に開いたり、縦に開いたりして動いているのだ。びっくりしないわけがない。扉の取っ手が――、ライオンが喋るなんてっ! 後ずさりしながら、もう一度動くかと期待して晃は目が離せなかった。しかし、口が動く前に重厚そうな扉がゆっくりと開き出した。


「アキラ、中へどうぞだって。行こう?」


「あ、はい」


 もう少し観察したいと晃は思ったが、アミに促されるまま後をついて中へ入ろうとした。


「アミ・マンデルブロ。待ちなさい。貴女は入らなくてよいのです。昨日仕事をしなかった分、貴女には働いてもらわなくてはなりません。後ろにいる少年……、異世界から来た少年だけ入りなさい」


「え……でも」


 宿舎長にアキラの紹介するつもりで私、来たのに……。アミは困った表情を浮かべた。


「宿舎長が異世界の少年だけ、ご所望なのです」


「そう……ですか」


  項垂うなだれながら、アミは晃に道を譲った。


「アキラ、ごめんね。私も中に入りたいけど……」


 まさかここで入らないでほしい、と言われるとは思わなかった。久しぶりに入れると思ったのに。肩をおとしながら上目遣いで晃を見つめた。


アミさん、なんだか目を潤ませてる? なんでだろう? 晃は不思議に思ったが、それを尋ねることなくアミの前を通りすぎようとした。が、くいっとコートの裾を掴まれて晃は足を止めた。


「あ、あの?」


「え、あ、あの……アキラ。靴、返しに郵便舎のところに来てもいいんだからね」


 耳を真っ赤にさせて言うと、アミはくるりと背を向けて回廊を走って行ってしまった。

 私なにをしてるんだろう。アキラを引き留めようなんてして。靴のことなんかより、ちゃんと頑張ってね、て笑顔で送り出してあげればよかったのに。私のバカッ!



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