第9話
第9話
「え~とこの後は…カタマソウを混ぜるんだったよね…」
工房にアイシャの声だけが響く。今日は初めてアクスがなにか指示やアドバイスをするのではなく
アイシャ一人で軟膏を作っている。慣れてきたとはいえそれはアクスの監督のもとの話。一人だけで
軟膏を作るのはさすがに緊張するのか手が震えている。アクスは店のカウンターに腰かけちらちらと
アイシャの方を見ていた。
「これを、こうして……」
軟膏特有の何とも言えないにおいが工房を漂い始めた。しかし、アイシャは集中していてその匂いに気づかず、
アクスは嗅ぎ慣れているので特に気にしていなかった。その時…
「おーい、アクス。やってるか…って臭っ」
店に入ってきた客がその匂いをダイレクトに嗅いでしまい、悶絶した。
「一体全体何を作ってやがんだ?」
「軟膏だよ。それより静かにしてろ。今大事なとこなんだよ」
アイシャのほうを顎で示すと納得したのか静かになった。そして。
「できました!!」
アイシャの嬉しそうな声が工房に響く。同時に店のほうでは安心したような溜息がつかれた。
「確認お願いします!師匠!!」
客のことは視界に入らないかのようにアクスにたった今出来上がった軟膏を差し出す。
「まあまて、客が優先だ」
そういわれて初めて客がいることに気づいたらしい。顔を真っ赤にして小さくいらっしゃいませ…
といった。
「こいつは俺の旧友で冒険者のルークだ」
「よろしくね。え~と…」
「あ、アイシャです」
「わかった。よろしくねアイシャちゃん」
「んじゃアイシャの軟膏見てみるか」
「ルークさんの用事はいいんですか?ここに来たってことは何かほしいものがあるんじゃ…」
「いいんだよこいつなら。用がなくても居座るから」
「なっ!?人聞き悪いなあ…まあ、確かにそうだけど。でも今日は違う。ちょうど軟膏切らしたから買いに来たんだよ」
「そうか…ならちょうどいい。この軟膏タダでやるよ」
そう言ってアイシャの軟膏を指さした。
「なあ!?そんないきなりですか!?」
「なんだ?他人に出せないような軟膏作ってたのか?そうじゃねえなら渡してもいいだろうよ」
「そうですけど…」
「アイシャちゃんが作った軟膏か…なんかおっさんが作った軟膏より効果がありそうだな…。もらっとくぜ!」
ルークは話に乗った。その横でアクスが少しムッとした様子で答える。
「効果は期待するなよ。なんせ初めて作った軟膏だ。一応サービスで俺が作った分も渡しておく。
もしアイシャのほうに効果がなかったら使ってくれ」
「わかった。それじゃあアイシャちゃん頑張ってね」
アイシャが作った軟膏とアクスが作った軟膏。二つを手にルークは帰って行った。
「ふえええええええ」
アイシャは話の流れについてこれなかったのか涙目で目を回している。
ポンッ
「大丈夫だアイシャ。俺が見た限りではミスはなかった。それに仮に何かをミスしていて軟膏に効果がなくても
あいつなら死なないから大丈夫だ。あいつはああ見えて強いんだ」
アイシャの頭に手をのせアクスはなだめた。
そして………
一週間後、またルークが店に来た。軟膏を渡してからの一週間、アイシャは心ここにあらずといった感じで仕事をしていた。
ようやくルークが来たと思ったらすぐに飛び出して。
「ルークさん!おはようございます!!」
すごいテンションで挨拶していた
「…うん、アイシャちゃんおは…」
「ところで、軟膏どうでした?ちゃんと効きました?何かありませんでした?」
「ああうん、ほとんど問題なかったよ」
「ほとんど?」
アイシャの顔が曇った
「ただ、においがすごかった。もうとんでもなく臭くなって大変だったよ」
「そうですか…」
「まあ、初めてにしては上出来だよ。元気出してね?」
そこまで話した時奥からアクスが来てその話はうやむやになった。
アイシャのノートには『軟膏のにおいを改善する』と書いてあった。




