第6話
第6話
アイシャは恩返しを終了して俺は一人。ようやく静かな日常が帰ってきた。あの騒がしい
アイシャがいなくなると店の中は少し寂しいような気がした。
「まあ、気にしてもしょうがねえか…よしっ、店を開けるか」
気合を入れて店の扉を開けた。今日からあの静かな日常の再開……
「おはようございます!師匠!」
…はずだった。
店の前に立っていたのは昨日恩返しを終了して家に帰ったはずのアイシャだった。
「………………」
思わず何も言えなくなった。
「あれ?どうしたんですか?あっ、店の前にこんな美少女がいたから驚いちゃいましたか?」
幻かとも思ったがどうやら本物らしい。いつもの笑顔をしていた。
「お前…なんでここにいるんだよ…もう恩返しは済んだだろうに」
そう、恩返しは済んだと伝えたはず、もうここに来る必要はないはずなのに。
「師匠が一人じゃ寂しそうなんで来ちゃいました」
てへっ。と笑っていた。
「ケンカ売ってんのかね、このワン公は…」
「冗談ですよっ」
てへっ。とまた笑っていた。だんだん腹が立ってきた。
「わふっ!?」
むんずとアイシャのほほをつまむと縦に横に伸ばした。なかなか面白いなこれ。
「なにひへふんですか!?」
「なんか腹が立ったから。ほれほれさっさとここに来た理由を話しやがれ」
「いいまふっ、いいまふからはなしてくださいよ~」
最後に思い切り横に引っ張ってから離す。
「はふぅ~~~いふぁいですよ!」
「そんなことはいいから話しやがれ」
さもないと…。そうつぶやきつつ手を構えた。
「わかりました!わかりましたからその手をしまってぇ」
「ッチ、しょうがねえ」
「ちょっ!?今舌打ちしまし…。ああいえ何でもないですだからその手をしまってください!!」
やっぱりこいつをおちょくるの面白いな。
「確かに恩返しは終わりました。しかし、私は手伝っているうちに薬師に興味が出てしまったのです。
こうなるともう止められません。そんなところにふと思いついたのです!師匠がいるじゃないか!と
師匠に弟子入りすれば問題ないじゃないか!!と。ですから、私をこの店で働かせてください!!!」
「はぁ?」
寝耳に水、ハトに豆鉄砲どころではない。寝てるところに耳に水を入れられて飛び起きたら豆鉄砲を受けた気分だ。
いや、何言ってんのか自分でもわからんがそのぐらい驚いた。
「おいおい、どこに薬師に興味を持つ要素があったんだ?」
「私の知らなかった野草についての知識です!クロソウやクルルソウ、クルリソウそれ以外にももっといろいろな
野草についての知識がほしいと思ったんです」
「だから、私をこの店で雇ってください!!私を弟子にしてください!!」
ああ、だから『師匠』なのか。今日アイシャにあってからあった違和感の元がわかった。今までは医者としての
『先生』だった。でも今日は弟子になろうと、なったつもりで『師匠』と呼んでいた。
「……ちなみに、断ったらどうするつもりだ?」
「弟子にしてくれるまで何度でも頼み込みます」
「何度でも?」
「何度でも。一度決めたことは最後までやり通せ。それが犬耳族の掟その2ですから」
ここまで言って、どうやら断る理由がないことに気づいた。この前の採集でセンスがあるのはわかった。センスがなければ
そもそも、クルルソウやクルリソウを見つけることはできないのだから。ドジっ子っぽいからミスをすることもあるだろう。
しかしそれは誰だってそうだ。そうやって経験を積むのだから。そして何よりアイシャのその猪突猛進気味なまっすぐなところが
俺は気に入っているのだ。ならば…。
「…俺は厳しぞ」
「っ!!」
「今までは手伝ってくれるということだったからそこまで仕事は振らずにいた。でも弟子となるんだったら、俺はできる限り多くの仕事をお前に
やらせるだろう」
「はいっ!」
「この前よりもっと深い森に行かせるかもしれない。そこでモンスターに襲われて死んでしまうかもしれない」
「師匠は知らないでしょうがこれでもそれなりに強いんですよ私」
「それでもいいんだな?」
「もちろんです!!」
こうまで問い詰めてみたが俺の心はすでに決まっていた。
「よし、そこまで言うならやってやろうじゃねえか」
「アイシャ。お前を俺の弟子にしてやる。」
「ありがとうございます!!これからよろしくお願いします!!!」
「よし、そうと決まったら開店の準備するぞ。お前の相手をしてたせいで全然準備できてないからな」
「はいっ!!あ、その前に一つ聞いてもいいですか?」
「なんだ?」
「師匠の名前は何ですか?」
「…名前も知らないやつの弟子になろうとしてたのかお前は…」
「そういえば聞いてなかったですね~」
「はあ~、そうだよなお前はそういうやつだ。俺の名前はアクスだ。師匠でも先生でも呼び捨てでも好きに呼べ」
「私はアイシャです!これからよろしくお願いしますね。師匠!」




