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魔法工学はどこまでも行く  作者: キーくん
序章【魔法が使えない少年】
6/13

野外授業①

 明くる日の昼下がり、 窓際はとても暖かそうな日の光が射し込んでいる。

こんな日は眠くなってしまうのも仕方ないかもしれない……でも。


「くぅ……んゅ…………」


1時限目から3時限目のこの時まで寝ているコイツは例外だと思う。


「……カーニャ=レイドレット、 起きろ」


 『契約儀式』の教科担任であるコワモテ系男性である【ドーバ=マリヤード】先生がカーニャに注意をする。

だが、 起きていたところで聞く耳を持たない残念系女子、 カーニャにはもちろんその言葉は届かず、


「ふみゅ……また失敗したにゃ~、 リィンの暗殺」


などと寝言を呟く始末。

というか、 夢の中まで俺のことを狙ってやがるのか……、いったいコイツは俺になんの恨みがあるんだ。 しかもランクアップしたまんまだし、 あれ本気だったわけじゃない……よな?


「そんなどうでもいい夢を見とらんで起きんか」


「先生、 その言い方はどうかと思います」


 仮にも俺の命がかかっているのにどうでもいいとは酷いと思う。


そんな俺のことなど嘲笑うかのようにカーニャは再び寝言を呟く。


「うー……魚はバケツ3杯までっていってるでしょっ!」


 数えかたがおかしい。

3匹ならわかるが3杯ってなんだ。

それ全部食べる気なのか、 どんな夢を見てるんだこいつ。


っというか、


「お前、 起きてんだろ」


そう指摘するとカーニャは目を『カッ』と見開き人(俺)をバカにするような表情で、


「テヘッっいたい!?!?」


 と言った。

ちなみに最後の「いたい」は頭の上に本が落ちてきたためだ。

多分ドーバ先生がやったのだろう。


「俺の授業でふざけたことをするとはいい度胸だな、 カーニャ=レイドレット」


 いかにもやばそうなお兄さん的な風格を出すその体躯から発せられる声にはいつもながら恐怖を感じるものだ。 目が『殺すぞ』と言っているように見えるくらいには怖い。


「え、 えへへへ~、 そんな怒らないでくださいよ~、 授業がつまらないからしかたないですにゃ~」


 しかしそこは流石カーニャというべきか……、 全くびびっていないどころか火に油を注ぎやがった。

なんてことをしてくれるんだこいつ。


 ゴゴゴゴ、 と先生の後ろからなにか音が聞こえてくるような、 オーラ的なものを感じた。

クラスメイトも『どうなるんだ!?これ』と困惑と好奇心と恐怖が入り交じった表情で二人を見ている。

そして、 ドーバ先生は「いいか?」と口を開き、 こう言った。


「魚は3びきが健康を保つのに丁度いいんだ、 過度に摂取するとむしろ体に悪くなる、 これからは気を付けろ!」


「先生! 怒るところはそこじゃないですっ!!」


 思わずツッコンでしまった。

以外とこの先生、 抜けてるところがあるのかもしれない、 あの外見だと『海に沈めるぞ』とか『遺言状を用意しろ』とか『生きたままフライにしてやろう』などと恐ろしいことを言ってもおかしくないくらいなのに……。


そんな先生にカーニャも対抗するかのようにこんなことを言った。


「いくら先生でもここは譲れないですよ~、 魚は3杯が定石なんです~」


「だから桁がおかしいから! つか張り合うな!!」


 俺はいつからクラスのツッコミポジションになってしまったのか、 俺以外のみんなは顔を下に伏せて俺たちを見ないように笑いをこらえていた。

このやろうどもっ……。


「リィン=アイレリオ、 貴様うるさいぞ、 俺の授業中に騒ぐな」


「俺が悪いんですか!?」


 突然の理不尽に戸惑う。

おかしい、 断じておかしい、なんで俺が怒られなければならないんだ。


「……次に『契約』の特殊例だが―」


「無視!?」


 せめてなにかリアクションが欲しかった。

これじゃ一人で騒いでる変人になってしまったかのようでとてもいたたまれない。


そして、 ドーバ先生はそんな俺を見て嘆息し、 こう言った。



「…………リィン=アイレリオ、 もう一度言うぞ、 黙らんと貴様の体内にミミズと寄生虫を転送する」


「………………」



さっきの、外見から想像できる台詞の何倍もエグかった。

しかも、 ドーバ先生は転送魔法の権威と言われるくらいそれに長けているのでがちでやりそうなのがリアルに命の危機を感じた。



もう、 黙っていよう。

例え横でカーニャがドーバ先生に本をぶん投げようとしていようがなにも言うまい。


ゴスッ、


「リィン=アイレリオぉおおおお!!!」


「俺じゃないですッッ!!!」


このままじゃ殺られる、 そう思ったその時だった。


『あー、 あー、 ……えー、 カーニャ=レイドレットにレディアス=ドレイク、 そしてリィン=アイレリオ、 至急学園長室まで来なさい。 ドーバ先生も一緒にお願いします。』


……学内緊急通達用の伝言魔法?

なんだって俺達が……。 いや、 よくよく聞いてみると『学園長室』っていってるな……。 なに考えてるんだあの婆さん。


……とはいえ、


「……仕方あるまい、 今から自習にする、 カーニャ=レイドレットとリィン=アイレリオ、レディアス=ドレイクは俺についてこい」


なんとか命が助かったことには感謝しておこう。





俺を含めた三人と共にドーバ先生が教室を出る前、


「騒いでいたものは釘を千本飲ますからな?」


と、 文字の通り釘を刺す宣言をしたときのクラスメイトの感情を圧し殺した表情がやけに印象的だった。

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