ゆき
あたり一面
ゆき ゆき ゆき
まっしろで凍てつく世界
光を受ければ銀世界
ちらり
ひらり
しんしんと
降り積もる雪があまりにも多くて
人は願った
人の力では片づけられぬ雪の量を
異世界の人間に
それが”雪かきさん”――――。
◇ ◆ ◇ ◆
一階に降りてくるなり、どでん、とお腹を天井に向けて大の字になった。女の子の恥じらいというものをどこかに置いてきてしまったのか恥ずかしい表情など一切ない。むしろ堂々と床に寝転ぶさまは、どこか清々しいほどだ。
「あぁぁ、雪が多いぃ。多いぃ!」
そして不満の声をあげながら脚を甲殻系の生き物のようにジタバタさせた。それに合わせて扇状に広がるキラキラと輝く髪が、足の揺らぎに合わせて床に波打った。
「アミ、この時期は当然のこったろうに」
なに寝言みたいなこと言ってるんだ、と付け加えながら朝ごはんにと鍋を運んできたのは、綿入りの半纏を羽織った初老の男性だった。
「わかってるよ? わかってるけど、けれど、だよ。タミ爺」
くるりと腹這いになって、めくれたシャツからお腹を覗かせながらアミは続けたい言葉を濁した。
「私が生まれたくらいから、このマンデルブロに〝雪かきさん〟が現れないってことが問題だと思うんだけどなぁ……」
外に降り積もる雪の音に耳を澄ませながら、アミは祖父のタミ爺に聞こえるよう呟いた。
「そう……じゃのぉ……」
「だって、私たちの大陸だけ”雪かきさん”っていないでしょ? 他の大陸の”雪かきさん”を頼らないといけなけいから、外にありえないくらいの雪積もっちゃってるじゃん。人力で雪かきするの、結構限界なんだよ? タミ爺だって年々足腰弱ってるしさぁ。特にこの地区、お年寄り多いし……」
「失礼なっ! まだわしらはピンピンしとるわい。今日もちゃんと雪かき手伝うぞい」
「……。タミ爺、この前ぎっくり腰したばっかりなんだから、本当無理しないで家で休んでて」
張り切って腕をまくるタミ爺をアミは諌めた。
「もう全快じゃ、全快っ」
そう言うとピョンと両足を床から離して飛び上がった。が、しかしすぐに腰を抑えて膝をついた。
「あ、あいてて。いててて」
タミ爺は腰をさすりながら苦痛の声をあげた。
「年には勝てないんだから。しょうがないなぁ」
よっこらしょ、と言いながらアミは体を起こすと、タミ爺に肩を貸して床にゆっくりと寝ころばせた。
「年は取りたくないもんだなぁ」
「そう言い始めちゃう自体がダメだってば。それはともかく大陸外から来てもらう”雪かきさん”の到着いつもより遅くない?」
ふっと外に面している窓をアミは見つめた。既に家の一階部分半分ほど雪に埋まっている。陽の光の差し込みが少なく、家の中が薄暗くなってしまうこの現状にアミはため息をついた。
「そうじゃのぉ。確かにそろそろ来てもらわないといけないのぉ」
不精髭をぽりぽりと描きながらタミ爺は答えた。
「このところ来てくれてるあの”雪かきさん”かなぁ? あの人じゃない”雪かきさん”っていないのかな?」
「さぁ、どうだろうかねぇ」
いる、とも、いないともハッキリ言わないタミ爺の態度に煮え切れない想いをアミは覚えた。
「まっ、一番はやっぱりマンデルブロに”雪かきさん”が現れるのがいいって私は思うんだ」
窓際まで近づくとアミは、外気と室温の差で曇ったガラスを指で擦りながら呟いた。
ねぇ、お願い。早く来て。そうじゃないとこのマンデルブロが雪で覆われてしまいそうだから――――。
擦った先にある曇天を見上げながらアミは願った。