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魔法工学はどこまでも行く  作者: キーくん
序章【魔法が使えない少年】
1/13

魔法に愛されなかった人間

至らない点か多いですが、 よろしくお願いいたします。 楽しんで読んでもらえたら幸です。

 俺はリィン=アイレリオ。

“魔法”が使えないただの人間だ。

この世界、 【アースロード】は魔法社会である。

全ての動力は“魔法”がその役を担っている。

“魔法”がどれだけ使えるかで将来も決まってくる世の中で、 魔法使いとして優秀であれば、 民を守る【王都】の魔導士になることだってできるし、 有名なギルドに就職することだってできてしまう。


そんな、 “魔法”が使えない俺は、 国内でも有名な高等魔法学園【アカシノミ学園】に『入学してしまった』。


そして、 それから一ヶ月ほど過ぎたころ、 “魔法実技試験”が俺を待ち構えていた。


◇◇◇◇◇◇



「それでは実技試験始めッ!」


「地獄の蓋を破る柱」


教師の合図とほぼ同時詠唱により周りの空気ごと焼き付くすかのような音とともに火柱が襲ってきた。

俺に近づくにつれ、比例するかのように火の勢いも増し、 周りの景色が歪んでいるように見える。


「永久の火護」


それに対して俺も『詠唱』をし、半円状のなにかが形成される。

双方が衝突し、 轟音と爆風が生み出された。


「……やはり厄介ですねぇ、 その防御魔法プロテクトマジック、 不意打ちなら行けると思ったんですが」


「残念だったな、 ちなみにこれは防御魔法じゃなくて俺の加護魔法オリジナルな。自動発動だから不意打ちじゃ攻撃は当たらないぜ」


「じゃあなんで詠唱したんですか……」


「ノリだよ、 ノリ。 ……んじゃま、 次は俺の番な」


 そう言って俺は右手を前につきだす。

すると見えない『何か』が手のひらに渦を巻くように集まってくる。

その『何か』は形を形成していき、 ようやくそれがなんなのかわかるようになった。


「風の剣ですか、 しかも無詠唱……どうやってるんでしょうかね?」


俺が作り出したのは風の剣。

……といってもとても不安定な状態で固定されているものだが。


「さぁな、 つーことで行くぞッ!!」


「はぁ……。 リ・メイクフレイ´C4。 権現せよ!『火剣インフェリート』」


 詠唱により向こうは第4級召喚魔法の火剣インフェリートを権現させる。

炎が揺らいでいるが、 きちんと剣の形を成していた。 紅蓮のごとく光るその剣はなかなかに男心をくすぐるものがある。

よく見てみると剣の中心部分は特に光が増している。おそらくあそこが『核』だろう。


 核を破壊しないとこういう場合の魔法は何度消そうとしても消えない。 しかも核を破壊しようとしても普通、 魔法での火と風がぶつかり合った場合、 風の力によって火の力が増大してしまう。


