野外授業③―vs“山”
ドーバ先生の転送魔法によって近隣の平原にやってきた俺達。
近いのだから歩いて行こうと思っていたのだがドーバ先生曰く、 さっさと終わらせて帰りたいらしい。
「先生、Bランクの魔物ってどのくらい強いもんなんですか?」
「ん? ……そうだな、 スライム5000匹ってところか」
強いのか弱いのかわかりにくかった。
「……それにしても広いな」
ドーバ先生が溜め息をついた。
まぁ、 ここから先は俺達の足で探さないとダメだしな……。 見渡してもかなり遠くに“山”が見える程度になにもない、 本当にそんな凶悪な魔物がいるんだろうか。
とりあえず探そうと歩き始めたとき、チョンチョン、 と後ろからつつかれたので振り向いてみると
「リィン~、 もしかしてあれかな~?」
と言いながら横を指差すカーニャがいた。
その方向を見てみる。
「……は?」
なんだか、 とても大きなものが動いているように見えた。 大きなものっていうか……さっき見えてた『“山”』が。
え、 ……“山”?
「これは……笑えないですね」
後ろで結んだ髪の毛を揺らし、 “山”の怪物に戦闘体制をとるレディアス。
俺も慌てて使えそうな“道具”をとりだし待機する。
段々と近づいてくるそれは、 比例するように大きくなっていく。 そこから察するに、 かなりの速度で走っているようだ。
「……っていうかBランクってなんだよ、 あれ森の主っていうか、 “山”じゃねぇか、 目測2、300メートルくらい……? スライム5000匹どころか桁が2つ足りないような……」
「あっはっは~、 あと3桁は足りないと思うニャ~」
思わず愚痴がこぼれる。
ぶっちゃけこう言っていないとやってられなかった。 そもそも魔物と戦うこと自体そんなにないっていうのに、 いきなり“山”が相手ってどういうことだよ……。
っていうか、 カーニャはなんでそんな余裕そうなんだお前。 少しは焦る素振りを見せろよ。
「まー、なんだ。 貴様ら頑張れ」
「えっ! 先生手伝ってくれないんですか!?」
「当然だろう? これは貴様らに課された“授業”だ、 俺が手伝ってどうする」
た、 確かにそうだけど……。
こんな“山”倒せって言われても無理があると思うんですが。
「何より面倒だ」
「それが本音ですよねっ!!」
この人本当に教師なんだろうか。
まだ距離はあるし大丈夫だろう、 そう思っていた時
―ゴオオオオッッ
爆風が、 俺達を襲った。
息ができないほどの風はホコリを散らすように俺達四人を吹き飛ばす。
体がバラバラになるような感覚があった。
地面と空が一気に反転する。
「ぐっ……が……………」
地面に落下するもその勢いはとまらない、
「……………ッ、 ハァッ……ハァッ、 ドーバ先生、 レディアス! カーニャ! 」
10メートルほど転がり、 息を荒げながら3人の名前を叫ぶ。
「リィンさんっ! 上を見てください!!」
返事の代わりにレディアスの焦りの混じった声が聞こえてきた。
言われたとおりに上に目をやると、
大きな塊が俺の上空を真っ直ぐに落下してきていた。
もう、 避ける時間は、 ない。
「ッ……うあああっ!!!」
一心不乱に持っていた“道具”を縦に振る。
そして、 大地を揺らす音と共にその大きな塊が落下した。
「リィンさんっ!! ………なッ……」
「あ、 ぶねぇ……。 死ぬところだった」
かろうじてて生きていた俺。
これ、 岩だよな……、 あの“山”が飛ばしてきたのか?
いやー、 マジで危なかった……、 あと少し遅かったら死んでたな。
「なんですかこれ!? こんな大きな岩が、 真っ二つに……?」
驚愕するレディアス。
説明してやりたいところだが、 残念ながらそんな時間はない。
「レディアス、あいつ止められるか? あれだけでかくちゃ避けようとしても無理だしさ……」
そんなことをしても潰されるだけだろう、 空に逃げる手もあるが向こうは“山”レベルにデカイ怪物だ、 飛んでいる間にぶち当たってしまう。
「わかりました!」
結構無茶なことを頼んだが、 了承の返事が帰ってきた。
レディアスは少し深呼吸をして、
「 ……、 『豪腕で剛腕で強椀なる巨木の使者よ、その身に流れる赤い血に命じしときにその力を欲す』権現せよ! 【木獣竜血樹】!!」
いい感じに恥ずかしい詠唱を終えたその直後、 地響きがあった。
さらに地面に巨大な紋章が現れ、 神々しさを感じる光と共に巨大な影が出現した。
そしてその影と“山”が衝突する。
「……こ……これって、 」
木の幹がそのまま竜の形を成したようなその巨大な体躯、 2級の召喚魔獣の竜か!?
竜の名がつく魔獣なんて始めてみたぞ……。
「リィンさん! 僕の、 ッ……力不足のせいで30秒しかッ…、 持ちません、」
かなり苦しそうに心臓の辺りを掴むレディアス。
魔力が大分持っていかれているようだ。
それはそうか、 100%の性能を引き出してる上にあんな巨大な竜を召喚したんだ、 相応の魔力が必要だろう。 しかもさっきの爆風のダメージだってあるだろうに……。
「なので、 その間に……お願いします……ッ…。」
「なにが力不足だよ! 本当に凄いぜ、 レディアス!!」
ぶっちゃけ、 あの竜だけでも倒せそうなくらいだが、 レディアスが俺を頼りにしてくれた……ということはそう簡単にいかないということだろう。
なら、 その期待に応えるのが筋ってもんだ。
「いくぞッ、 最大出力! 【水圧聖剣】!!」
その四角い手のひらより少し大きめの“箱”は【水圧聖剣】、 これは超高圧を水に加え発射することでなんでもスパッと切れてしまう、 正に聖剣のごとき威力の“道具”だ。
本来、 超高圧を加える際に圧縮された砂などの硬度の高いものを混ぜて使用する【工学道具】があるのだが、 あれはでかすぎて持ち運べない。
だが、噴出口事態は0,1㎜程度なため、 超高圧を加える方法と大量の水が必要な点をどうにかしてしまえばお手軽に持ち運びできる代物となる。
その問題を、 【魔法工学】ならどうにでもできてしまうのだ。
特殊な磁力を発生させ周囲の水分子だけを引き寄せてそれが水に変わるような機能を作り上げた、 超高圧は魔力を限界まで注入することで300MPaの圧を集めた水に加えることに成功した。
これが【魔工道具】、水圧聖剣だ。
もっとましな名前はなかったのか、 といわれてもこれが俺の限界なので仕方がない。
使うのも俺だけだし問題ない……はず。
だが、 弱点もある。
一緒に混ぜる圧縮粉の量が少ないということだ。
……でも、 やるしかない。
“箱”にある小さな噴出口を上方向にかざし、水を放出すると
―ジュオッ
水が出ているとは思えない音が聞こえた。
それは10、20、30と大きく縦に延びて行く。
そして、 一瞬でその長さは200メートルほどに達する。
周りが渇いて行くのがわかる、水分子を草や花からも持っていってしまって、萎れてれいるのに申し訳なさを感じる。
そして、
その【聖剣】を“山”へと振りかざす!!
“山”の天辺に聖剣の先が当たり、
その巨体を二つに切り裂いた。