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魔法工学はどこまでも行く  作者: キーくん
序章【魔法が使えない少年】
5/13

母親の魔法~マザーマジック~

「ただいま~」


「りぃーくぅーん!!!」


「ゴパッ」



家に帰り、 ドアを開けると誰かが突撃してきた。

ま、 まぁ誰だかわかってるんだけど。

腹部の中心……というか鳩尾辺りに目をやると、 まだ10歳くらいの『少女』がそこにいた。

っていうか鳩尾痛い。


「いつも言ってるよね? 玄関では一旦止まろうって」


「止まったよ? 0,1秒くらい!」


「うん、 それは止まったのうちに入らないんだよ…………」


彼女は、えー、 と口を尖らせ「だってりぃーくん帰ってくるの遅いんだもん」と寂しそうに俯く。


「悪かったってば、 でも突っ込んでくるのはやめてね、 俺の体がもたないから」


「はーい」


その気の抜けた返事を聞き、 制服を近くの服かけにかけながら嘆息する。

多分やめる気ないよねこれ。


「あ、 お夕飯作ってあるよ! お腹減ってるでしょ?」


「うん、 ペコペコ。 今日はなに?」


もしかしたら、 この光景を目の前で見る人がいたら違和感を感じたりするかもしれない。

『小学生』くらいの少女が料理を作って待っていた? 両親はどうした? 妹が代わりに作っているのか? お前が作れよ、 ロリコン……とか色々妄想膨らむことだろう。 最後のやつは妄想もいいところだ、 是非とも熱い語り合いをしたいものである。

あと、 今挙げた妄想のほとんどは的外れだ。

ロリコンではないことはもちろん、 確かに『父さん』は今はいないが『母さん』はいるし、 俺に妹などいない。


……なにが言いたいか、 わかるだろうか。


つまり、




「今日はお母さん特製スープよ!」





驚くなかれ、 目の前にいる『外見年齢10歳』程度の女性が我が母親である。

なにいってんだコイツ、 と思うかもしれないけど、

間違いなく血の繋がった『親子』で俺の母親だ。

そして小学生どころか学生でもない、 実年齢34歳の主婦である。


いや、 ほんと。 なにも知らない人が見たら100%兄妹にしか見えないよね。 自分でもたまに……っていうか3日に一回は疑っていたりする。


とはいえ、 少々子供のような部分はあるが普通の母親であり、 炊事に洗濯や掃除等、家のことはほとんど母さんに任せっきりだったりとなんだかんだ頼りになる母親だ。


「へぇ、 美味しそ……」


食卓のある部屋まで移動して、 俺は驚愕する。


――ゴポ…コポポポ。


毒々しい色の何かが禍々しいオーラを発しながらなぜかお湯を沸かしたときのようにぼこぼこと泡が沸き出ているナニかを見つけたのだ。


……あれはナンダローネ。

きっと毒沼から汲んできた水だよね、 スープとかじゃないよね。 なにしろ特製スープだもんね。



「もうそこに出てるから食べてていいよ!あたしは洗濯物取り込んでくるから」



わかってたよチクショウ…………。

毒沼からわざわざ汲んでくるわけないし、 そもそも毒沼ですらあんな紫色じゃないし、 テーブルにはあの謎の液体しかないし。


パタパタと二階に駆けて行く母さん。

ふぅ……。 いいぜ、 やってやろうじゃないか。

こっちには秘策があるんだ。


「飲み物で流せばどうってことないだろうしなっ! 相殺してやる!!」


スープも飲み物だろというツッコミはこの場合はなしだ。

水が入れてあるであろういつもの入れ物を手にとり、 中身をコップに注ぐ。



だだ、 なんで気づかなかったんだろうか。



――――ドポポポポボチャッ



―入れ物の中身の色が紫色になっていることに。



「………………ふっ、 殺るじゃないか母さん」


味を相殺するどころか累乗されるだけだった。

入れてしまった以上飲まないわけにもいかないし、 いや、 本気でどうしようこれ。


「……少し、 味見してみるか」


食べないうちから危険なものって決めつけたらダメだよな、 母さんが作ったものなんだから。


「よし」


スプーンを手につかみ、 スープにそれの先を入れる。 ……いくぞ。


勢いよくスプーンを持ち上げる!!



「ん……?」


あれ? スプーンを、 持ち上げた。

……はずなのに。

はずなのに。




…………なんで、 柄の先がないんだろうか。




「…………………」


言葉が出ないとはこのことか。

この気持ちをどう表せばいいのか全くわからない。

例えるなら、 謎のスープにスプーンを入れたら柄先が溶けてしまった時のような気持ちかな。


「あれ? まだ食べてなかったの」


母さんがいつの間にか戻ってきていたようだ。

呆然としてたせいで全く気づかなかった。


「ごめん母さん、 スプーン溶けちゃったんだけど」


おおよそ食事中の会話ではない。

母さんはキョトンとして、こんなことを言ってきた


「当たり前だよ、 そういう料理だもの」


「え」


そういう料理、 とはどんな料理だ。

鉄すら溶かす料理を偶々じゃなくて意図して作ったと、 なるほど。



「うん、 ちょっと俺の理解の許容量を越えちゃってるからわかんない」


「そういえばそっか、 どう見ても毒だもんねぇこれ」


「母さん、 それは毒とかそんなレベルじゃないとおもうんだ」


もはや凶器……、いや、兵器か。


「大丈夫だよ、 食べ方間違えなきゃ死なないから!今から教えるね」


間違えたら死ぬんすか。

つか間違える云々の前に色々問題かあると思うんだけど。 どう食べても死ぬ未来しか見えてこない。



「はい、 それじゃ真似してね。 まずはスプーンを入れて……」


―ドポン、ジュワッ


「母さん、 最初から何かがおかしい」


「次にガラスの棒で交ぜて~」


「ねぇ、 聞いてる?」


「はい! かんせい!」


完成した!?

え? 加わった行程ガラス棒で交ぜるだけだけど!?



「……って、 あれ?」


母さんが持っている物に目をやると、不思議なことに気づいた。

ガラス棒が、 溶けてない……?


「大丈夫だから、 ほら、 これつかって食べてみなさい」


母さんから渡されたのはガラスのスプーン。

そうか、 ガラスなら溶けないってことだったのか。

……でも、 だからといって人体が溶けない保証がないのが超怖いんだけど。


「……いただきます!」


でも、 母さんが作ったものなんだ。

きっと愛情的な不思議な力で食べても平気に違いない。 ……そう信じておこう。


「かかってこいやおらぁあああ!!!」


スープを一気に口にかきこむ。

少し咀嚼し、 味を確かめ……飲み込む。

……………………。


「上手い……」


「ね、 いったでしょ?」


こ、これ、 どうなってるんだ!? 鉄が溶けてるのに俺が溶けてないなんて……。


「か、 母さん。 これどうやって作ってるの……?」


そう尋ねると、 母さんは微笑み、 人差し指を口に当ててこう言った。



「『母親マザー魔法マジック』ってやつよ♪」



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