だが、 俺の場合は話は別だ。



「ハッ!!」


 向こうは勢いをつけて俺に斬りかかってきた。

俺もそれに対応するため風の剣を『インフェリート』の核の破壊にかかる。



二本の剣が相対する音が聞こえた。

その瞬間、 『インフェリート』の火力が更に増していくのがわかった。 直接触れてる分けでもないのに、 火傷してしまいそうなくらい高温なのが感じ取れるのだ。

もっとも、 それは俺だけであって召喚者である向こうはそんなもの微塵も感じていないだろうけど。


「お前ら、 やりすぎだ!! 殺し合いじゃないんだぞ!!」


実技試験の監督の先生に怒られてしまった。

……うん、 確かにこのままじゃ危ないよな(俺が)。 そろそろ決着つけないと試合自体止められかねないし。



だから、 俺は、



“普通”にぎ払った。



ビ、 ピシイッ

「……あ」


 すると、 甲高い音とともに火剣の勢いが消えていった。 そしてそのまま、 燃え尽きるかのように消滅していく。


「ッ……」


隙ができたところを、 俺はすかさずそこを狙って斬り倒しに行く……が。


「そこまでッ!」


寸でのところで教師に止められる。

……まぁ、 あのまま斬ったらまずいよな。


「勝者リィン=アイレリオ! あと、 お前らな。いくらなんでも火力ありすぎだ、 特にドレイク! 」


文句というか、 注意の言葉と共に俺の勝利が宣言された。


「すいません……」


対戦相手であるドレイクが落ち込みながら頭を下げた。


「……はぁ、 まぁ、 もういい。 早く教室に戻れ」


 素直に謝る姿を見て怒りか抜けてしまったのか、 さっさと次の試験者を呼んでしまったので、 どうやらのんびりできなさそうだ、 さっさと教室に帰ろう。



◇◇◇◇◇◇◇◇◇



「リィンさん」


 先生に言われたとおり(のんびりと)教室に帰る途中、 後ろから俺を呼び止める声がした。

振り返ると、 そいつはさっき俺と中間実技試験の相手をしていた身長180㎝はありそうな爽やかイケメン男子、 【レディアス=ドレイク】超優等生だ。


「流石ですねぇ、 正直あそこまでとはおもってませんでしたよ。 いえ、 自分の力を過信してたわけではないのですが……ある程度はついていけるだろうと踏んでいたのですがね……」


その特徴的な後ろで結んだ髪の毛を揺らしながら肩を少し落とすレディアス。


「過信してたもなにも、 実際凄いだろ……。 第4級召喚魔法『火剣インフェリート』、 こいつを俺らの年齢で使えるやつなんか早々いないだろ」


 召喚魔法はそもそも扱いが難しいからみんな動物とか使い魔程度しか呼び起こせない。

それが大体12級召喚魔法ってところだろうか。

改めて考えるとこいつはやっぱり天才ってやつか。

そもそも俺は召喚魔法なんかつかえないし。


「貴方からそう言われましてもねぇ……。 無詠唱で魔法を放ったり、 自動発動のオリジナル魔法を使えたり、 普通に規格外すぎますよ。 あとあの風の剣は召喚魔法……じゃあないですよね?」


「まぁ、 召喚魔法とは方式は全く違うな」


つーか魔法ですらないけどな。


「インフェリートを同じ召喚魔法ではなく、 しかも相性最悪である風属性で撃ち破るなんて……普通無理ですよ」


「頑張った」


「『頑張った』ですか、 それを当たり前のようにやってのけてしまう貴方を、 妬みとわかっているのですがやはりズルいと感じてしまいますねぇ」


 少し悔しそうに溜め息をつくレディアス。

まぁ、確かに『ズル』ではあるんだよなぁ。


「いったいどんな練習……、 というより研究でしょうか? したらそのような魔法が使えるのですか?」


俺の横を歩きながらかなり興味ありげに尋ねてきた。


「……『魔法』か」


 みんなは俺を天才魔法使いって扱いをしてくる。

レディアスにだって一目置かれるようなこの生活にもちろん俺は嫌な気はしない。

でも………………。



でも、


これが本当に魔法ならどんなにいいことか。



◇◇◇◇◇◇◇




 俺はなぜだか昔から魔法が使えなかった。

物心つくころにはできていて当たり前な簡単な、指先に光を灯す程度の魔法とすら呼べるのかわからないことすらできない、そんな人間だ。


 周りの奴等はそんな異端な俺を見逃すはずもなく、初等魔法学校6年間いじめられ続けていた。

……俺にはいじめというより拷問に近いものを感じていたが。

当然なのかもしれない、 人は自分と明らかに違う異物を拒絶する生き物だ。



『この出来損ない!』


「……ッ」


そんなことを言われても言い返せない、 だって、 その通りだと思ってしまったから。

魔法によって発達し、 魔法で経済が成り立ち、 魔法が人生を左右する。

そんな世界の中で、 魔法を使えない人間が『出来損ないじゃない』なんて言ったところで負け犬の遠吠え、 誰も聞きやしない。


 火や水、風に土といった子供に使用できる範囲の魔法を見せつけるかのように俺にそれを使ってきた。


威力はたかが知れているものの、 痛いし苦しいし……なによりこんなことをする奴等にすら使える魔法が使えないことへの怒りと自己嫌悪で押し潰されそうでしかたなかった。


それでも毎日、練習を繰り返した。

きちんと“手順”は踏んでいる、 なにも間違っていない。 魔力もある。


だけど、 なのに……ッ!!



