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7 出立(しゅったつ)

 そして、ものの数十分でアミは駆け下りてきた。


 くたびれたジャージ姿は消えて、モッズコートを着こなし、黒タイツに短めの白いプリーツスカートを穿いたアミさんの姿があった。今どきの女の子っぽくて可愛らしい。頬を赤らめて晃はアミを見ていた。

 その視線にアミは気付いているのか気付いていないのかニヤニヤ笑いながら晃に近づいてきた。


「どうかな? 悪くないでしょ?」


 くるっと回って自分の姿を晃に見せつけた。


「は、はい。さっきと……あ、いえ。可愛らしくていいですね」


「!」


 素直に思ったことを伝えた晃に対して、アミは素で恥ずかしくなり、小走りで玄関へ走った。

 なに? 可愛いとかストレートに言っちゃって。聞いた私が恥ずかしいじゃない! 耳まで真っ赤に染めながら編み上げのブーツをはいた。が、ドキドキが止まらなくてうまく靴紐が結べない。


「大丈夫ですか?」


 後ろから声をかけられてアミは腰を浮かせて驚いた。


「え、あ、うん。大丈夫。大丈夫だから」


 アハハと乾いた笑いで返し、震える指先になんとか力を入れて結ぼうとした。しかし思うように動かなく、蝶結びではない違うものに変化していた。いつもなら簡単にできることができなく、アミは恥ずかしすぎて急いでほどこうとしたが、ほどけない。


「僕やりましょうか?」


 聞くか、行動に移すのが早いか、晃はアミの前に回って絡まった靴紐を丁寧にほどき始めた。


「あ、ありがとう」


「いえ。大丈夫ですよ。それに結んでおきましたから」


 蝶結びされた左右の輪は、均等に保たれている。アミはほう、と感嘆の声をあげた。


「い、意外に器用なんだね」


 自分よりうまく結べていることを悟られないように言うも、視線はあらぬ方向へ泳いでいた。


「……アミさんって意外に不器用なんですね」


 定まらない視線に気づき、にやりと笑いながら晃が言うと、アミは頬を膨らませ、つん、とそっぽを向いた。


「そ、そのなに? ださいコート」


 アミは話題をすり替えた。


「あ、これですか? タミ爺が押入れから引っ張ってきてくれました」


 不自然な話の切り替えに晃は苦笑しつつ、立ち上がった。ださいコート、と揶揄されたコートの両サイドを摘まみながら説明した。体にあっていないのか、左右のだぶつきが見るだけでもわかる。


「私の貸してあげてもよかったんだよ?」


「あ、大丈夫です。ちょっと大きいですけどあったかいんで」


「そう?」


 コートに着られているって感じだけどいいのかな? 背丈もあまり変わらないし、着丈も同じくら……。そこまで思い巡らせて、すぐにアミはかき消した。本人がいいって言ってるんだからいいの、いいの。言い聞かせながら深く息をはいた。


「靴はタミ爺ので我慢してね。さすがに私の履けない……。ってそれ……」


 ファーであしらっているもこもこしたブーツを晃は進んで履いていたのだ。


「え? これタミ爺のですよね? 茶色くてモサモサしてるのって言われて」


 悪びれた様子もなくアミは頭を抱えた。モサモサって言われてるんだから、もこもこ、モフモフしているのは外すでしょっ。しかもまたサイズが大体一緒ってどういうこと?


「あのね、アキラ。タミ爺のあっちなんだけどね」


 右斜めにある、藁で編んだ長靴を指さした。


「え? えぇ?」


 民芸品を置く場所がないから置いてあるのかと思ったけど、違うの? え? あれ昔のテレビドラマで雪国の山の中歩いてるの見たことあるけど、現役なの? 嘘だろ? 晃は目をぱちくりさせてアミと編み込んだ長靴とを交互に見やった。


「ま、まぁ履き心地は私の方がいいと思うけど……」


 まさか、靴のサイズまで大体一緒だなんて、ショック。男の人って大概女の人より大きいって聞いてたのに。私が大きいってこと? さらに深いため息をアミはついた。


「あ、あのやっぱり履き替えます」


 アミの不機嫌さに気づき慌てて晃はブーツを脱ごうとした。


「あ、いいの。いいよ。それ履いて。ただ向こうで服とか支給されたらちゃんと返してよ?」


「は、はい」


 人差し指を突き出して言うアミの姿が可愛くて晃は返事につまったが、すぐに頷いて答えた。


「それじゃぁ行こう!」


 アミが先に立って玄関のドアを開けた。


 陽が昇って間もないというのに、外は明るく輝いている。その光を受けてアミの髪がより一層煌めき、晃は眩しそうに目を細めた。


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