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6 らくだ色

 昨夜の鍋は美味しかった。お米系の粉で作った筒状のもちっとした感触のが特に新鮮で。どこかで見たことあるような気がしたけれど、名前が思い出せなかった。そして食材を入れた鍋の中は、鶏肉から滲み出てきた旨みが、ベースの醤油味をしょっぱすぎないように加減していた。出来上がりを食べると予想以上に美味しくて、ご飯のおかわりをお願いしていた。普段ご飯をおかわりすることなんてなかったのに。さらにそのよそわれたご飯のお米が甘くて驚いた。噛めば噛むほど甘味が増すってこういうことを言うんだろうな、って実感することができた。


 満腹にさせてもらって、お風呂まで貸していただいて、至れり尽くせりだったのだけれど、どうして僕は女性もの服を渡されているのでしょうか?

 アミの手から渡される服に晃は困った表情を浮かべて立っている。


「なにその不満そうな顔」


 不服でもあるの? と言わんばかりの釣り眉でアミは晃を見ていた。


「いや、あの不満ではなく疑問なんですけど」


「だってタミ爺の服じゃいやだっ、て言ったじゃない」


「そ、そりゃそうなんですけど」


 下着はタミ爺の新品のをいただきました。長袖の肌の色をもう少し濃くした、えぇとなんだったかな。肌色じゃなくて……そう! らくだ色だ! そのらくだ色の肌着に、同じ色のももひきを。そのあとに「これなんかどうかの?」とタミ爺に出されたのは、だぼっとしたスエット生地のジャージでした。しかも大ぶりの花柄が鮮やかに描かれていて……ド派手でした。いや服を貸していただけるっていうだけで感謝しなければいけない、と頭ではわかっていたのだけれど。どうしても受け取れませんでした。そして今、らくだ色の肌着だけ、というマヌケな出で立ちでアミさんの前に僕は立っています。

 恐々とアミから渡された服を受け取りながらも、恥ずかしすぎて晃の足は震えている。広げると紺色のレギンスっぽいのと、トップスはクリーム色のタートルネックのセータだった。晃は思わず安堵のため息をもらした。


「なにそのため息? 私がタミ爺みたいに変なの渡すと思った?」


「え、あ、いえ」


「そうかなぁ? タミ爺の孫娘だから、もっとすごいの渡すのか? なんて思ったでしょ?」


 アミはかがんで少し頬を膨らませながら晃を覗き込んだ。


「いえ、そんなことはありません。はい、ありません」


 急に顔を近づけられて、晃は驚いた。ドキドキと鼓動が早くなるのを沈めながら、首を振って慌てて否定をした。


「そう? ならいいけど。でもサイズ大丈夫かな? ちょっと着てみて?」


「あ、はい」


 アミが見つめる中、晃はどぎまぎしながら服に腕を通し、はた、と気づいた。


「あ、あのちょっと遠くに行ってもらえませんか?」


「え?」


 なにを言っているのだろうとアミは首を傾げた。


「あ、あのももひき脱ぎたいんですが」


「うん。どうぞ」


 真顔でアミは返した。

 え? えぇぇ? ここで脱いでって言われてるのか? えぇ!? 思わぬ切り替えしで晃は動揺していた。


「ほら時間なくなっちゃう!」


「い、いや、あのちょっとそれはそれで違う話で。ア、アミさんは平気なんですか?」


「だからなにを言ってるの?」


 さっさと着替えない晃に対してアミは眉をひそめた。なににこだわって着替えないのかな? 女の子の前で着替えるのが恥ずかしいの? でもさっきトップスはなんなく着替えてたし。あっ! この後に及んで宿舎に行きたくなくて駄々捏ねてるとか? 


「な、なにってアミさんいいですか? 僕は男でしてね、その……なんというか下着姿を平気で晒せる度胸はまだなくて」


「ん?」


 あれ? 晃が顔を真っ赤にしてるわけを一生懸命探ろうとアミは言われた言葉を頭の中で反芻した。

 ももひきがなんとかで、いまさっき下着姿を平気で晒せる度胸があるとかないとかの話をしていたような? ……あれ? もしかしなくても――。

 晃の言わんとすることが伝わって今度は逆にアミが顔を赤くした。


「あ、や、そのごめん。気づかなくて。き、着替え終わったら呼んでね」


「は、はい」


 顔を手で覆いながら台所のほうへアミは駆けていった。最悪。私なんで平気な顔で早く着替えて、なんて言ってしまったんだろう。ハレンチな子って絶対思われた。恥ずかしすぎる。アミは壁にもたれかかるとズルズルとしゃがみ込んだ。

 

 ほどなくして晃に呼ばれたアミはうだうだ悩むことをやめ、何事もなかったように笑みを浮かべて対面した。――対面したのだがすぐに表情が曇りだした。


「……。ほ、細身でいいわね」


 褒めながらアミは頬を引きつらせている。うわぁ、ちょっと太っちゃって入らないと思ったから嫌味で渡したんだけど。パンツは入っちゃうし、私が着たらデブって見えたセータが、なんなくすとんと着こなして……。イヤな子っ。つま先から首元までざっと目をやりながらアミは悔しがった。


「アミさんありがとうございます。サイズも丁度いいですし」


「う、うん」


 嫌味じゃないってわかっているのに、トゲがあるように聞こえてしまうのは私の心が狭いからかな。ふっと視線を外して床を見つめながらアミは思った。


「で、僕はこれからどうしたらいいんでしょうか?」


 昨日の話しでは宿舎に行ってもらうって言われたけど、どうしたらいいのだろう? 晃は首をかたむけアミの返答を待った。


「あ、ごめんごめん。私の支度ができたら、宿舎に行こうね。ちょっと待ってて」


 そう言い残すと階段を駆け昇って行った。


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