「なんで!! なんで…………できないんだ……よぅ……ッ、ぅ……あ゛ぁ……ぁああああ!!!」


嘆こうとわめこうと魔法が成功することは、 結局一度もなかった。



 中等魔法学校1年生になろうとしていた頃、 等々俺は学校に行かなくなった。 流石にこの頃になると使う魔法が強くなってきて、 命の危機を感じたからだ。


命の危機……といっても体もだが“精神”のほうがもっとずたぼろだった。


世界が俺を全て否定しているように感じていた。


父さんや母さんは優しくて、

『魔法が使えなくたって自分の大事な息子だ』

それはとても嬉しい言葉である半面、 自分の不甲斐なさを実感させられる言葉でもあった。


 誰が何を言おうと、 全てがマイナス方向で俺の心に積もっていく、 そして自分で自分がさらに嫌いになる。




『逃げるのか?』


その声は他の誰でもない俺自身だった。


「逃げてない」


『逃げてるよ』


「逃げてないッ!!」


自分以外誰もいない部屋で叫ぶ。

その日は家族は家に居なかったから心配されることはなくてよかった。(もう心配されまくってたけど)


『いいや、 自分から逃げてるよ』


「…………」


いつのまにか、 自分が目の前に立っていた。

それを俺はぼやっとベットの上で体育座りをして見ていた。 夢か、 幻かはわからない。


『なんで、 諦めてんの?』


そう尋ねられた。


「仕方、 ないだろ? どんだけやったって……なんにもできないんだ、 これ以上、 なにしろっていうんだ」


紛れもない、 俺の本心だった。


『じゃあ、なんでできないんだ? 』


「……わからない、よ」


何をしたらいいのかわからない。

俺がここにいる意味もわからない。

なにもわからない。


『そうだな、 俺にもわからない』


俺の幻影も同意見のようだった。



『じゃあさ』


それは、 かろうじて何かにしがみついていた俺の心がそれを手放すくらいに最悪の一言だった。








『お前って、 なんのために生きてんの? 』







頭が真っ白になった。


答えが見えなかったからだ。


魔法が使えない。 ただそれだけなのに異物扱い、 何をしようと魔法は使えない。

そんなちっぽけで短い人生の中、 俺はいったいなんのために生きてきたんだ?




本当は誰もわからないことなのかもしれない、 でも、 俺の精神を完璧に殺すには充分な言葉だった。

“あいつら”に殺されていればよかったとすら思ったくらいだ。


自分で自分にトドメを刺したのだ。


じゃあ、 生きてなくたって、 いいじゃないか。





 死ぬには変わりはないけど、 苦しんで死ぬのが嫌だった、 最後まで甘ったれな俺は地下に適当な薬があるんじゃないかと思って向かってみた。

父さんが『危険』だから入るなと言っていた場所だ。きっと飲んだら危ない薬とかあるかと思っていたんだ。


入ってみるとそこはかなり湿っていて、 少しいるだけで気分が悪くなるような空気が漂っている場所だった。

とりあえず瓶とか、 なにか入れ物を探そうと思った俺は部屋をあさりだす。


少しすると、 瓶じゃなく、 ちょっと新しそうな本を見つける。


俺はなんとなくそれを開いてみることにした。

あのときは別に何も考えずに開いたが、 もしかするとあれが運命とやらかもしれない。




そこには『汝の欲する力を示せ』

とだけ書いてあった。


 なんの本なのかさっぱりわからない、 というかめくってみてもそれ以上のページは全部真っ白、 なにも書かれていない。


 でもその短い一文を見て、 なぜだか希望のようなものを感じた。 どんなに学んでも、 教えてもらっても、 練習しても、 努力は霧散していくかのごとく裏切っていった。


そんなことがあるわけない。

願うだけで何か解決するなら苦労はしない。


でも……もしも、 こんな俺でも何か『力』が得られるのなら……。


 


 だから俺は、 心のそこから……、 なにかに再びしがみつくような声で『魔法が使いたい』と言った。



そしたら――。



◇◇◇◇◇◇



「どうかしましたか?」


「ん? あぁ、 なんでもないよ」


なんにせよ、 本当のことを言ったところで信じるとも思えないし、 バレたら即行退学クビだからな……。


バレないように派手に演出しろとかどんなハードモードだよちくしょう。


◇◇◇◇◇◇◇




その本は今でも持っている。

その本にはたくさんのことが記されている。

この世の原子とよばれる小さなものや、 火の成り立ち、 発生のしかた、 雷などの電気の特性……。

磁力や質量にその他、 『この世の法則性』など。


つまり、この本は。




この世から忘れ去られた『科学』について記された本である。





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